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氷の騎士様が、なぜか私の残業にだけ付き合ってくれる件  作者: 森凛
第三部「事件と危機」

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第41話 想定を超える規模

 髪飾りの力に気づいてから、リディアの鑑定作業は、目に見えて捗るようになった。


 これまで判読しきれなかった、劣化の激しい古い書類。それらを一枚一枚、髪飾りに意識を集中させながら確認していくと、これまで見えなかった痕跡が、次々と浮かび上がってくる。


「オーウェン局長、これを見ていただけますか」


 差し出した束に目を通し、局長の顔が、みるみる青ざめていく。


「……これは、いくつあるんだ」


「まだ全部は確認しきれていませんが、少なくとも、これまで把握していた件数の倍以上はあるかと」


 局長は、額に手を当てて、深く息を吐いた。


「これほどの規模だったとは……」


「はい。しかも、その多くが、意図的に見つかりにくいよう、丁寧に隠されています」


 リディアは、一枚の書類を局長の前に広げた。


「これなどは、一見しただけでは、何の異常も感じられません。けれど、髪飾りの力を借りて丁寧に見ると、複数箇所に、極めて巧妙な改ざんの痕があります」


「巧妙、というと」


「九話で見つけたものと同じ、あの特徴的な癖です」


 局長の表情が、ますます硬くなった。


「つまり、同一人物、あるいは同じ技法を受け継いだ者が、これほど広範囲に手を回している、ということか」


「そう考えるのが、自然だと思います」


 リディアは、これまで整理してきた資料の山を見渡した。国庫の書類、地方の権利記録、そして「古い記録」に関わる人々への謎の被害。


 それらすべてが、想像していたよりもずっと大きな、一つの意思のもとに動いているように思えてならなかった。


「局長。これは、もう一人の犯人が偶然を重ねて行ったこと、というレベルではないと思います」


「……ああ、そうだな」


 局長は、机の端に手をついて、しばらく黙り込んだ。


「もっと、大きな……組織立った何かが、背後にあるのかもしれない」


 その一言に、リディアの背筋を、冷たいものが走った。


 これまで積み重ねてきた小さな違和感の数々が、想像を超える規模の何かへと、静かに繋がろうとしている。


 窓の外はすでに暗く、夜の帳が、王宮全体を包み込んでいた。

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