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流刑のロト  作者: 野山日夏
日本編(春休み)
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17/34

女が三人揃えば……

 今、許されるならばロトは相対する六つの目の好奇の視線から逃げ出し、既にロトの定位置となっているリビングのソファの上でお気に入りの雑誌と触れ合っていたかった。昨日街に行った晴海が新しい雑誌を買ってきてくれ、それら全てをまだ読み終わっていないのだ。

 今、読む、と表現したが、ロトのこの状態はただ単に眺めるだけ、ともいう。初日繁華街で電光掲示板を見たときには分からなかったのだが、どうやらこの国の文字に対しても自動翻訳の魔法が備わっていたようなのだ。

 つまり、文字を読める必要などないから識字の補正はないというロトの想像が外れた訳である。それについてはどうも、この国では子供ですら文字が読めるらしいことに関係があるようだ、とロトは判断した。

 とはいえ、ロトはそもそも視力がよくないのである。雑誌に書かれているような細かな文字など、顔を近づければ何が書いてあるか読むことが出来なくもないが、そんな風にしてまで書いてある記事に興味がある訳でもない。

 というより、そもそもにして文字を読む気がしない。元の世界ではロトは文字を読めなかったし、読む必要も感じなかった。要するにロトには読書などという習慣は備わっていない訳である。そういうわけで文字が読めることをロトは未だに晴海には言っていない。言ったら最後、書いてある内容を全部読み切るまで新しい雑誌は買わないだとかそういうことを言われそうである。

 果たして、記事も読まずにただ写真を眺めるだけで一体何が面白いのか。日に一度くらいのペースでそう晴海には問われるのだが、この世界の人間のことやら、奇妙な背景の建物のことやら、異世界人であるロトには見るものに事欠かない。それに、晴海もそんなことを言いながらもロトの興味がその辺りにあることはきちんと把握しているようで、今回買ってきてくれた雑誌はそちらの方がクローズアップされているものだった。だからより一層ロトの興味を引く訳である。

 結論、今定位置のリビングのローテーブルから移動させられ押し入れに押し込まれている可哀想な雑誌達の許へ、ロトは今すぐにでも飛びつきたいわけである。

 だが、残念ながら今ロトが置かれている状況がそれを許さなかった。ロトは仕方なしに自分の正面にいる人間達を見る。晴海の自宅、玄関という狭い場所に五人もの人間がいるわけだから、自然と距離は近くなる。晴海と同年代のその少女達に囲まれ、いつかの井戸端会議のときとはまた別の居心地の悪さをロトは覚えた。

 ロトに興味を持ったから友人達が今日家に来るが、くれぐれも常識から外れた言動はするな、と予めロトは晴海から厳命を受けている。この世界、この国において何が常識外れか正直まだ分かっていないのだが、それを言おうものなら恐ろしい形相をされるだろうと思ったので、ロトは何も言わなかった。

「この人が晴海と一緒に暮らしてる、ええと」

 そのうちの一人、三人の中で一番ぱっと見た感じ幼そうな少女が声をあげるが、途中で言葉を止めて視線を横に彷徨わせる。果たして何事かとロトまで首を傾げそうになったが、それよりも先に晴海が少女の疑問を解決した。

「高木亮人」

「あ、そう! 高木亮人さん?」

 どうやら予め春見から聞き及んでいたロトの名前が思い出せなかったらしい。晴海に教えてもらったことで、漸く彼女の問いかけが完成する。

 少女のうちの一人に問われ、ロトは首を一つ振ることで肯定の意を示した。特に何を言った訳でもないというのにそれだけに対してもきゃあ、と黄色い声があがり、ロトは顔を顰める。煩い。だが間髪入れずに隣に立っていた晴海に足を踏みつけられ、無表情へと戻した。

 晴海の説明がないから分からないが、多分常識はずれなのだろう、これも。そんな風に達観気味ではあるものの受け入れられるくらいには、晴海の常識に対する口うるささはロトの中できちんと把握されている。

 今ロトの前にいるのは晴海の友人だという少女三人組だ。正直そのくらいの年代の少女など、城で働くお仕着せの侍女らのうちに何人かいたくらいしか記憶にない。だから、三者三様の、否、晴海を含めて四者四様の容姿やら衣服やらの少女達は雑誌では見たことがあっても新鮮というか違和感があるというか。

 ロトは晴海の今朝がたの発言を思い出した。それは、朝食のホットケーキを焼きながら、そういえば、というくらい軽い調子で発されたものだ。

『あ、今日友達が三人来るから。ロトさんも相手してね』

 晴海の、今日の晩御飯はシチューだから、と同じくらい軽い言葉にうっかりそれを聞き流しかけたロトは、

『は?』

 しかし聞き捨てならない部分に何とか疑問符を投げかけることに間に合った。

『仕方がないでしょ。昨日押し切られたんだから』

 そう言う晴海は既に覚悟を決めているようだった。だが、今日いきなりそれを伝えられたロトはどうしたらいいというのか。単に晴海の友人が来るだけならそれこそ物置にでもまた入っていればいいかと思ったのだが、それではいけないらしい。更に話を聞けば、晴海に聞けばロトに会いにその友人達は来るのだという。

『どうして俺が』

 元来人づきあいなどは苦手としているロトだ。精々皇帝を始めとした城の人間と話したことがあるくらいだが、あれも話というより命を賜り従っていただけに過ぎない。コミュニケーション能力といったものの持ち合わせなどないのだ。会話の結果相手に切れられることくらいならば何度かあるが、晴海が招き入れる相手を怒らせる道理もなければ、寧ろ怒らせてはならない場合なのである。

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