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第97話「貴族令嬢を救出せよ④」

俺には良~く分かるぞ、ステファニー、お前の気持ちは……

切なそうな彼女の顔を、俺は見つめる。


『……やはりお父さんが、心配なんだろう?』


『うん……私が王都へ行かず、もしも勝手に居なくなったら……お父様は……』


クソドラ息子を甘やかすアホ伯爵家から……絶対にクレームが入る。

 

おい! 寄り子の分際で!


下級貴族の癖に! ウチのメンツを潰しやがって!


俺の顔に、泥を塗りやがって!


お前、こっそりどこかへ娘を隠しやがったな、出せ、出しやがれぇ!


と、責められるだろう。


いや、責められるだけじゃ済まないか。

怒った伯爵家から、何をされるか分からない……


そもそも貴族は、

誇り(プライド)面子(メンツ)を一番大事にする生き物だ。


王都の上級貴族が、その両方を潰され、黙っているとは思えない。


でも大丈夫。


さっきも言ったが、俺は、ちゃんと作戦を立てた。


ジャンを起用し、既に㊙作戦を立てたのだ。

俺とジャン、ふたりの力を合わせた、絶妙なコンビネーション作戦だ。


なので、俺はステファニーへ笑顔を向ける。


『ステファニー、俺に任せておけ。お前は何も心配するな』


『でも……』


『大丈夫! さっきも言ったけど、ちゃんと作戦は立ててあるから』


『作戦?』


『そう、作戦だ。もう少し詳しく説明しようか』


『ええ、教えて』


『OK! 王都に着いたお前の身にな、突如、不可抗力の事件が起きるんだ』


『突如、不可抗力の事件?』


『ああ、お前はゲス野郎の愛人にされる寸前に忽然と消え、行方不明となる。誘拐事件を防げなかった、という汚名をアホ伯爵家が全て被り、奴等は、お父さんには何も出来ない事になる』


『???』


作戦の内容を聞いても、ステファニーにはすぐに理解出来ないだろう。

?マークを飛ばして、「きょとん?」とした表情だ。

 

まあ、当然だろう。


では、百聞は一見にしかず、視覚に訴えようか。


『ステファニー、お前の服を一式用意して……そうだな、ベッドの上に置いてくれ』


『え!?』


いきなり服を用意?

ステファニーの頭上には、?マークが飛び交っている。


確かに、わけがわからないだろう。

逆だったら、多分、俺も同じだ。


でも、あまり時間が無い。

愚図愚図してはいられない。


『おい、ステファニー、早く』


『で、でも……』


『言われた通りに……早く! 嫁は旦那に従うものだろう?』


『よ、嫁!? は、はいっ!』


慌てたステファニーは俺から言われた通りに私服を揃えて、ベッドの上に置いた。

 

俺は、まだ戸惑っているステファニーを強引に抱き寄せる。


やっぱり、華奢な身体だ。

そして、良い香りがする。


『あふん♡』


ステファニーは、俺に抱き寄せられると、気持ち良さそうに目を閉じた。


逆に、これから起こる事を考えたら寧ろ都合が良い。

俺は、そのままステファニーへ、目を閉じているように告げる。


数分後……


『3,2,1、はい、目を開けて良いぞ。声は出すなよ』


俺の声を聞き、ステファニーは、恐る恐る目を開いた。


そして……目の前に居たのは……

何と!何と! もうひとりの自分であった。


『もうひとりのステファニー』は、本物のステファニーへ、

にっこりと微笑みかけた。


まるで、鏡に映ったようなもうひとりの自分。


ステファニーにとっては不思議だろうが、目の前にはリアルな現実がある。


『!!!』


びっくりして、目を真ん丸にするステファニー。

ああ、固まっちゃっているな。


俺は念話で、ステファニーへ語り掛ける。


『どうだ? ステファニー、驚いたかい? お前にそっくりだろう? ジャンが魔法で変身した姿なんだ。彼女()が、お前の代わりに王都へ行くのさ』


『な、な、何、これ!? た、た、確かに……す、凄い! 私に……そっくり……だわ』


『これが妖精猫(ケット・シー)の能力のひとつ、変身なんだ。俺の魔法以上さ』


俺に褒められて、ジャンは胸を張る。

思いっ切り、そりかえるくらい。

その姿は、初めて会ったステファニーのように得意げだ。


しかし、ステファニーが少し不満そうな表情になる。


『私……こんな感じなんだ。何か、とっても生意気そう……性格も悪そう……』


『おう、初めて会った時は、私の下僕になれって、すっげ~生意気だったもん』


『もう!』


頬を膨らませ、口を尖らせるステファニー。

やっぱり、彼女は可愛い。


さあ、作戦の続きを話そう。


『という事で、お前に化けたジャンは、王都まで行き、伯爵邸の前で、行方不明になる。王都で不可抗力に起きた事件ならば、お父さんの責任は問われないだろう。そしてジャンは役目を終えたら、ボヌール村へ無事に戻るという筋書きだ』


『……成る程、良く分かったわ。凄い作戦だと思う。ただ上手く行けば良いんだけれど……』


『ああ、時間が無い中、いろいろ考えたが、結局は、この作戦しか無いと思った。後は、ステファニー、お前がOKを出すか、どうかだ』


俺が問いかけると、ステファニーは、きっぱりと言い放つ。


『分かった! 私、ケンの作戦に乗るわ! 他には選ぶ道が無いし、大好きなケンと、一緒に暮らしたいもの!


『よし! 分かった! 一応言っておくが、ステファニーは全然、素直だし、生意気じゃないから、安心しろよ。大好きだぞ、ステファニー』


『嬉しいっ! ケン、私も貴方が大好き! あれから貴方の事が忘れられなくて、ず~っと考えていたのよ』


『そうか! お前はとても可愛いし、素敵な女の子さ』


『ありがとう! 私、貴方のお嫁さんになっても良い? 他の子とも必ず仲良くするし、一生懸命に頑張るから』


『大歓迎さ! ステファニー、俺の嫁になれよ!』 


俺が大きく頷くと、ステファニーは俺を真っ直ぐに見つめた。

綺麗な碧眼が、きらきら輝いている。


『はい! 喜んで! 私ね、貴方達を信じる。私の為に、ここまで来てくれたのだから』


『おう! 俺達を信じて、全て任せろ!』


『はいっ! 全て任せるわ! そしてケンは私だけじゃなく、オベール家も救う為に、色々と考えてくれた。ケン達が使う不思議な力……まさに奇跡だわ』


『おう! ステファニー、奇跡を起こす俺について来い!』


『うふふ♡ うんっ!』


ステファニーは、また俺に抱きついた。

相当な甘えん坊さんだ。


『ステファニー、お前は、髪色、髪型、そして瞳の色を変えてボヌール村へ住む。遠くから来た旅人という触れ込みで、名前も変えて村へ移り住むんだ。当分の間、お父さんとは会えないけれど、我慢しろよ』


『うん! どうせ王都へ行ったら、ず~っと会えないと思っていたから、全然構わないわ。それより髪と瞳……どうしようかしら?』


ああ、ステファニーの良い所が、また見付かった。


切り替えが早く、とてもポジティブな所だ。


『ははは、ステファニーとは名乗れないから、違う名前も考えなきゃな』


『うん、うんっ!』


名前と髪と瞳の色を変えて、

今までの貴族令嬢とは全く違う、新たな人間として生きて行く。


厳しい試練を、チャンスと考えて喜ぶステファニーに、

ジャンも惚れ直したようだ。


そして、ジャンがステファニーと話したいと言うので、

俺は彼女の同意を得て許可してやった。


すると……


『ステファニーちゃわん……いや、ステファニー奥様! 俺、貴女が幸せになる為に一生懸命に頑張ります!』


おいおい、何だよ、こいつ……リゼットの時もそうだったけれど。


女子に向かって、また、カッコイイ決めゼリフを吐きやがった。


……見習おう、俺も。


当然、ステファニーは嬉しそうにしている。


『ありがとう、ジャン! 私、絶対、幸せになるわ』


ああ、何だよ! この会話。


俺じゃなく、まるでジャンの方がプロポーズするみたいじゃね~か。

 

苦笑し、首を横へ振った俺は、ジャンへ「駄目」と言うように、

ステファニーの華奢な肩を「ぐいっ」と、抱き寄せたのである。

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