第91話「村長からの依頼①」
俺はある日、村長のジョエルさんに呼ばれた。
一応、俺はジョエルさんの従士という話でボヌール村へ移住したから、
彼は主人という事になる。
まあ、客分扱いという事で、一応、自由にやらせて貰ってはいるし、
仕事は、ガストンさんみたいに専門職ではなく、
遊軍みたいに、何でもやっている。
そして、普段は、フレンドリーに接して貰ってはいる。
なので、主人とはいえ、束縛感はナッシングだ。
いずれ、奥様のフロランスさんともども、
ふたりが義親になるのかと思うと、何となく感慨深い。
話を戻すと……
朝、いつものように俺を起こしに来たリゼットが、しばし経ってから、
「お父さんが怖い顔で呼んでいる」と言うのだ。
俺の家へ来るやいなや、リゼットがすぐに抱きついて来て、
いつもの『甘い朝』を過ごしていた俺だが……
怖い顔というショックで、いっぺんに眠気が醒めた、吹っ飛んだ。
え? 何だろう? 急にジョエルさんから呼ばれるなんて?
それも怖い顔で? 呼んでいるって……
ええっと……俺、何かやらかしたかなぁ。
何となく、胸に手を当てて記憶をたぐった。
単に、言葉の比喩ではある。
だが、そのポーズをとって「胸に手をあてて、よ~く考えてみろ」
という有名な台詞がある。
しかも俺の経験では、その台詞、
良い場面で言われていた試しがない。
何らかの理由で、「相手を責めている」っていうのが殆どだ。
リゼットは、俺が呼ばれた理由を知っているのだろうか?
俺が聞こうとしたら、ズバンと直球。
リゼットから先手を打たれた。
「旦那様、愚図愚図しているとお父さん怒るよ」
え? お父さんが、怒る?
やっぱり俺、何かやったのかな?
……済みません、告白します。
先日の朝、どさくさに紛れて……
リゼットの胸を、ほ~んのちょっとだけ触るというか、かすりました。
ふわっと、柔らかくて、すっごく気持ち良かったです。
最高でした。
……それが、ばれたとか?
でも、その時、リゼットは凄く恥ずかしがったが、結局は許してくれた。
あれは、無理矢理じゃない、ふたりの合意だった筈。
15歳同士、ささやかな愛のふれあいなんだ。
なので、変に言いつけたりはしないはず……
俺は一抹の不安を持ってリゼットの家、ブランシュ家へと向かった。
すぐ隣のブランシュ家に着くと、早速、食堂に案内される。
何となく、いつもと違う、張り詰めた空気が満ちているように感じる、
のは、気のせいか……
人間でイメージすれば、改めて姿勢を正すという感じ。
ええっと、うむむ、このパターンは?
何となく記憶にあるぞ! 既視感がある!
思い出した! リゼットを助け、初めてボヌール村へ来た時とほぼ一緒だ。
そして、案内された食堂には、俺を呼んだリゼット父ジョエルさんだけでなく、
リゼット母フロランスさんも鎮座して待っていた。
うわ! ふたりの表情は、硬い。
これは、只事ではないのかも……一体、何だろう?
俺の能力……
ふたりから放出される心の波動を読めば、すぐに状況は分かる。
だが、ここはちゃんと、話を聞いた方が良いだろう。
緊張を隠し、俺が笑顔を向けると……
先に口を開いたのは、意外にも母フロランスさんの方である。
口調は、やはり硬い。
「おはよう、良く来たわね、ケン」
機嫌の悪そうな妻に合わせるよう、ジョエルさんも淡々と言う。
「……まあ、座ってくれ、朝飯を一緒に食おう」
うああ、雰囲気が硬い!
そして、何だか「ピリッ」と来た。
どちらにしても、何か大事な話だというのが分かる。
リゼットが気を利かせて、さっと俺が座る椅子を引いてくれた。
「さあ、座って! これから厳しいご沙汰がくだるわよ」と言うかのように。
うう、もう……まな板の鯉だ。
俺は覚悟を決めて座った。
「し、失礼します」
「ケン、早速だが……」
俺が座ったと同時にジョエルさんが重々しい口調で話を切り出した。
おお、早速が来た! すぐ本題にって事か?
何だろう?
「お前は……リゼットと結婚するんだよな?」
うお! やっぱ、それかっ!
大事な愛娘のおっぱいを触ったからか!?
「ごら! 不埒なくそ野郎! きっちり責任取って貰うぜ!」って事ね。
でも、それだったら、むしろ大歓迎だ。
ここで臆するなど、言語道断。
逆に真剣な表情で、堂々とした上、
「喜んで!」って、某居酒屋的答えで返してあげよう。
「はいっ! 俺ケン・ユウキは! 真剣にリゼットさんを愛しております! そして、ぜひ! 結婚したいと思っています! おふたりの大事な娘さんと! ぜひぜひ! 結婚させて下さい!」
俺は、はっきりした返事と意思表示をし、リゼットとの結婚の希望を述べた。
すると、ジョエルさんは相好を崩して喜ぶ。
「おお! ケンよ、そうか! 打てば響く、期待通りの良い返事だ。私達夫婦も、本当に嬉しいぞ! 結婚相手の男子として、文句無く相応しいお前に、リゼットとの結婚を許そう!」
ジョエルさんの言葉を聞き、
フロランスさんも、うんうんと嬉しそうに頷いている。
ああ、とりあえずは、良かったぁ!
ここで再び、ジョエルさんが言う。
「ちなみに、リゼットと結婚して、ず~っと住んでくれるんだよな?」
ず~っと住む?
……ああ、このボヌール村にか。
うん! 当然だ、俺はこの村が大好きだから。
このクエスチョンも問題ナッシング、答えは当然決まっている。
「は、はいっ! 当然ですっ!」
「ふむ! まあ、リゼットとの責任は、きっちり取って貰う。この村には永住して貰わないと、な」
は!?
永住はともかく、リゼットとの責任って?
このプリムヴェール王国の法律では、創世神教会の規範に則り、
「16歳未満は結婚及び、最終的付帯行為をしてはならぬ!」というのがある。
俺はその法律を守って、
リゼットを始めとした村の女子達――嫁ズとは、
未だ、最終的付帯行為、つまり最後の一線を越えてはいない関係だ。
責任といわれるほど、不埒な事はしていないぞ……一応。
だけど……
実は、俺……何とか星人。
なので、嫁ズ何人かのおっぱいは、キスの延長でちょっとだけ、触ったけど……
つまり所詮、したのはBって事。
あ!? そういえば……
レベッカとはオーガとの戦いの際、前も後ろも洗いっこしたっけ?
でもあれは、ふたりだけの禁断の秘密の筈……
それに、ええっと!
洗いっこは、心と心の距離を縮める為の健全なスキンシップだろ?
俺は自分の行為に対し、自問自答、必死に言い訳していた。
もう、考え過ぎて……
あ~、駄目だ!
頭が「ぐるぐる」して来た~
でもやっぱ、誰とも最後の一線は超えていないから。
嫁ズとは、まだまだプラトニック継続中!
これで、はい、決まり!
したのは全て互いの同意のBだし、それ以上やましい事は一切していませ~ん。
責められたら、断固として抗議しよう。
渋面の俺の顔を見て、ジョエルさんは逆に訝しげだ。
あれ? 俺って、認識が違うのだろうか?
「実はな、ケン。お前との事をリゼットが嬉しそうに言うのさ、何度も何度もな」
は!? リゼットが嬉しそうに……言う?
何度も何度も? ……俺との事?
そう言われて、俺が思わずリゼットを見ると、
彼女は恥ずかしがり、真っ赤に……
そして終いには、うつむいてしまった。
ああ、ヤバイ!
リゼットのおっぱい、ソフトタッチは、ほんの出来心なんですって、
先に謝っておくか?
そんな愛娘の様子を見た、ジョエルさんが「にやり」と笑う。
「ふふ、ケン、お前に優しくキスされたってな」
へ!? キキキ、キス!?
おっぱいじゃなくて?
キスで責任って!?
何なんだ!!
驚く俺に対し、ジョエルさんは真面目な表情で言い放つ。
「まだ15歳のお前が、うら若き娘の唇へ、キスなんて大それた事をしたらだな、しっかりと責任を取って、キスした相手と結婚し、この村に永住する規則となっているのだ」
は、はい~!?
そんなルール、初めて聞いたんですけど……
俺は「ぽかん」と口を開けて、呆然としてしまう。
虚脱状態の俺を見て、フロランスさんもにこにこしている。
おいおい!
何なんだ、この夫婦は……
というか、これからこの人達が俺の義両親になるん……だよね?
しばし経って、ようやく俺はジョエルさんに問い掛けた。
「そ、そんな法律があったんですか?」
「うむ! 正式な法律ではないのだが……まぁ、村長の私がたった今決めた、ボヌール村独自の規則だ。なかなか良いだろう? ははははは」
「ほほほほほ」「うふふ」
ジョエルさんの言葉に反応し、
フロランスさんとリゼットの笑い声が合わさった。
ええっと? それは今?
今、決めたの?
それもボヌール村独自のルールって……ローカルルール?
「あの~、いくら何でも、そりゃ無茶な」と言いかけた俺。
しかし!
ジョエルさん、フロランスさん、そしてリゼット。
3人が、有無を言わさないといった笑みを浮かべている。
その場に醸し出される、独特の雰囲気。
対して、窮地に追い込まれた俺は、もうOKの返事をするしかない。
「わ、分かりました。俺、リゼットと結婚して永住します、ボヌール村に」
すると俺の言質を取り、ジョエルさんは笑顔。
「おお、そうか! まあ、お前はリゼット以外の女子達とも結婚するそうだから、もしノーと言ったら、村民全員一致で、容赦なく極刑になるところだったぞ」
「え!? 村民全員一致で、容赦なく極刑!?」
「ははは……危ない所だったな」
ジョエルさんは、また面白そうに笑う。
その笑みは、凄みがあるといっても過言ではない、強烈なものであった。
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