第90話「女神と美少女の共通項⑨」
「私を呼び捨てにしても構わない」というクッカの提案は、
この中世西洋風異世界の価値観において、
とんでもなく畏れ多いという事になるらしい。
当然、リゼットはびっくり仰天。
「えええっ!? 天界の女神様であるクッカ様を呼び捨てにするなんて、絶対無理ですよ」
しかし、クッカは退かない。
「いいえ、全然構わないのよ」
だがしかし、リゼットも譲れない。
「と、女神様ご自身が仰いましても絶対に無理です! バチが当たります!」
「うふふ、バチなんか当てないわ。クッカと呼んで構わないの!」
ああ、これはヤバイ。
どちらも譲らずに、ふたりの会話が凄~く不毛になって来た。
このまま押し問答になっては、どちらにしてもまずい。
しかし、賢いリゼットは機転を利かせたのである。
「い、いえ……でも……じゃ、じゃあ……本当に畏れ多いのですが……こういうのはいかがですか?」
「え? リゼットちゃんに、何か良い考えがあるのかしら」
「いえ、良い考えとか、そんなに大層なご提案ではないのですが……ボヌール村で年上の女の子を呼ぶ時の呼び方ではいかがでしょう?」
「え!? ボヌール村で年上の女の子を呼ぶ時の呼び方? すっごく興味あるわ! ど、どう呼ぶの? 教えて!」
リゼットから、新たな提案を聞いたクッカ。
凄い喰いつきようだ。
俺同様、さっきからの会話に不毛さを感じていたのだろう。
何か、解決策を見出したいと、考えていたに違いない。
対して、リゼットは、クッカの凄い勢いに気圧されている。
盛大に、噛んで答えていた。
「は、は、はいっ! で、では! ク、ク、クッカ姉は……い、いかがでしょうか?」
リゼットにとっては、畏れ多くも、単なる人間から天界の女神様へのご提案。
果たして……結果は……しばしの沈黙。
俺にしか、聞こえないどらが、だだだだだだだだ!と心の中で鳴っている。
そして、じゃ~ん!!!
シンバルが、打ち鳴らされた。
「え!? クッカ姉!? ……おお、クッカ姉ね! 良い響きよ! その呼び方、とっても良いわっ!!」
クッカの心が魂が、大いなる喜びで満ちている。
自分が家族になる、確かな実感が湧いているのだろう。
意外ともいえるクッカの反応に、リゼットは戸惑いを見せる。
「え!? そ、そんなに……良かったですか?」
「うん! うん! 私がリゼットちゃんのお姉さん……か! うふふ、分かった、全然OKよ」
「あはっ! 良かったぁ」
こうして……
折衷案は、無事に受け入れられた。
大きく息を吐いて安堵したリゼットも、凄く嬉しそうだ。
よし! これでいよいよ、準備完了!
クッカは、いきなりエンジン全開の話しっぷりである。
「じゃあ、クッカ姉さんが、リゼットちゃんへ、バッチリ、ハーブの手解きをしますよぉ!」
「は、はいっ! な、何卒宜しくお願い致します!」
「了解! ……ええっと、まずはララルーレ。この花を乾燥させて飲むと様々な症状に効果があるといわれます。風邪以外に鎮静、発汗にも良いですね」
「あ、ああっ!」
ララルーレと聞いたリゼットは、何かを思い出したらしい。
「ど、どうしたの?」
「この前! お祖母ちゃんの風邪対策で、旦那様がここから色々ハーブを持って来てくれた時って……もしかして! クッカ姉が旦那様へアドバイスしてくれたのですか?」
「うっふふふふ、ピンポン! ピンポン! ピンポ~ン!! 大当たり~~!! これからも任っせなさ~い」
「わぁお! クッカ姉、あ、ありがとうございますぅ!」
「うふふふ」
おお、麗しき姉と可憐な妹の会話。
何と美しい!
それから……
クッカとリゼットのハーブ談義は、凄く盛り上がった。
何度も言うが、リゼットは本当に聡明かつ真面目で良い子だ。
ふたりともハーブに関してはオタクと言って良い位詳しいが、
リゼットは自分が知っている事でも、敢えてクッカに教えを請うたから。
そう! リゼットは相手を気遣い、「立てる」事を良く知っている。
そして笑顔で「はきはき」と返事をして、相手の話を素直に良く聞く。
これって簡単そうに見えるが、結構難しい。
俺の私見だが……まずは、聞き役に徹する事が初対面の相手と上手く折り合い、
仲良くなるコツだと思う。
こんな子は、誰にでも好かれる。
その上、典型的な『妹キャラ』だから皆に可愛がられるのだろう。
「うふふ、リゼットちゃん。いつまでも話は尽きないけれど、そろそろハーブを採集しましょうか?」
「はいっ!」
クッカ(外見は俺)とリゼットふたりは、
色とりどりの花が咲き乱れる様々なハーブを指差ししながら、
必要なハーブを摘んで行く。
「こんなものかしら?」
「そうですね、クッカお姉様」
最初は小規模なハーブ園で……
巻き添えを食って俺が目立つ事なんて絶対にないように。
ふたりの意思は同じである。
そして最後の話題は……何と俺の事になってしまう。
「リゼットちゃん、私ね、旦那様が大好きなんですよ」
まずはクッカが、口火を切った。
一方、リゼットも負けてはいない。
「わ、私も大好きです! ええっと……クッカ姉は、旦那様のどこが大好きなんですか?」
「ふふ、全部! かな?」
「あ~っ、私も全部ですよぉ。でも敢えて言えば、どこですか?」
「あのね! 強くて真面目で、思いやりがあって、誰にでも優しい所! 年配の同性に好かれるのも、ポイントが高いわ!」
「クッカ姉! 私も全く同じです! 後は好き嫌いがなくて、私達が作ったご飯を何でも、もりもり元気に食べる所も! それに旦那様が作る料理も凄く美味しいし、私達も大好き! そして家事も率先してやってくれるんです!」
またもや盛り上がる、クッカとリゼット。
どこからともなく俺の耳には、
「大爆発しろ!」という声が、何度も何度もたくさん聞こえたような気がした。
「クッカ姉……ミシェル姉の言葉って憶えていますか?」
「ええ! はっきりと憶えているわ」
ああ、俺だって、はっきりと憶えている。
ミシェルは、言った。
クッカも含め、早く家族全員で暮らしたいと!
「クッカ姉、私も全く同じ気持ちです! 少しでも早くお会いして一緒に暮らして行きたいのです!」
リゼットはきっぱりと言い切った。
すると、クッカは、リゼットをじっと見つめる。
綺麗な碧眼が潤み始めている……
「う、嬉しいっ! あ、ありがとう! リゼットちゃん、本当にありがとう!」
俺の身体を借りたクッカは、また泣いていた。
リゼットの気持ちが嬉しくて、そっと泣いていた。
対するリゼットの目にも、大粒の嬉し涙が浮かんでいる。
そして、この俺も……
ふたりの美少女嫁の優しい気持ちに触れて……
つい貰い泣きしてしまったのである。
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