↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

後半

 わたし達の祖先は宇宙からやってきた侵略者だ。元々は星に寄生してその星の生命を食い尽くし、星自体のエネルギーも食い尽くし、寄生した星を殺しては宇宙を漂いまた次の星に寄生する。それを繰り返し、あまたの星を食らいつくし、殺してきた寄生生物、それがわたし達の祖先。

 取り込んだ知的生命体の影響か、単なる進化の賜なのか。ただ星に寄生して星を食い尽くして殺すだけだった寄生生物は、ある時、自我を芽生えさせた。そして、肉体を欲し、文化的活動を望み、寄生した星々でその星の生命体に取り憑いて、自分たち自ら文明を発達させ、やはりその星を壊し尽くし、また別の星に流れ着くを繰り返していた。その繰り返しに嫌気がさした誰かが、どこかの星への永住を望み、それにその他も同意した。あまたの星で文明を発達させ、あまたの星を壊して学んだ彼らは、星を壊さないにはどうしたら良いか理解した気でいて、自分たちなら高度に発達した文明社会を安全に続けられると思い込んで、今までのようにただ流れ着くのではなく、自分たちが生み出した文明の利器を宇宙船に積み込んで、自分たちの永住の地としてふさわしい星を選んで目指して、この星に辿り着いた。

 しかし、そこで誤算が起こる。文明の安定のさせ方、どのように発達させるのか、自分たちがどのようにこの星に関わっていくのか、意見が割れてまとまらなかったのだ。

 ある者達は議論に飽きて、やり方はやりたい奴に任せると、宇宙船を去りこの星に降りて様々な物に寄生し、この星に溶け込んだ。そして、討論に破れた者達から順に同じように船を下りこの星のものに寄生し溶け込んでいった。そうして最後は数人だけが残った。

 結局、討論は結論が出ないまま平行線をたどり、そのうち一人が、やってダメだったら何度もやり直せば良いじゃないかと暴論を提示した。間違えたと思った時点で、更地にしてやり直す。もう既に同胞がこの星に取り憑いているのだから、生命体を新たに生み出すのも、文明をやり直すのも、地形を変えることだって簡単なことだと。確かにそれはその通りであったが、繰り返しをすればするほど星のエネルギーが枯渇していき、最後には星が死んでしまう。永住の地として選んだここを、そのような実験場にはできない。実験、実証は今までたくさんしてきたし、それに疲弊したからこその安息の地を求めての旅だっただろうと、他の者達は大反対をした。その結果、星に降りずに残っていた者達の間で、戦闘が起き、戦場となった宇宙船は墜落した。宇宙船の墜落に合わせて、乗っていた者達も星に堕ちたが、暴論を主張し強行しようとした者を星に連れて行くわけにはいかないと、他の者が結託して箱に閉じ込めて宇宙に捨てて置き去りにした。しかし、箱を完全に締め切る前に小さな隙間をこじ開けられており、その者を完全に封じることはできておらず、箱から星へと細いが確かな道筋がつながってしまった。それを知らず、星に堕ちた者達は、自分たちが持ってきた物資も全て失ったことから、色々と諦めて、先に降りた者達と同じように、この星の様々なものに取り憑いて、この星の生命体として生きることを選んだ。

 星に溶け込んだもの達は、自分たちが何者であったかも忘れ、この星の生命体として根付いていた。箱に閉じ込められた者だけが、自分の主義主張も意欲も身体も失わず、自分の願いを叶えるために試行錯誤を繰り返していた。そして、細い繋がりをたどって、宇宙からこの星を思い通りに支配し管理する手立てを生み出して、何度も歴史をやり直し、文明を作り直し、いつかは、隙間をこじ開けて、この星に自分自身が神として降り立ち君臨し、自身の理想を体現するのだと野望に燃えていた。

 意欲的に動きすぎて、この星に溶け込んだ自身のことを忘れてしまっていた者達の記憶を呼び起こすことになるとは知らずに。何度も繰り返しをしたことで、以前の星々ではなかった変化を起こし、宇宙から来た寄生生物を消滅させる力を持つ者を生み出してしまうことになるとは知らずに、全てが自分の思い通りになると思い込んでいたそれは、結局は、この星に根ざし自然の流れで歴史を歩んでいくことを選んだ者達の手で討伐されることとなった。それを手引きしたのはわたしだ。

 わたしも覚醒と共に、自分のルーツを思い出した者の一人だった。多分、あいつも、本能的な部分で、自分のルーツに目覚めていたのだと思う。だから、宇宙を目指した。もともと、わたし達はそういう生物だったのだ。星に寄生し、星を滅ぼして、次の星を目指して宇宙を漂う。そういう生き物だった。だから、わたし達はこの星にとっては異物で、外敵で、排除するべきものなのだ。だから、この星に目覚めた浄化の力で、寄生した宇宙外生命体は滅せられても、取り憑かれたものはそのまま残るのだ。だから、あいつが残した苗が、いくら永い年月をかけて力を蓄えてもあいつになることはない。あいつは、この星に目覚めた浄化の力で滅せられてしまったのだから。

 わたしが恋しいと思うのは、宇宙を夢見るあいつで。宇宙を目指すあいつは、宇宙から来た寄生生物であって、それが寄生していただけの植物じゃない。植物を人の形にして動かしていた、宇宙からの侵略者の方があいつの本体なのだから、あの時に、あいつは死んだんだ。あいつはもういない。この苗にあいつはいないし、この苗はあいつじゃない。解ってた。解ってる。だけど、それでも、どこかにあいつの欠片が残っていて、それがこの苗にまた寄生して、そして、またあいつがわたしの前に現れることを、わたしは、わたしは。あり得ないと解っていながら、望んで、縋ってしまっていたんだ。


「君は相変わらず、未来が視えるくせにそれを活かせないバカだね。知っていることは多いのに、できることも本当は多いのに、思い込みが激しくて視野を狭めて、自分で自分の可能性を縛ってできることもできなくして。そんなバカで愚かしいところが、可愛らしくて愛しいと思うよ。僕のためにこんな風に泣く君が見れて、僕はとても良い気分だ。」

 気がつくと、白金の髪に濃い緑色の目をした可愛らしい顔立ちの男が目の前にいて、全く可愛くないことを楽しそうに言ってきていた。

 小柄で線が細いこともあり、ぱっと見は女性に間違えられやすいが、よく見れば男性と解る骨格をしており、声も低い。一株のスズランから一人の男性体と五人の女性体が生まれ、一番最初に人型をとり自我が芽生えたことで兄となった、見目麗しい男。わたしの心を縛り続ける幻想。それが、今、目の前にいる。

 これは夢なのかもしれない。死ぬ間際に見る、願望が見せた幻なのかもしれない。それでも、会えたことが嬉しくて、また涙が流れてしまう。

 「君がこんなに泣き虫だったなんて知らなかったよ。君がこんなに僕のことを好きだったなんて。とても嬉しい発見だ。」

 そう心底嬉しそうに笑って、わたしの頭を撫でるその男の手の感触の確かさに、わたしは「なんで」と口にしていた。

 「君はバカだから気がつかなかったんだろう。僕がいたのはその苗じゃない。僕たちの子供の方さ。自分勝手でどうしようもない両親に似ないで、とても親思いの良い子だね。君も知っての通り、この子はこの星の隅々に根を張って、分体をはやし、全てを見守っていた。僕が消える直前に、僕を自分の中に取り込んで、救ってくれたんだよ。僕の寄生先がまた僕を受け入れられる状態になるまで、保護してくれていたんだ。」

 そう言われて、すぐ傍の大樹を仰ぎ見る。

 大昔、戯れに作ったこの男と自分の子供。スズランと人間の間に生まれた種が、どういう了見か、いまやこの星全体を護る大樹となった。ずっとわたしの傍にいた。ずっとわたしの傍に在った。死んだ後はこの子の養分になろうと、ずっと離れず傍にいて、ずっとずっと大切に育ててきた、わたしの子供。あぁ、戯れなんかじゃなかったんだな。わたしにとって、大切だったんだ。最初から。そう気がついて、我が子の幹に頬を寄せて、心の中で、「ありがとう」と「ごめんね」を伝える。そんな自分にすぐ傍から「本当にバカだなぁ」と呆れたような声がかけられる。本当にその通り、わたしはバカだ。バカで、愚かで、どうしようもない。


 穴を掘って埋まったはずなのに、いつの間にか地上に出ていて、抱えていた鉢の中身は空っぽで、そんなことはもう、どうでも良かった。

 「君は単純だから、僕の寄生先が枯れてしまったと思ったその先を視なかったんだろう?それに、自分の子供の未来は視たことがないんだろう?だから気付かなかったのさ。僕の復活条件を。因みに、僕も、この子も知っていたよ。だから、鉢植えの苗に話しかけるんじゃなくて、最初からこの子に聞いていれば、そんなに泣かずにすんだのにね。本当に、おバカさんだね。」

そうクスクス笑う男が憎たらしくて、何かを言い返したいと思うのに、言い返す言葉は何も出てこなくて、声を出そうとすると口から出てくるのは嗚咽ばかりで。わたしは、涙にまみれた目で、男を睨みつけることしかできなかった。

 そんなわたしを、男はただただ楽しそうに笑って見ていた。その姿が、どうしようもなく、本当に、自分が求めていたものだと解ってしまって。憎たらしいはずなのに、恨めしいはずなのに、心の底から嬉しくて、嬉しくて、わたしの頬も緩んでしまう。

 「ねぇ。今度こそ一緒に宇宙旅行に行こうよ。宇宙船を造るところから始めないとだけどね。動力も盗られちゃったし、何にも残ってないから、本当に最初の最初からやり直しだけど。君となら、それも楽しいと思うんだ。未来が視えて知識もあるのにポンコツな君の話を聞いて、僕が研究して、開発して。楽しい旅行になるように計画して、実行して。もう、ここを離れてもいいんじゃない?たまに戻ってきて、沢山楽しいお土産話を聞かせてあげれば。僕たちの子はもう立派な大人だよ。」

 存外真剣な顔でそういう男の言葉に、わたしはただただ頭を縦に振って返事をした。

 「あとさ。僕の名前を呼んでよ。僕は、お前なんて名前じゃないよ。知ってるでしょ?」

 そう言われて「ロクハ」と口にすると、男はとても嬉しそうに笑った。

 「あとね。君の名前を教えて。僕は、君の名前すら知らないんだ。君は君のことを何も教えてくれないからね。僕も、君の名前を呼びたいんだ。」

 そう言われて、わたしはすぐに教えることができなかった。

 別に教えたくないわけじゃない。名前を呼ばれたくないわけじゃない。むしろ、呼んで欲しいと思う。だけど・・・。

 「わたしには、名前がないんだ。」

 考えて、正しいと思った答えはこうだった。わたしの名前になるはずだった名はあった。十にも満たないあの時に、あの男についていっていたら付けられていたはず名。だけど、それをわたしは自分の名前だとは思えなかった。あの時に視た未来。そこにいたわたしと今のわたしは全くの別の存在だと思うから。あれは、あの男に付いていくことを選んだ場合のわたしの名で、それを選ばなかった今のわたしにはその名はふさわしくない、そう思うから。

 「だから、ロクハが付けてくれないか?ロクハに付けて欲しいんだ。ここにいるわたしは、ロクハとこれからを生きていくわたしだから。それにふさわしい名前を付けて欲しい。物心ついたときには独りで、「アレ」とか「それ」とか「汚いガキ」だとか、そんな風にしか呼ばれたことがない。だから、ロクハが付けて、ロクハがわたしの名を呼ぶ最初の人になってほしい。そうしたら、わたしは、わたしの名前が好きになれそうだから。」

 そう素直な胸の内を話すと、ロクハは心底驚いたような顔をして、そして、眩しいものを見るように目を細め微笑んだ。

 「アサヒ。」

 それが自分に付けられた名前だと気がつくのに少し時間がかかった。

 「僕にとって君は、それくらい眩しくて、美しくて、可能性を信じさせてくれて未来を照らしてくれる存在なんだ。だから、君の名前はアサヒだよ。」

 ロクハのその言葉に、わたしはまた視界が滲むのを感じた。胸が温かいもので満たされていくのを感じる。ただただ虚しいだけだった心が満たされていく。あぁ、わたしはずっと、こんな時が来ることを願っていたんだ。そう実感して、命一杯のありがとうの気持ちを込めて、自分にできる最高の笑顔を、わたしはロクハに向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。