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第98話「貴族令嬢を救出せよ⑤」

『ステファニー奥様の身代わりになる事なんて、ゴブ300体をやっつけたのに比べれば、全然楽勝ですよ』


腕組みをしたステファニーが、えっへん!みたいな雰囲気で、得意そうに言う。

対して、もうひとりのステファニーが、びっくりして驚く。


『え、ええっ!? ゴ、ゴブ300体をやっつけた!? もしかして、ジャンひとりだけでなの? す、凄いわ!』


褒められた方のステファニーは、得意満面の表情だ。


『へへへ、仲間にはすこ~し手伝って貰いましたが、ちょいっと、(ひね)ってやりました。まあ大した事ないですよ。だからぁ、こんな身代わり役くらい、どうという事はないっす!』


俺の前に立つ、ふたりのステファニーは、

まるで一卵性の双子のようにそっくりである。

 

種を明かせば……


ひとりは妖精猫(ケット・シー)のジャンが変身したステファニー。


普段、散々自慢するだけあって、

ジャンの変身魔法は寸分たがわぬ正確さといって良いだろう。

 

ただ……

可愛い貴族服を着たステファニーが、実は妖精猫のジャンであり、

得意げに喋っていると考えると、俺には非常に違和感がある。


ちなみに、寝巻き姿で話を聞いているのが本物のステファニー。

 

むむむ……


会話自体は微妙だが、全く同じ顔を持つふたりの美少女が、

見つめ合うのはすっごくシュールだ。


まあこの会話も、必要上、行っている。

ジャンとステファニーはこれから作戦通り、「入れ替わる」から。

 

今している会話は一応……

作戦遂行の為の予行演習なのだ。

 

俺が見守る中、また会話が始まった


擬態したジャンが先行きやらかして『ボロ』を出さない為に、

こういった練習は絶対に必要である。


少しでも違和感があれば、ステファニーから、細かく丁寧に指導が行われたのだ。


そして、30分後……

短時間でも「濃く」練習したお陰で、

ジャンは風貌だけでなく、喋り方や仕草全てがステファニーそのものとなった。


一方、『本物のステファニー』は手早く着替えた。

俺達の前で肌着姿となって、恥ずかしがったが、

緊急事態だし、割り切って貰った。


肌着や身の回りのものなど目立たない程度に、

俺の収納魔法で持ち出す準備も出来た。


これで、脱出の頃合だろう。


『おい、俺達はもうそろそろ行くけれど……大丈夫か、ジャン』


俺が問い掛けると、ジャンは胸を「ぐいっ」と張る。


『ははは、ケン様、大丈夫っす。大楽勝っす。それより俺、念話で連絡しますから、例の作戦は、打ち合せ通りに宜しく頼みますよぉ』


『了解!』


俺とジャンのやりとりが終わると、ステファニーが心配そうに声を掛けた。


『ジャン、本当に気をつけて! 無事に戻って来てね!』


『はっは~、ステファニー奥様の、そのお言葉が俺に100万倍の勇気を与えてくれますよ』


『おいジャン、じゃあ俺は?』


『ふ~む、ケン様の言葉ねぇ……まあ、超大サービスして10倍ちょっとくらいかな?』


『……おい! ステファニーと扱いが違い過ぎるだろう、このやろ!』


『わあっ、グーで、頭をゴリゴリしないで~!』


『うふふふふ♡』


そんなこんなで……

俺達は脱出すべく、転移魔法を発動。

 

俺とステファニーは、改めてジャンを見ればびっくりする。


ステファニーに擬態したジャンの奴は、直立不動!

びしっ!と敬礼していたのだ。


敬礼する凛々しい美少女……


それはまるで、撤退する軍隊の殿(しんがり)を任された勇士のようである。


おお、お前……すっごくカッコ良いな!


俺は思わず感動した。


おいおい、ジャン!

お前はさ! 凄く頼もしい! 俺にとって、最高クラスの従士だよ!


転移魔法の効果により消え行く俺は……


傍らに居るステファニーの肩をしっかりと抱きながら、

ジャンに向かって最敬礼をしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


こうして……

俺とステファニーはオベール様の城館を脱出した。


見つからないようにエモシオンの町へ潜入し、

索敵を行いながらクロード家の城館まで来た『行き』と違い、

帰りは転移魔法により、ステファニーの自室から、

ボヌール村にある俺の自宅へ「しれっ」と直接帰って来たのだ。


なので、全然楽勝。


転移魔法が行使されると……


周囲の景色が、城館のお洒落なステファニーの部屋から一転、

粗末な俺の家の部屋に変わった。


なので、違和感ありありのステファニーは、

驚いて、あんぐりと口を開けたまま、目を見開き、キョロキョロしている。


時間はもう真夜中……

寝静まったであろう俺の家の周囲はしんとしていた。

 

明日からは新しい生活が始まる。


色々と自然な形で段取りを組んで、

ステファニーをボヌール村の人達へ紹介もしなければならない。


なので、自宅を抜け出した『可憐な姫君』は少し眠った方がよさそうである。


「おい、ステファニー、良かったら俺のベッドを使えよ。お前のベッドとは全然違って、狭くてボロっちいけどさ」


「え? じゃあ、ケ、ケンは?」


「はは、俺は床で寝るよ」


俺は引寄せの魔法で、床に寝る為の毛布を1枚取り寄せた。

 

あれ? 何気なく見ると、この毛布……

凄~く高そうな高級品じゃないか。


まさか引寄せの魔法って、どこかの店から、

勝手に商品引っ張っているんじゃないだろうな……

それって、万引き? 窃盗!? すっげえ、やばくね?

 

……まあ、良い。

今は深く考えないでおこう。


ステファニーが使う普段用の服とか、農作業着とか、

生活用品等々も、引き寄せの魔法で手配するか……


この子が、どういう経緯で村に来たとか、どういう生活をするのか、とか、

一応、考えてはいるけれど、明日リゼット達に相談しよう。


よし! とりあえず、こんな時はレディファーストだ。


「ステファニー、お前、毛布はこっちを使えよ」


俺はベッドに、「引き寄せした」毛布を放り投げる。


しかしステファニーは、首を左右に振った。


「駄目!」


「え? 駄目?」


「私はケンのお嫁さん、……奥さんなんだもの。夫君の貴方が床に寝るなんて絶対に駄目よ……」


「絶対に駄目よって……」


「うんうん! 夫婦だから全然OK! というか当たり前! 私と一緒に寝ましょう! さあっ、早く!」 


ステファニーは手招きしてそう言うと、素早く俺のベッドへ潜り込んだ。


「うわぁっ! 男臭~い! ……でもこれがケンの匂いなのよね、大好き!」


俺は、はしゃぐステファニーをそっと見守っていた。


先行きが分からず、とても不安だろうに……


だけど、一生懸命頑張ろうとしてるんだ。


優しく……してやろう。


俺が、そんな事を考えていると、ステファニーが再び手招きする。


「ねぇ……ケン、早くぅ……」


「よっし! 一緒に寝ようか」


「わ~いっ」


俺は、そろりとベッドに潜り込んだ。

すかさずステファニーが、身体を「ぴったり」くっつけて来る。


「おやすみなさ~い」


俺が、ほ~んの少しだけ期待した事は……全く無かった。


おやすみの挨拶をしてから1分も経たないうち、

ステファニーは軽い寝息を立て始めた。


やはり、ここ数日、プレッシャーで、ちゃんと眠れていなかったようだ。


頭上を見やれば、幻影のクッカが満面の笑み。

空中に浮かんで親指だけを立てている。


救出作戦の第一段階は、大成功って事だ。


俺は「ふっ」と笑うと、寝息を立てるステファニーを軽く抱き締め、

眠りに落ちて行った。

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