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やまはぼくのおうち  作者: まくのゆうき


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「どうしてそこを掘ろうと思ったんじゃ?」


そこそこ掘り進めたところでじいちゃんが僕に聞いてきた。

だから僕は自分の掴んだ感覚で説明する。


「あのね、耳を当ててたら風の音が聞こえた気がしたから、風が通ってるなら向こう側に空洞があるんじゃないかなって。少なくとも水は出てこないだろうなって思ったんだ。血液が流れてるところとは違いそうって、僕の身体がそう教えてくれた」

「そうかそうか。良い判断じゃ」


目を閉じて感慨深そうにしているじいちゃんの仕草に僕は目を丸くする。


「本当?」

「ああ。そうやって山と会話をしながら、これからも掘り進めたらいい」


じいちゃんが僕を一人前だと認めてくれた。

でも僕にその自信はない。


「でも、僕の聞いた音が本当にそうなのかは、まだわからないんだけど……」


僕が言うと、じいちゃんは首を左右に傾けて、首を伸ばしながら言った。


「そのためについて歩いてるんじゃよ。まあ、失敗はこれまでもしてきただろう。間違えたら慌てず埋めてしまえばいいさ。これまでもそうしてきたじゃろ?」


僕のやらかしは一度や二度ではない。

自分で対処できそうなところは何度も埋めてごまかしてきた。

報告もしてないし、何も言われないから気付かれてないと思っていたけれど、ここでそれが間違いだったことを知る。

じいちゃんの目はごまかせていなかったのだ。


「知ってたんだ……」


僕がうなだれるとじいちゃんが笑った。


「ああ。それも山が教えてくれる」


山と意思疎通ができるようになるとそんなことまでできるのかと、僕は思わず感心した。


「やっぱりじいちゃんはすごいな」


それからというもの、僕は、じいちゃんから特訓を受ける日々を送ることになるのだった。



そんな特訓を続けたある日の朝、じいちゃんが突然言った。


「そろそろこの山をお前に譲る時が来たかの」

「譲る?どういうこと?」


ここは僕とじいちゃん、二人の家だ。

これまで、どちらかと言えばじいちゃんの家だったけれど、何となく山のことが分かるようになってきたことで、僕もじいちゃんの役に立てるかなって思ってた。

でも、それもあとわずからしい。


「わしはずっと、山の声を聞いてきた。もうその力がお前にも備わったからなぁ。今度はわしが山の一部となって、安全を伝える番じゃろう」


じいちゃんは山に自分の行く末を教えられたのだろう。

山の一部になる、今の僕ならその意味はすんなりと理解できる。

ただ、じいちゃんがそれを悲観しているわけではない。

だから僕は、自分の中に湧いてきた悲しみの感情に蓋をした。


「それって、これからもじいちゃんが僕に、どこを掘ればいいか教えてくれるってこと?」

「ああ、だがわしだけじゃない。他の音も聞いたじゃろう?」

「うん……」


耳をすませば山はいろんな音を発している。

これらが多くのことを教えてくれているのだということが、特訓でようやく理解できるようになった。

そのおかげか、僕はほとんど失敗もしなくなっている。


「そのすべての音に、声に耳を傾ければ、早々失敗はせんよ」

「うん」


それはその通りだ。

じいちゃんの助けがなくても自分で対処はできる。

しかし、それとこれとは話が別だ。


「だからわしが急にいなくなっても驚かんでな。わしは山の一部になるだけなんじゃから。ずっと一緒じゃよ」

「わかったよ……」


やはりそうかと僕は悟った。

じいちゃんは近いうちに、自分をこの山のどこかに捧げるつもりなのだ。

体が完全に不自由になるその前に、僕にその処理をさせないために、そして、最期を見せないために、僕の知らないところで準備を進めているのだろう。


「好奇心が旺盛だから、外で暮らさせた方がいいんじゃないかと思ってたんじゃがなぁ。結局、ここに縛ることになってしまってすまないな」


じいちゃんがすでに曲がった腰をさらに低くする。

僕は慌ててじいちゃんの体を支えて起こすと、細くなった肩を両手でつかんでしっかりと目を合わせて言った。


「縛られてるなんて思ったことないよ。僕のお家はずっとここだよ。好きでここにいるんだから」

「ああ。ありがとうな」


僕が本気でそう思っていることは伝わったらしい。

じいちゃんはそう言って微笑んでくれた。



そんな話をした数日後、じいちゃんは前触れもなく、僕の前から姿を消した。

外に出たわけではないから、おそらく言葉通り山の一部になったのだろう。

見慣れない道や穴があればそこにいるかもしれないけど、きっと僕に元気な姿を見せてくれることはないはずだし、山がそこに触れてはいけないと言っている気がするから、あえて気にしないことにしている。

必要になったらその時は山が答えてくれるだろう。



山は僕のお家だ。

そしていなくなったじいちゃんが帰ってくる場所でもある。

残念なことに、じいちゃんが山の一部になるといなくなってから、僕にはまだじいちゃんの声が聞こえてこないけど、いつかきっと、じいちゃんの声を聞けるようになってみせるつもりだ。


じいちゃんがなぜ、僕に教えることをぎりぎりまで決断しなかったのか。

一人になった今ならわかる。

じいちゃんが多分、僕を外の世界に開放したかったからだ。

でも僕はここで生きることを自分で選んだ。

だから後悔するつもりはない。

でもこんなことは僕で終わらせたいとも思ってる。

僕もいつか山の一部になるんだろうけど、これ以上、人間が山の一部になる必要はないと思うんだ。

僕にとってここはお家だけど、他の人には違う家がある。

僕が自分の生涯を、家で過ごしたいと思っているのと同じで、他の人だって自分の家を大切に思っている人は多いはずだ。

だから別の人にここを守って、将来山の一部になってほしいなんて頼むことはしない。



それから、もしもこの先、この中を荒らす人が出てくるなら、僕は家を守るために入口を埋めるくらいのことはしてもいいと思っている。

そのくらいの権限は僕が行使してもいいはずだ。

でも封鎖して忘れられた頃、ここを見つけた人が気に入ってくれたなら、僕たちはきっと受け入れると思う。



そういう日が来るまで、ここが家であるのは僕の代で終わり。

ここはみんなが登るただの山に還ればいい。

一人になった僕はそんなことを思いながら、今日も山の声を聞いて穴を掘る。

ただ、一人になって少しだけ、聞こえる声は増えた気がした。

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