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第95話「貴族令嬢を救出せよ②」

俺が決断したのを聞いて、クッカは、満面の笑みを浮かべた。


『うふふ、勿論、私もお供しますよ。いつものように全力でサポートします』


『そうか! ありがとう!』


『今から、急遽(きゅうきょ)出なくてはいけませんから、申し訳ないけれど、近しい村の女子達には、事後報告するしかありませんね』


……そうだな。

今は、夜。


まだ午後8時を少し回ったくらいだが、

朝が早いボヌール村は、夜寝つくのも早い。


いきなり起こしに行ったら、嫁ズの家族も巻き込んで何事かと大騒ぎにもなる。


うん! 納得!


さすが、気配りの女神(クッカ)様。


やはり俺の嫁さんは最高だ。


『OK! じゃあ、すぐに支度しよう。念の為、ステファニーの部屋に入るまでは俺だと絶対に分からないよう、風貌を変えようか』


『はい! その方が賢明です』


その時。


珍しく口を挟まず、(かたわ)らで、俺とクッカの話を聞いていたジャンが、

真面目な顔で、俺に頼み込んで来たのである。


『ケン様、お願いします!』


『ん? 何?』


『いえ! ぜひ、俺も一緒に、エモシオンへ連れて行って下さい! ステファニーちゃんを助ける為に全力を尽くして頑張ります! きっとお役に立ちますよ!』


確か……ジャンは、俺の使いをしてステファニーにハグして貰った。

その上、頭に、感謝のソフトキスまでも。


まさに役得。

 

その時、ステファニーは貴族特有の高慢さが抜け、ひどく素直になっていた。


いや、素直に変わったその姿が、『本来のステファニー』なのだろう。


そんな、『素直で可憐なステファニー』を、

ジャンはとても気に入ったようなのだ。


今、危機に陥ったと思われるステファニーを、何とか助けたいと考えたらしい。


そう! ステファニーが……素直に変わった、と言えば、

ジャンも最近、凄く変わった。


あの西の森のハーブ園に行って以来……


魔獣ケルベロスとタッグを組み、大群のゴブリンどもを一蹴してから、

ジャンの『何か』が変わったのである。


相変わらずケルベロスと口喧嘩はする。


だが、面倒臭いとか、一切言わず、

まめまめしく俺、嫁ズとボヌール村の為に働き、

『ちゃらっ気』が抜け、雰囲気がどっしりとして、凄く頼もしくなった。

 

だから、村の女子猫達の受けも良い。


ステファニーの件では、色々と頑張って貰ったし、

尽力したいと志願するのなら、俺はジャンの『男気』に応えてやりたいと思う。


『なあ、クッカ、ジャンも連れて行きたいんだが』


俺がクッカに伺いをたてると、全然OKだという。


『ええ! 良いんじゃないですか、私は大歓迎です。旦那様が、ジャンちゃんを「抱っこ」して転移魔法を発動すれば、心の絆も強くなってお勧めです』


む! それ……敢えて俺が抱っこする必要性を全く感じ無いが。


普通に、俺の傍に居るだけで、転移魔法の効果範囲内だと思うけれど。


まあ、これって、クッカが、俺とジャンの心の絆を深める為、アシストしたから、

彼女の言う通りにしようか……


一方、クッカの言葉を聞いて、案の定、ジャンは顔をしかめた。


『うわぁ、ケン様にかよ? 俺……男になんか、抱っこされるの嫌だなぁ……』


おい! 何だと、馬鹿野郎!


俺だって、男のお前なんか、抱っこしたくねぇや。


しかし、これだけ付き合うと、ジャンの天邪鬼、斜に構えた性格も分かって来た。


今のだって、半分本音なのは間違い無いが、半分は『照れ』なのだと。


こういうのも、一種のツンデレ、否、ヤンデレなのだろうか・


ま、猫のツンデレとか、当たり前だし、普通に、どうでもいいけれど。


なので、俺は「しれっ」と言ってやる。


『じゃあ良いよ、お前が嫌だったら、ここに置いて行くから』


すると! ジャンの奴、案の定、速攻で謝って来る。


『あわわ、ケ、ケン様! ご、御免なさい! もう二度と、そんな事言いません。どうか、お願いします! 俺を一緒に連れて行って下さい』


『よしっ! 許す! 従士として、俺達の供をしろ!』


『はいっ! ケン様、クッカ様の仰せの通りに! おふたりに忠実に仕えます!』


『うふふふふ、頑張ってね、ジャンちゃん』


こうして俺、クッカ、ジャンの3人は、

ステファニーの居るエモシオンの町へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


もう何度も使っているから、転移魔法も慣れたもの。

俺の熟練度は『神』レベルだものね。

 

という事で、俺達はあっという間に、

エモシオンの町から、少し離れた場所――とある原野に着いた。


少し歩いて、接近し、エモシオンの町へ到着。


目の前を、侵入者を阻むよう、石造りの防護壁が立ちはだかっていた。


今夜は月が綺麗で、淡い月明かりが正門を照らしている。


まだ、午後9前なのだが……町の正門は堅く閉ざされていた。


夜間は魔物や山賊などの襲撃があり、

とても物騒なので、ボヌール村ほどではないが、早めに閉め切っているらしい。

 

それに、俺達も真っ正直に、正面から入るつもりはなかった。


ちなみに、ジャンは俺に抱っこされたまま、移動。

なんだかんだ言っておきながら、凄くラクチンなので、文句は一切ナッシング。

 

さてと、周囲を改めて確認した上、再び転移魔法を発動させ、

目立たない町の片隅へ入った俺達。


更に、索敵魔法と夜目が利く視認を駆使。


人目につかないよう注意しながら、徐々にオベール様の城館へ近付いて行った。


加えて使っているスキルはといえば、森へ行った時同様、

暗視、隠形、気配消去、そして浮上の魔法。


音を全く立てず、地面すれすれを、滑空しながら進んで行く。


まるで、気分は忍者。

 

加えて、俺は衣装もまた黒ずくめファッション。

どこから見ても、隠密行動用装備って感じ。


変態人狼ライカンが、散々馬鹿にした魔王の手下風だと、

あまりにも凶悪過ぎてステファニーが怖がる。


だから、もう少し……優しいイメージには変えてはあるけど。


そんなこんなで近付くと、オベール家城館の周囲も幸い人影が無い。


俺は先日の段取りと同じく、俺の発動体と化したジャンを、地面に降ろし、

命じて、先に城内へ忍び込ませた。


ステファニーの部屋は、以前来た時に分かっている。


だから、ジャンの侵入場所も、彼女の部屋に1番近いピンポイントの場所だ。


先に城館内へ入ったジャンの視点から、俺にも館内が見える。


庭にも、人影が無く好都合。


音もなく走るジャンは、ステファニーの部屋の下まで走った。

 

俺は運が良い!


何と! またもやステファニーは自室の窓を開け、

「ぼうっ」として、外を見ていたのだ。


『ステファニーちゃん!』


「え!?」


いきなり、心と心の会話たる念話で呼び掛けられたステファニーは、

びっくりして、左右を見渡してから下を見た。


ここで、ジャンが、しれっと、ひと鳴き。


にゃおん!


「ああっ! ジャン……」


ステファニーは、思わず大きな声を出しそうになり、慌てて口を手で押さえた。


「と、言う事はケンも……」


ステファニーは声を潜め、改めて左右を見渡した。


多分、俺を捜しているのだろう。

早速、念話で呼び掛けてやる。


『おい! ステファニー! 俺だ、ケンだ。俺が見えないだろうが、お前のすぐ近くに居る。魔法で変身して、姿は全く違うけど、ケンだよ』


「ああ、あああ……」


ステファニーが、思いっきり両手を広げている。


切ない! という気持ちの波動が強く強く放出されている。


「ケン!」


『あまり肉声で、大きな声を出すな。念話で話そう。今、お前の部屋へ行くが、大丈夫か?』


『わ、分かったわ、ケン。大丈夫よ……私の部屋へ来て、早く来て』


『了解! 今、行くぞ!』


よし!と頷いた俺はまず、ジャンをステファニーの部屋へ送り、

自らも同じく彼女の部屋へ転移したのである。

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