第99話「貴族令嬢を救出せよ⑥」
翌朝……
普段はリゼットに起こされる俺なのだが……
今朝は先に起きて、自宅内の扉の前で待っていた。
何故ならば、ステファニーに抱き着かれる形で、
いきなり、一緒に寝ている所を見られたら……
必ず! 大いに誤解される。
どこかで、ナンパして来た女子をお持ち帰りし、自宅へ引っ張りこんで、
宜しく、イチャをやっていたとか……
そんな誤解を受ける、突発事故を避ける為だ。
まあ、さすがにリゼットの自宅隣で、
そんなアホでヤバい事を俺は絶対にしないが。
あ、念の為、リゼットの自宅が隣に無くてもね!
しません! 今の俺の状況で、ナンパしてお持ち帰りなんて!
下手をすれば、嫁ズから総スカン、村を追放! となってしまう。……なんてね!
とんとんとん!
ジャスト! いつもの時間だ。
いつものノックが、リズミカルに鳴った。
「はぁ~い、旦那様ぁ、もう朝ですよぉ」
やはり、ノックをしたのはリゼットである。
「おう、リゼット、今開ける」
扉を開けると、いつもの元気なリゼット。
笑顔満開である。
でも、笑顔ながら、首を傾げ、それもまた可愛い。
「あれ?……珍しいですね。もう起きているのですか?」
「うん、起きていたよ。ちょっと理由ありでさ。お前に話があるんだ」
「ちょっと、理由あり? 私に話?」
「ああ、実はな、昨夜、女の子を助けたんだ。まだ眠っているよ」
俺の説明を聞き、真剣な表情を見たリゼット。
話は本当だと、認識したようである。
「ええっ、女の子!?」
「ああ、女の子」
「それって……本当に理由ありのようですね。お聞きします」
リゼットは、そ~っと俺の家へ入って来た。
そして、ベッドで寝息を立てているステファニーを見て息を呑む。
「え!? こ、この人って……」
「ああ、大声を出さないでくれよ、彼女はステファニー様だ」
俺が言った名前にリゼットは「ピン!」と来たようである。
「ス、ステファニー様って!? も、もしかして、オ、オベール様のご令嬢!?」
「そう……娘さんだ」
俺が答えると、リゼットは少し驚き、訝し気に言う。
「うわぁ、旦那様、……もしや、こんなに可愛いので、エモシオンから、ついムラムラして、さらって来たのですか?」
「違う違う、ついムラムラじゃないし、さらってなんかね~よ、助けたって言っただろう……今から、経緯を話すから」
「は~い。お話はお聞きしますよ、でも小さい声で話しましょうね。ステファニー様はお疲れのようですから、もう少し寝かせてあげたいもの」
俺の真面目な物言いを聞き、
リゼットは特別な事情があると、すぐ理解してくれたのだろう。
にっこり笑う。
俺はリゼットのさりげない優しさに触れ、嬉しくなった。
思わず彼女へ大きく頷いていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ステファニーは俺のベッドで、まだぐっすりと眠っていた。
寝顔はいかにも嬉しそう……安心しきっているといって良い。
『お忍びのお姫様』が眠っている傍らで、
俺はリゼットへこれまでの経緯を話した。
以前、俺が、ステファニーに「下僕になれ!」と絡まれたのがきっかけで、
彼女のお尻をお仕置きでペンペンした事。
俺がステファニーの事情を知り、同情。
そして最後に、本来は女子村民販売用に購入したアミュレットを、
お尻を叩いたお詫びもあって、ステファニーへプレゼントした事などなどを、
先日、嫁ズへは既に伝えていた。
変に誤魔化したくなかったしね。
当然、村の中でも嫁ズ限定の内緒話である。
だから、リゼットへの話が通じるのは早かった。
「それ、酷いです。いくら父親の為とはいえ、王都で無理やり、馬鹿息子の愛人にさせられ、散々おもちゃにされるなんて。そして挙句の果てにポイ捨てなんですか? それでは……ステファニー様が、あまりにもお可哀想です」
可愛い拳を握って、憤るリゼット。
しかし、すぐ笑顔となる。
ああ、怒っても、笑ってもリゼットは超可愛い。
肩までの「さらさら」な髪は、綺麗な栗色。
鼻筋が通っていて、切れ長の目。
瞳が鳶色をした超美しい少女、その名はリゼット。
この子が、俺の嫁。
「私……心の底から、嬉しいです。旦那様って、凄く強いだけではなく、やっぱり……本当に本当に優しいから」
「そうか」
「はいっ! 困っている女子を、もしも見捨てていたら……私、嫌いになります、旦那様の事……なんちゃって」
リゼットはそう言うと、可愛く「ぺろっ」と舌を出した。
「まあ……旦那様の事は大好きですから、絶対嫌いにはならないでしょうけど……危機に陥ったステファニー様を助けてくれたから、もっともっと好きに、大がいっぱい付く大好きになっちゃいました。超大好きっ、私の旦那様ぁ!」
感極まったのか、リゼットは俺に飛びついて来た。
そして、激しく熱いキスの嵐!
ああ、リゼット! お前は、すっごく可愛い!
完璧に、可愛すぎるぅ!
「う~ん……」
熱烈にイチャする俺達の気配を感じたのか、ステファニーが寝返りをうった。
目が、徐々に開かれて行く。
「あふぅ……もう朝? って、貴女……誰?」
寝惚けまなこのステファニ-へ、俺に抱かれたリゼットが微笑む。
「うふふ……私はケン様のお嫁さん……妻のリゼットです。ステファニー様、宜しくお願い致します」
リゼットの挨拶を聞いて、驚いたステファニーが、ばっと飛び起きた。
「あ、ああっ! よよよ、宜しくお、お願いしますっ!」
両手で慌てないよう、制したリゼットは、優しい眼差しをステファニーへ向ける。
「ステファニー様、今、旦那様から話は聞きました。でも改めてお話ししませんか?」
「は、はい!」
こうして俺とリゼット、ステファニーの3人は、
今までの経緯を話し合ったのである。
……15分後
真面目な顔付きのリゼットが、改めてステファニーへ尋ねる。
「では……ステファニー様のお気持ちは、本当に変わらないのですね?」
「は、はいっ! 私もケンの! ……いえ、ケン様のお嫁さんに! 妻になりたいですっ!」
真っすぐに、リゼットを見つめる、ステファニーの意思は固い。
ちょっと噛みながらも、はっきりと返事をして言い放った。
ステファニーが完全に本気だという事を、リゼットも認識したらしい。
「成る程! ステファニー様のご覚悟は、よ~く分かりました」
「はい! 宜しくお願いします!」
「では! レベッカ姉達も、大空屋で待っていますからこうしましょう。旦那様はまず姉達を呼びに行って下さい。イザベルおばさまには悪いですけれど、とりあえず内緒にして、この家まで、さりげなく呼び出して下さいね」
俺に『つなぎ』を頼んだリゼットは、
その間、ステファニーと話すつもりのようである。
まあ、リゼットが行くよりも、
まずは俺が行って、他の嫁ズへ話を入れた方が良いだろう。
「りょ、了解」
「その際、ミシェル姉に頼んで、大空屋で用意した朝食を、こっちへ運んで来て下さい。皆で朝ご飯を食べながら話をしましょう」
おお、全員で食事か。
それは、とても良い考えである。
一緒に飯を食いながら話せば、お互いの心の距離が縮まるのも早いだろう。
だけど、それにしてもリゼット……
どんどんお母さんのフロランスさんに似て来ている……
さっきのキス攻撃で、甘えん坊んの超美少女なのは、全然変わらないと分かるが、
『しっかり者の奥さん』に進化中って感じ。
うん! 頼もしい!
……と、同時にちょっとだけ怖い。
俺も『かかあ天下』のジョエルさん化……確定だ。
「わ、私も一緒に行った方が……」
申しわけないと思ったのか、ステファニーが俺との同行を申し出た。
しかし、リゼットはあっさりと却下。
「絶対に駄目です。ステファニー様、いえステファニー姉は、村の正門を通っていない、すなわち形としては不法にボヌール村へ入っています。後々の事もありますから、その辺りはちゃんと後で辻褄が合うように……ですよね? 旦那様」
「お、おお、そうだな」
不法侵入云々の理屈は通っているし、
俺の作戦上、今、ステファニーが村民に目撃されるのはまずいのだ。
一方、ステファニーは、リゼットの何気ない言葉の中に、
自分への気遣いがあるとすぐに分かったようである。
「リゼットさん! 姉!? 私の事……今、姉って呼んだの!?」
「うふふ、旦那様のお嫁さんで、私より年上のお姉様は皆、そう呼んでいるのです。ステファニー様を姉と呼んで大丈夫……ですか?」
相手は貴族であるし、初対面で、人となりも不明。
しかし、リゼットはすぐにステファニーの性格を見抜いたらしい。
案の定、ステファニーの表情が緩む。
一気に、緊張が解れたようだ。
「だ、大丈夫も何も!……すっごく嬉しいっ!」
ステファニーは小さく叫ぶと、リゼットへ抱きついた。
抱きつかれ、一瞬、びっくりしたリゼットではあったが……
俺を見て、ステファニーには見えないよう、
以前クッカがしたように親指だけを立てたのである。
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