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氷の騎士様が、なぜか私の残業にだけ付き合ってくれる件  作者: 森凛
第二部「すれ違いと社交界」

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第24話 帰還

「――アシュグレイ隊長、ご帰還です!」


 その声を聞いた瞬間、リディアは手にしていた書類のことも忘れて、思わず立ち上がっていた。


 記録局の入り口に現れたレイフォードは、左腕に包帯を巻いてはいたが、思っていたよりずっとしっかりとした足取りだった。


「隊長……!」


 駆け寄りかけて、リディアはすんでのところで足を止めた。周囲には局員たちの目がある。


「……お帰りなさいませ、レイフォード様」


 ぎこちなく、それだけを口にする。本当はもっと、たくさん言いたいことがあったはずなのに。


「ああ」


 短い返事のあと、レイフォードはちらりとリディアを見て、それから小さく眉をひそめた。


「……お前、少し痩せたか」


「え……そんなこと」


「顔色も良くない」


「そちらこそ、怪我をされているのに、そんなことを気にしている場合ですか」


 つい強い口調になってしまい、リディアは慌てて言葉を継いだ。


「あ、その……ご無事で、何よりです」


「無事というほどでもないが」


「本当に、心配したんですから」


 言ってしまってから、リディアは自分の言葉に驚いた。もっと素っ気なく、労いの言葉くらいで済ませるつもりだったのに。


 レイフォードもまた、一瞬言葉に詰まったような顔をした。


「……そうか」


「そうです」


 どちらからともなく、視線が逸れる。周りにはミラやオーウェン局長もいて、二人きりで話せる空気ではなかった。


「詳しい報告は、また後日」


「はい」


「……その、心配をかけたなら、悪かった」


 ぼそりと零された謝罪に、リディアは驚いて顔を上げた。彼がこうして素直に言葉にすることは、珍しい。


「いえ……ご無事で、本当によかったです」


 今度は、素直にそう言えた。


 レイフォードは短く頷くと、局長への報告のために奥へと歩いていった。その背中を見送りながら、リディアは自分の胸に、まだ言い足りない気持ちが残っていることに気づいていた。


(本当は、もっと言いたいことがあったのに)


 結局、伝えられたのは、ほんの一部だけ。


 ぎこちなさだけが残った短いやり取りを反芻しながら、リディアはしばらく、その場から動けずにいた。

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