第4話「第二王子、六年目の大勝負!」
「兄上が婚約破棄した!?」
第二王子セドリックは立ち上がった。
「馬車を!」
「どちらへ?」
「エルディア公爵邸!」
「何をしに?」
「告白!」
「早い!!」
「六年待った」
「急に重い!!」
十二歳のときから、セドリックはクラリスが好きだった。
だが彼女は兄の婚約者。
だから何もしなかった。
六年間。
昨日までは。
「花を用意しろ!」
「何がお好きなんです?」
「…………」
「殿下?」
「花」
「種類を聞いております」
「…………」
「六年間、何を見ていたんです?」
「遠くから」
「役に立たない六年!!」
「では菓子だ!」
「何がお好きで?」
「…………」
「もう手ぶらで行ってください」
「そうする!」
◇
エルディア公爵邸。
クラリスは庭で紅茶を飲んでいた。
「ごきげんよう、セドリック殿下」
「クラリス!」
「どうされました?」
「今日は何をしていた?」
「十時に起きました」
「十時!?」
「遅い朝食をいただいて、本を読んで、お昼寝を」
「昼寝!?」
「自由です」
輝いていた。
セドリックは思った。
今、告白していいのだろうか。
だが六年待った。
「クラリス」
「はい」
「ずっと君が好きだった」
「ごめんなさい」
三秒だった。
「待ってくれ」
「はい?」
「六年待ったんだ」
「そうなのですか?」
「三秒で終わった」
「時間をかければ結果が変わります?」
「…………」
「では三秒で」
「正しい!!」
セドリックは頭を抱えた。
「せめて理由を聞いても?」
「殿下がお嫌いだからではありません」
顔を上げた。
「本当か!?」
「はい」
「では!」
「今の私は『婚約』『結婚』『王子妃』『教育』という言葉を聞くだけで逃げたくなります」
「四つも地雷がある!」
「昨日できました」
「新鮮!」
セドリックは考えた。
そして。
「分かった。婚約しない」
「はい?」
「結婚もしない」
「はい?」
「王子妃にもならなくていい」
「……はい」
「教育もない」
クラリスが初めて興味を示した。
「では、何を?」
「私が君を好きなだけだ」
「…………」
「会ってもいいなら会いに来る。嫌なら帰る。君がお茶を飲みたいなら一緒に飲む」
「それだけ?」
「それだけだ」
「私が寝ていたら?」
「起こさず帰る」
クラリスの目が見開かれた。
「起こさない?」
「起こさない」
「朝でも?」
「朝なら私が悪い」
「素晴らしい」
「そこ!?」
初めて褒められた。
◇
二人はお茶を飲んだ。
「セドリック殿下は甘いものがお好きなのですね」
「ああ」
「知りませんでした」
「私も君の好きな花すら知らなかった」
「六年も?」
「遠くから見ていた」
「怖いですね」
「言い方!!」
クラリスが笑った。
セドリックは初めて見た気がした。
王太子の婚約者としてではない。
公爵令嬢としてでもない。
ただ笑っているクラリスを。
「クラリス」
「はい?」
「また来てもいいか?」
「構いません」
「明日?」
「早いです」
「明後日?」
「早いです」
「三日後?」
「それくらいなら」
「二日半」
「帰ってください」
「三日後に来る!」
◇
馬車へ戻ると、側近が待っていた。
「どうでした?」
「婚約は断られた」
「残念でしたね」
「三日後にまた来ていい」
「勝ってません?」
「六年間ゼロだったんだぞ」
「はい」
「それが三日に一度になった」
「はい」
「無限倍だ!」
「計算がおかしい!!」




