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3章 第32話 終わらぬ前提

税は毎年ある。


 それはこの領が小国であり、その上に大国ヴァルディアがある以上、当然の負担だ。

 春先に徴収量は知らされ、収穫見込みを計算し、倉を整理し、分配を調整する。

 予測できる負担は、恐怖を生まない。

 だがこの一年で、町はそれとは別に四度、差し出した。


 戦争徴収。


 通常税とは別枠。

 時期も量も確定せず、戦況次第で増減する臨時徴発。

 春、夏、秋、そして冬。

 四度目は、食糧に加え馬と馬車まで持っていかれた。


 大国ヴァルディアは勝ち続けている。

 カルドリア連邦との戦は優勢に推移し、国境線は押し上げられた。

 だが勝利は終結を意味しない。


 拡張は続いている。

 拡張が続く限り、補給線は伸びる。

 補給線が伸びる限り、徴収は続く。

 いつ終わるのか。

 誰も知らない。


 不確実性は、量よりも人を削る。

【また来る】

【次はいつだ】

【冬は越えられるのか】

【騒ぐな】

【やり過ごせ】

 町は割れない。

 だが、確実に疲弊している。


 私は帳面を閉じた。

 守るだけでは足りない。

 徴収が来る前提で、残す仕組みを作らなければならない。


 私は領主執務室へ向かった。

 私は領主代理だ。

 提案はできるが、決裁権はない。

 この領の責任は、まだ父にある。


 ルドルフは机に向かっていた。

 背筋は真っ直ぐ。

 筆は迷わず。


 この部屋は、変化ではなく継続のためにある。


 カイが壁際に立つ。

 父は筆を止めずに言った。


「用件は」

「領の今後の備えについて、御相談があります」

 父は筆を置き、視線を上げる。


「具体に述べよ」


「通常税とは別に、戦時徴収が四度ありました。いずれも事前予測が困難でした。

 今後も継続する可能性が高いと考えます」


 沈黙。


 視界に浮かぶ。

【分かっている】

【だが言葉にするな】


「ヴァルディアは拡張を止めていません。勝利は続きます。補給も続きます。

 終結の宣言は出ていない以上、徴収は再び来る前提で備えるべきです」


 父の指が机を軽く叩く。

「恐怖で動かすな」


「恐怖ではありません。前提です」

 私は続ける。


「税は計算できます。だが戦時徴収は読めません。

 不確実な負担に耐えるには、余剰が必要です。農作だけでは限界があります」


「ゆえに」


「加工事業を立ち上げたい」


 父の目が、わずかに細くなる。

 それは拒否ではない。


 測っている。


「この町が止まっている理由は」

 父が問う。


 話は戻る。

「変化を恐れる気質かと」


「違う」

 即座に否定。


 父は引き出しから古材を取り出した。

「大水門の旧材だ」


 角は丸く、水に削られている。


「お前が生まれる前、この領は二度崩れかけた。一度は川。もう一度は人だ」


 父の声は静かだ。


「水害の年、倉が割れた。食糧が流れた。飢えはすぐ来ない。不安が先に来る。

不安は声を増やす。声は怒りを呼ぶ。怒りは互いを疑わせる」


【疑いは割る】

【割れた町は戻らぬ】

【……二度と】

 父の本音が浮かぶ。


「治水を整え、水は抑えた。倉は守れた。飢えは防げた」


 一拍。


「人も抑えようとした。秩序で囲い、正しさで縛り、混乱を抑えた」


 父は古材を机に置く。


「だが人は水ではない。抑えすぎれば動かなくなる。動かなければ安心が続く。

 安心が続けば変化を恐れる」


 私は理解する。

 この町の停滞は、失敗ではない。

 成功の副作用だ。


「守りすぎた町だ」

 父は言う。


「お前が動かすと言うなら、安心を揺らすことになる」

 沈黙が落ちる。


「揺らした先に何が起きる」

 私は即答できない。


 父は続ける。

「農作が乱れれば来年は終わる。治水が崩れれば一年で潰れる。人が割れれば十年戻らぬ」


 カイが補足する。

「三つを同時に守らねばなりません」

 私は頷く。


「計画を持って来い」

 父の命令。


「条件込みで具体に落とせ。三日だ」


「承知しました」


 視界に浮かぶ。

【止めたい】

【だが止められぬ】

【お前なら】

 父は口にしない。


 私はその本音を胸に、執務室を出た。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを


大切にして書いています。


リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。




もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をいただけると励みになります。




いただいた反応は、今後の執筆の力になります。




これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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