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僕は掘り進めなくていいのならと道具を持たず、昨日掘り進めた途中の行き止まりに向かった。
ここも家の中だから迷うことはないけど、生活空間として利用していないところに一人で来るのは初めてかもしれない。
ここまで来るとじいちゃんの声は聞こえなくて、自分の歩く音や息の音しか聞こえなくなった。
土がむき出しのトンネルのような状態だけど、じいちゃんが言った通り堀ったそこは、崩れる気配がない。
とりあえずここにいれば何かわかるというのなら言われた通りにしてみよう。
僕はどん詰まりの土に背中を預けてぼんやりと天井を眺めた。
ぼんやりしてると余計なことが頭の中を通っていく。
気温はちょうどよくて風はないし、雨もない。
周りが土に囲まれているんだから空も見えないし、僕が動かなければ空気が動くこともないので当然だ。
そして周囲が土だからか、音は反響することなく土に吸われていくようで、歩く音も僕の呼吸も響かない。
いつもじいちゃんと話をしながら作業をしているけど、本当はこんなに静かな場所だったのかと驚くばかりだ。
しかし、それを感じるのにさほど時間はかからなかった。
やがて考えることもなくなってきたし、何も頭をよぎらなくなった。
まさに暇の境地だ。
このまま寝ててもいいんじゃないかとそんなことを思って目を閉じると、急に頭の奥に音が響くのを感じた。
耳に入って聞こえたのではない。
寄りかかっている壁の奥で何かが鳴ったのだ。
驚いた僕は慌てて壁に耳をつける。
そして先ほど違和感を覚えた原因を探る。
すると耳で聞いているはずなのに、それとは違う感覚が体を駆け巡るのを感じた。
「何だこれ!」
思わずそう声を出してしまったが、自分の声でその感覚を見失うわけにはいかない。
そのため、より壁の方に意識を集中させた。
するとほどなく、先ほどと同じように体の中に何かが流れてくるのを感じる。
何となくだけど山と僕の呼吸が一体化してきて、自分の体が山になったような錯覚を覚える。
だんだんと呼吸だけじゃなく、全身の血液の巡りのようなものも感じられるようになってきた。
そしてそうなった自分の体に意識を向けてみると、何となく山全体の状況が手に取るようにわかる、そんな気がした。
でもこの感覚に従うことが正解なのかわからない。
とりあえず、じいちゃんに聞いてみるしかないと、しばらく山と一体になった感覚を体に叩き込むと、じいちゃんの元に戻っていった。
「じいちゃん!」
「おう、あわててどうした。水でも掘り当てたか?」
スコップを置いていったから、埋められないのか、手で掘ったのかとじいちゃんが心配そうに聞くので、僕は両手をバタバタ動かしながら言った。
「違うよ。じいちゃんに言われたところにしか、山にスコップは突き立てないって決めてるんだ」
「そうか。じゃあ、どうした」
ここにおいて水や崩落以外に慌てるようなことはない。
獣が出るわけでもないので平和そのもののこの場所で僕がこれだけ慌てているのだから、余程のことだろうと感じたようだ。
「さっき、突き当りにしばらくいたらね、音が聞こえてきて、そこに集中してたら、今度は山と一体になった感じがしたんだ。僕の体が山になった感じで。それで、その状態で自分の体の中を見たら、なんか山の空気とか水の流れが見えた気がしたんだ。でも、それが正しいのかわからないから、とりあえずじいちゃんに聞いてみようと思って戻ってきたんだ」
呼吸が空気、風を感じるところ、血液が水脈、掘ったら水が出てくるところ。
そう解釈したら掘っていいところが何となくわかる気がする。
僕がそう言うと、じいちゃんが笑った。
「そうか。掴みかけているようじゃな」
「じゃあ……」
僕の感覚は間違ってないらしい。
常にこれを感じられるようになればじいちゃんのようになれる。
僕は舞い上がらんばかりに喜んだ。
「それを繰り返しているうちに山のことがよくわかるようになるじゃろう。明日にでも一緒に見てみようかのぅ」
「うん!」
僕も完全にその感覚を掴めたわけではない。
明日できるかもまだわからない。
でも一度できたことなのだから、明日もできるんじゃないかっていう自信が一気に湧いた。
報告した後、僕が浮かれすぎたからか、しばらくすると、いつの間にか山と一緒になった感覚はすっかり抜けてしまった。
それに気づいた僕がじいちゃんに正直に話すと、明日はそこからやればいい、時間はまだあるというばかりだった。
そんな報告をした翌日、じいちゃんは僕にスコップを持たせて後ろからついてきた。
僕が不安からどこを掘ればいいのか確認しようとしたら、自分の気の向くところに向かえばいい、危険なら止めるから好きにやってみろとそう言われたのだ。
これまでの失敗のこともあって正直戸惑うばかりだけど、できるようになりたいと言ったのは僕だし、じいちゃんがついてきてくれるなら、難しく考える必要はないだろう。
とりあえず僕は足の向くまま、穴の奥へと歩を進めた。
そんな僕の後ろを、今日もじいちゃんは僕の邪魔をしないよう、静かについてくる。
そうして僕は割と入口から近くの行き止まりにたどり着いた。
よくわからないけど、これまでみたいにいきなり穴をあけ始めるのは間違っていると思うし、壁の向こうから聞こえた音を聞いてみようと壁に耳を当てた。
前に何か感じたところとは違うけど、そうして静かにしているとなんか実の方でやっぱり音がしている気がする。
僕はそれをじっくり聞いて、聞こえたものをじいちゃんに伝えるため、これまでの経験から何の音に近いかを一生懸命考える。
そして僕はそれを洞窟をたまに吹き抜ける風の音に近いと判断した。
これが風の音なら問題ない。
近くに水脈を感じないから水は出てこないだろう。
自分で判断するというのは意外と頭を使うことなんだと僕は思いながら、壁から体を離して何も言わずに穴を掘り始めた。
しかし見ていたじいちゃんが、それを止めることはなかった。




