第41話 想定を超える規模
髪飾りの力に気づいてから、リディアの鑑定作業は、目に見えて捗るようになった。
これまで判読しきれなかった、劣化の激しい古い書類。それらを一枚一枚、髪飾りに意識を集中させながら確認していくと、これまで見えなかった痕跡が、次々と浮かび上がってくる。
「オーウェン局長、これを見ていただけますか」
差し出した束に目を通し、局長の顔が、みるみる青ざめていく。
「……これは、いくつあるんだ」
「まだ全部は確認しきれていませんが、少なくとも、これまで把握していた件数の倍以上はあるかと」
局長は、額に手を当てて、深く息を吐いた。
「これほどの規模だったとは……」
「はい。しかも、その多くが、意図的に見つかりにくいよう、丁寧に隠されています」
リディアは、一枚の書類を局長の前に広げた。
「これなどは、一見しただけでは、何の異常も感じられません。けれど、髪飾りの力を借りて丁寧に見ると、複数箇所に、極めて巧妙な改ざんの痕があります」
「巧妙、というと」
「九話で見つけたものと同じ、あの特徴的な癖です」
局長の表情が、ますます硬くなった。
「つまり、同一人物、あるいは同じ技法を受け継いだ者が、これほど広範囲に手を回している、ということか」
「そう考えるのが、自然だと思います」
リディアは、これまで整理してきた資料の山を見渡した。国庫の書類、地方の権利記録、そして「古い記録」に関わる人々への謎の被害。
それらすべてが、想像していたよりもずっと大きな、一つの意思のもとに動いているように思えてならなかった。
「局長。これは、もう一人の犯人が偶然を重ねて行ったこと、というレベルではないと思います」
「……ああ、そうだな」
局長は、机の端に手をついて、しばらく黙り込んだ。
「もっと、大きな……組織立った何かが、背後にあるのかもしれない」
その一言に、リディアの背筋を、冷たいものが走った。
これまで積み重ねてきた小さな違和感の数々が、想像を超える規模の何かへと、静かに繋がろうとしている。
窓の外はすでに暗く、夜の帳が、王宮全体を包み込んでいた。




