第22話 言いかけた言葉
「王都まで来たついでに、顔を見に来た」
仕事帰り、官舎の前で待っていた父の姿に、リディアは驚いて目を丸くした。
「お父様、どうしたんですか、急に」
「領地の用事でな。ついでだ、ついで」
照れくさそうに繰り返す父に、リディアは思わず笑ってしまった。
近くの茶屋に入り、久しぶりに二人で向かい合う。父は少し痩せたように見えたが、表情は穏やかだった。
「仕事はどうだ」
「大変ですけど、やりがいはあります。……あの、お父様」
「ん?」
「最近、記録局で古い書類を洗い直していて。祖母様が働いていた頃の書類にも、触れることが増えたんです」
その言葉に、父の手が、湯呑みの上でぴたりと止まった。
「……そうか」
「お祖母様って、記録局でどんなお仕事をされていたんですか。詳しく聞いたことがなくて」
「……ヴァンス。その話は」
「お父様」
リディアは、思い切って続けた。
「私、知りたいんです。お祖母様がどんな人で、どうしてうちが今のようになったのか」
父はしばらく黙り込んでいた。湯気の立つ湯呑みを見つめながら、何かを考え込むような、深い沈黙だった。
「……お前の目は」
ぽつりと、父が呟いた。
「あの人によく似ている。物事を見るときの、あの真っ直ぐな目だ」
「お祖母様に、ですか」
「ああ」
父は懐かしむように、少し目を細めた。けれど、その表情はすぐに、いつもの困ったような笑みに戻ってしまう。
「……いつか、話す時が来るかもしれない。だが、今はまだだ」
「お父様」
「すまないな、リディア。もう少し、待っていてくれ」
それ以上は、何を尋ねても答えてはくれなかった。父はそそくさと話題を変え、他愛のない世間話へと逸れていく。
夕暮れ時、父を馬車まで見送りながら、リディアは胸の中で先ほどの言葉を反芻していた。
――お前の目は、あの人によく似ている。
その一言だけが、やけに重く、リディアの中に残り続けていた。




