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第94話「貴族令嬢を救出せよ①」

俺、ケン・ユウキがボヌール村の村長見習いになって、しばらく経った……


フロランスさんには釘を刺されたが……論より証拠?とか、実践が第一とかで、

ジョエルさんは、どんどん村長の仕事を振って来るようになっている。


さすがに、まず手本は示してくれるし、

頼まれるのが、雑事に毛が生えたようなレベルだから、こなしやすいが……


それゆえ、日々、通常の仕事に加え、やる事が一気に増え、俺は一層忙しい。


だが、それにもすぐ慣れた。


まあ、お陰で、村長としての訓練も出来て、村の仕事もひと通りこなせるし、

更には、その結果、嫁ズとの仲もどんどん深まるという、

充実した日々を送っていた。

 

そんな、ある日……

ひょんな事から、俺は良くない『噂』を聞く。

 

領主オベール様が治めるエモシオンの町から、北のジェトレ村へ、

更にその先の王都へは、相変わらず数多の商隊が行き来している。

その逆もまた然り。


その中の、とある商隊が途中、休息等の為、ボヌール村に寄った。

当然、あの「ど」が付くケチ親爺とは全く違う商隊である。


商人達が宿泊する、大空屋の宿屋において、

ミシェルの手伝いをしていた俺は、ふと彼等の会話を耳にしたのである。


前にも言ったが、意識をして聞き耳を立てた場合、俺の耳は常人の数十倍。


村へ来訪した商隊の中にヤバい奴は居ないかと、

念の為、いつもの通りチェックをしていたのだが……

ついばっちり、クリアに聞こえてしまった。

 

商人達の会話内容を、聞いた俺はびっくりした。


それは、とんでもない話だったからだ。


「おい、聞いたか? オベール様の愛娘ステファニー様が、エモシオンの町を数日後に出発して、王都メディウムへ嫁に行くそうだぜ」


「おお、俺も聞いたぜ。嫁ぎ先はよお、さる伯爵様の三男坊だそうで、大層な事だな」


「でもよ、ステファニー様には、エモシオンに来て頂く形で、婿を取るんじゃなかったのか? 彼女はさ、自分の生まれた故郷の町が大好きだと噂を聞いているぞ」


「いやいや、何でもステファニー様が嫁ぐ先の伯爵家は寄り親で、寄り子のオベール様は、どうしても断われなかったそうだぞ」


「じゃあ、ステファニー様は無理やり、王都へ送られるのかい?」


「いや、下手な事は言えないが、多分そうだろうな」


「おお、そりゃ大変だねぇ。どこの世界でも上下関係って厳しいよな、貴族もさ」


うお! これって……何だか、凄く嫌な話を聞いてしまった!


話を聞き終えた俺は、何事もなかったかのようにその場からダッシュ。


さりげな~く、「寄り親・寄り子とは何ぞや」と、

事情通のミシェルを捕まえて聞いた。


実は俺、中二病知識&雑学オタクにより、何となく知ってはいたが、

改めて、この中世西洋風異世界においての確認をしたのだ。

 

すると、ミシェルは当然の如く知っていて、いろいろと教えてくれた。


貴族社会の寄り親・寄り子とは、親子を模して結ばれた主従関係。

保護する側を寄り親と呼び、保護される側を寄り子と呼ぶのだそうだ。


基本的に家柄、爵位の上下等々で、親か、子かが決まるらしい。


また、寄り親となるのは、王族貴族、もしくは譜代の大貴族が多いという。


これって、いわゆる貴族社会における縦の派閥である。


それで、上下関係が厳しい云々と言っていたのか……納得。


つまり王都メディウムに住まう伯爵が寄り親、

辺境の町エモシオンに住まう騎士爵のオベール様は寄り子という事。


まあそんな事は置いといて、だ……


それよりも、あのステファニーが結婚!?


これって多分、政略結婚であり、

噂通り、彼女自身が希望した結婚話ではないだろう。

 

ああ、ステファニー……大丈夫だろうか?


いやいや、大丈夫のわけ……ないよな。


だけど、クロード・オベール家の、

単なる『いち領民』の俺には関係無い話だし……

 

俺は頭を振って、無理矢理、その話を忘れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その日の夜……

最近は、日課のようになった夜のイベント。


俺は、クッカとのデート&魔物討伐の準備をしていた。

 

だが昼間、聞いた噂を思い出して凄く凄く気になった。


つい、出かける準備の手を休め、「ぼうっ」としていたらしい。


気が付いたら考え込んでいたのだ。


そんな俺へ、空中に浮かんだクッカが話し掛けて来た。


『旦那様、ステファニーちゃんの事が、そんなに気になりますか?』


クッカは俺が、昼間の『噂』を聞いたのは勿論、

以前、ステファニーを励ました事も、彼女の将来を気にかけた事も知っている。


だから、ずばり! 直球を投げ込んで来たのである。

   

『……ああ、まあな』


対して、俺の返事は、自分で聞いても、なんとも頼りないものであった。

 

……この中世西洋風異世界へ来てから、

クッカはほぼ、ずっと俺の(そば)に居る。


西の森で、俺が心と身体を貸したあの日以来、また距離が近くなった気がする。

気持ちや価値観、考え方を凄く理解してくれていて嬉しい、愛おしい。

 

でも、俺だってそうだ。


毎晩デートしているから、クッカの性格や考え方、

そして将来の夢が分かっている。


オベール家の単なる駒として、強制的に結婚させられる、

可愛そうなステファニーの力になってやれたら……

そんな俺の気持ちをすぐ理解したクッカは、そっと背中を押してくれたのである。


『だったら、とりあえず、ステファニーちゃんへ、会いに行ってあげましょう』


『え? 良いのかな……』


俺には、すぐ判断が出来なかった。


問題解決に対し、どうすれば尽力出来るか分からないのに、

ただステファニーへ会いに行く意味があるのかが……


『うふふ、旦那様は優しいですね。色々と考えてしまうんでしょう?』


『色々、考えるか……そうだな』


『例えば……貴族には貴族の事情があるとか、ただオベール様の領民というだけで、しがない平民の自分には何もしてやれる事が無いとか……』


『うん……まあ、そうだな』


『でもね、後悔しますよ』


『え!? 後悔?』


『はい、後悔です。このまま何もしなければ……旦那様は必ず後悔します』


『…………』


後悔……

もしステファニーが王都メディウムへ旅立つ前に、

彼女と会わなければ、俺は後悔するのだろうか?


しかし俺は、まだ迷っていた。

クッカは優しく微笑み、きっぱりと言い放つ。


『何もしないで後悔するよりも……全ての手を尽くして、動くべきだと、私は思いますよ。その結果、駄目で後悔する方がまだ全然マシだと思います』


『同じ後悔するのでも、全ての手を尽くして、動くべき……その結果、駄目で後悔する方が、まだ全然マシ、か……』


クッカの言葉を確かめるように、俺は繰り返した。


そうか……

やるだけやって、それでも駄目だったら……まだ、諦めもつくか。


決めかけた、俺の気持ちを読んだかのように、クッカが(げき)を飛ばす。


『そうです! それに最初から諦めてはいけませんよ。レベル99の旦那様ならば、ステファニーちゃんの力に、なれるかもしれないじゃないですか』


そうだ! 旅立つステファニーから話も聞かず、何もしなかったら……


俺は必ず後悔する! その通りだ!


クッカ、ありがとう!


さすが、最高のサポート女神! 否、俺の嫁だ!


『うん! そうだな! よっし! 善は急げだ! ステファニーに、すぐ会いに行こう! これからな!』


遂に決断した俺は、とりあえず、やれる事を全力でやろうと心に決めたのである。

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