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「じいちゃんは、どうやってその日に掘る場所を決めてるの?」
用事を済ませてじいちゃんのところに戻った僕は、忘れないうちにと思って帰って早々じいちゃんに質問をぶつけた。
「急にどうしたんじゃ」
ただいまもなく、どこ掘ってるのと聞かれたのだから、何かあったと思われるのは当然だ。
だから僕はさっきであった子と話していたこと、そしてそれを聞いて思ったことを伝える。
「さっき、じいちゃんがいなくなったらどこを掘るのって聞かれたけど、そんなこと考えたことなかったなって思ってさ。この先、じいちゃんだって出かけてその日に戻ってこられない日があるかもしれないじゃん。これまでは一日二日なら掘らなくてもいいやって思ってたけど、自分でわかるようになったら、じいちゃんが留守の間に作業を進められるし、もっと快適にできるかなって思って」
少なくとも僕の記憶する限りでは、これまでじいちゃんが長期間ここを空けたことはない。
これからもよほどのことがない限り、そんな日はこないような気がするけど、教えてもらうにも理由が必要だと思って、僕はとっさに思いついたことを付け足したのだ。
僕が言いたいことを言いきって黙っていると、じいちゃんが僕の方をじっと見て静かにうなずいた。
「そうじゃなぁ。そろそろ教えておいた方がいいんじゃろうなぁ」
じいちゃんには思うところがあったらしい。
僕の言葉の中に響くものがあったのかはわからないけれど、珍しくじいちゃんが僕の言葉を前向きに受け止めてくれた。
「教えてくれるの?」
「ああ。ただこれは本当に経験がものをいう。一日二日で覚えられるようなもんじゃないし、間違えれば崩落や浸水を起こすこともある。教えたからといってもそれは変わらんよ」
「わかった」
それは僕も経験からよくわかっている。
こっそりやろうとして水が出てきちゃったことも、壁が崩れかけて埋まりかけたこともあるのだ。
さすがに死にたくないから自分勝手に動くことがなくなった。
死ぬことへの恐怖もあるし、じいちゃんからの大目玉ももういらないと思っている。
「じゃあ、明日からやろうかの」
「うん!」
洞穴は僕とじいちゃんの家だ。
しかしこれまではどちらかというと、じいちゃんの神域に僕が住まわせてもらっている感じだった。
でもこれからは、僕もじいちゃんと同じように、山に受け入れてもらえるかもしれない。
僕は期待を胸に明日を心待ちにしながら、その日は就寝した。
そうして僕は、じいちゃんから穴掘りの場所の判断方法を教えてもらうことになった。
僕にじいちゃんのような特技はないから、自分で決めろと言われたら、とりあえず気の向くまま壁に向かってスコップを差し込むしかない。
じいちゃんが感覚で決めているというから、一長一短でいかないことはわかっていたけど、間違えたところであっても試しに掘っていいって言われて少し掘ったら、本当に水が出たり、周りが崩れてきたりして、さすがの僕でも、こうなったら掘り進めちゃいけないことくらいわかる。
残念ながらその都度僕の手は止まるし、そこを補強したり埋めなおすという余計な作業が発生する。
余計な作業だけど、やっておかないといけないって言われたらやるしかない。
逆にじいちゃんには僕の行動が不思議なものに見えるらしいけど、とりあえず様子を見ると言って黙っていた。
僕が感覚でやると変なものを掘り当てるのに、じいちゃんはいつも正しいところを正確に割り当てている。
感覚でつかむしかないらしいから、一日に何回かは自分で場所を決めさせてもらっているけど、辺りとはずれの違いは未だにつかめないままだ。
実はじいちゃんはこの山の神様なんじゃないかと思う。
判断方法は教えるというより手探りだけど、本当に危険なところは撮る前に止めてくれるから、まだまだ僕にはじいちゃんの監視が必要だ。
僕の我儘で勝手をして家が崩落したら困る。
他のことなら我儘も許されるけど、山を掘るのだけは、勝手をしてはダメだと僕の中にはしっかりと刷り込まれているのだ。
そうして連日失敗を続ける日々を送ってきたけれど、さすがにそろそろコツなりヒントなり教えてもらえないかなって思った僕はじいちゃんに聞いた。
「じいちゃん、やっぱり僕にはわからないよ……」
「そうなのかい?」
闇雲であっても、数を打てば当たりが出る。
当たりが出たら掘り進めることはできるけれど、じいちゃんみたいに一発であたりを引くことがどうしてもできない。
分かってきたかなという感覚も掴むことができていない状態が続いていた。
「じいちゃんはどうしてわかるのさ」
僕が少し離れた後方で見守るじいちゃんを振り返って聞くと、じいちゃんは笑いながら僕のところに寄ってきた。
「そうじゃなぁ。ずっとここで暮らしているからかもしれんのぅ」
「僕だってずっとここで暮らしてるよ!」
じいちゃんの方が長生きしているけど、僕は物心ついた時からここで生活している。
むしろここ以外で生活したことがないから、外に出たらどうしていいかわからず困惑すると思う。
道に迷うことはないくらい、知り尽くしているはずなのに、これだけはなかなか思うようにいかないのだ。
「年季が違うじゃろ?」
「そうだけど、それだと僕はじいちゃんの年になるまで一人で山を掘れないってことになっちゃうよ」
じいちゃんがいつから一人で掘れるようになったかはわからない。
でも僕ができるようになるのがじいちゃんの歳ではあまりに遅いように思う。
僕が愚痴を言うと、じいちゃんが小さくため息をついた。
「そうじゃなぁ。ここにずっといて、ちゃんと山と向き合ったことがあるかい?」
「山と向き合う?」
中のことは知り尽くしているし、表面に出ている山や森のこともそれなりに知っていると思う。
それ以上に何があるのかと僕が首を傾げると、じいちゃんが納得したのか大きくうなずいた。
「ああ。山にも意思がある。しゃべることはできないが、全身で訴えているものがある。それを感じ取れれば難しくはないじゃろう」
「そんなの感じたことないよ……」
山が全身で訴えるとは何か。
間違えたら水が出たり崩れて教えてくれるけど、そのくらいしか区別する術がない。
危険を感じたら手を止めて、作業を中断して応急処置をすることはできるけど、その前にすでに何か訴えているものがあるということか。
僕が壁や天井を見回しながら言うと、じいちゃんは目を見開いた。
「毎日穴を掘ってるのにか?」
「うん。じいちゃんに言われたところを掘ってればいいんだって思ってたから……」
掘るところはじいちゃんが教えてくれる。
だから僕は何も考えず言われたところを掘り進める。
それを繰り返してきただけだ。
失敗したら怒られるし、そもそも命の危険もあるのだから、わからない以上、そうせざるを得なかったというのもある。
どうやらそれが、僕の山への理解をお染めてしまっているようだ。
僕とじいちゃんが同じ結論に達したところで、じいちゃんが言った。
「なるほどなぁ。それじゃあまずは、山と向き合うところから始めたらええ。風呂に入りながら、今日もここは崩れないでくれているな、掘るのを止めた行き止まりで、その先には水があるのかいと、耳を傾けてみるところからじゃな」
じいちゃんの言われたことをする自分を想像する。
壁に向かって語り掛ける僕。
「それ、おかしな人じゃない?」
僕が思わず想像を辞めてじいちゃんを見ると、じいちゃんは笑った。
「外の世界でやればそう見られるやもしれんな。じゃが、その問いに山が答えてくれるようにならなければ、いつまでもそのままじゃろう」
「そういうものなの?」
「そういうものじゃよ」
どうやらこの問いかけは必須事項らしい。
僕はじいちゃんが壁と話をしているのは見たことないけど、これは通過儀礼なのかもしれない。
外の人はこないし、ここにはじいちゃんしかいないんだから、まあ、お菓子な行動をしている姿が世に広まることはないだろう。
「何かよくわかんないけど、とりあえず行き止まりに行って、そこにいたらなんかわかるかな?」
僕が言うとじいちゃんは言う。
「いるだけではだめじゃよ。ちゃんと理解しようとしなければな。まあ、何もせずにおとなしく耳を傾けていれば、何か変化があるかもしれん」
「わかった」
壁に向かった声かけは必須ではないらしい。
とりあえず耳を傾けるだけ。
掘ることも考えなくていいという。
まずは聞こえるようになるところから。
これまでのやり方が間違っていたということで、僕は一旦ふりだしに戻された。




