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第89話「女神と美少女の共通項⑧」

俺の心、つまり魂に、クッカの魂が宿った。

 

自分の意思とは関係なく……唇が僅かに動き、声帯が震える。


北の某県、某山の霊的お婆さん達って、このような感覚を味わうのだろうか?


以前、人狼どもが現れた際、声帯だけを貸した時とは比べ物にならない感覚……


そして……


「はじめまして、リゼットさん……クッカと申します」


おお! 遂に!


遂に聞けた!


今までは念話で話しただけだったけれど……


ああ! これがクッカの生声……なんだ。


どう変わったのか、上手く言えないけれど……

敢えて言うのならば、マスクを取って話すというのが妥当かも。

 

クッカの生声は想像を遥かに超える美しい声。


やや甘めで、透明感のある声。


某有名声優にそっくりな声!


否、もっともっと綺麗で可愛い声なのだ!


もしもクッカに、俺の大好きな『アニソン』を歌わせたら、きっと上手いだろう。

推しのアニソン歌手以上に感動し、泣いちゃうかもしれないな。


そして俺の意識は今、クッカの魂の片隅にあった。

やはりクッカの魂は、とても温かく、居心地が良い。

 

そして何故なのか……やけに、否! ……とんでもなく懐かしい。


以前に、感じた事のある感覚だ……間違いない。

 

でも……本当におかしい、何故なのだろう?


この、懐かしく不思議な感覚は?


今にも思い出せそうで、思い出せない!


「え!?」


一方、リゼットはといえば、本当にびっくりしたようだ。


俺の口から、いつもと全く違う、女性の美声が出たから当然だろう。

 

事前に(しら)されてはいても、そりゃ驚くに決まっている。


詳しい事情を知らない人が(はた)から見たら、まるで腹話術だから。


男子が、超綺麗な女性の声で話す。

どこかの『専門店』へ即座にスカウトされかねない……なんてね。


という馬鹿な冗談はさておき……


しばし、呆然としていたリゼットであったが、すぐ我に返った。


真面目で信心深いリゼットは「まず、きちんと挨拶をしなければ」

と考えたようだ。


「あ! ご、御免なさい。初めまして! クッカ様! わ、私はリ、リゼットと申します」


「うふ! リゼットさん。こちらこそ、初めまして、女神のクッカです。いきなりでは、びっくりするわよね。もしも私が貴女だったら、驚きのあまり、バタンと倒れちゃうかもしれないもの」


優しく気配りしてくれたクッカに、リゼットは感激したらしい。


「あ、ありがとうございます! お気遣い頂いて……あのう……」


「うふふ、なあに?」


「クッカ様は……本当に天界の女神様なのですか?」


ずばりと、直球を投げたリゼット。


クッカも、気さくに答えようとする。


「それはね……ピ~ッ!!!」


と、ここで、派手な電子音? つまり自主規制音が鳴った。


耳を刺すような、かん高い音を聴いたリゼットは、思わず身体を震わせた。

 

おいおい、これって……前世の自主規制音、そのものじゃね~か。


TVで、放送禁止用語が出た時と一緒。


とある海外番組で、外人さんがスラングを言う時なんか、

連チャンでガンガン鳴り続ける。


この音で、台詞(セリフ)が聞こえなくなるくらいに。


うむむ、管理神様……俗っぽいっす。


もっとこの世界に合った楽器とかでやると、それなりの趣きがあるんだけどな。


でも「良いじゃん、分かり易いよ~ん」という、いつもの声が聞こえる気がする。

 

ただ、異世界住人のリゼットには、こんな機械的なピー音、

到底、理解出来る筈もない。


「えええ!? な、な、何ですか!? この音!!」


「ああ、やっぱり制限が掛かってるのね……」


「せ、制限!?」


クッカに言われて、リゼットは「きょとん」とした。


いきなり『制限』と言われても、わけわかめ、

つまり、わけが分からないに決まっている。


なのでクッカが補足説明。


「ええ、制限というのはね、貴女へ告げては、いけない内容になると、天界から規制が入るの」


「え!? き、規制ですか?」


「ええ、そもそも、天界の女神と地上の人間は、正当な理由無く、むやみに直接、話をしてはいけない。そういう決まりなのです」


「で、では……クッカ様とこうしてお話しするのは、(おそ)れ多い、禁断の行為なのですか?」


「うふふ、そこまで怖がらないで大丈夫よ、リゼットさん。今回、貴女と会話する許可も、私達の旦那様が頼んで……ピ~ッ!!!」


「あ!?」


ああ、また、電子音が鳴った。


これは、分かり易い。


管理神様と俺の会話部分も、むやみやたらと話してはいけないのだろう。


「うふふ、御免なさい。耳障りだろうし、ろくに話せなくても我慢してね」


クッカが謝罪するが、リゼットにしてみれば、こんな音など問題ではない。


憧れの女神様と、直接話せるだけで嬉しいのだ。


「い、いいえっ! わわわ、私、感激です! それにクッカ様が、私達を守ってくださっているからこそ、こうして、日々幸せに暮らせるのです。……深く深く! 感謝しておりますっ!」


「うふふ、幸せに暮らせるのは、ふるさと勇者の旦那様が常に、頑張ってくれているからよ。女神の私は、ほんの少しだけお手伝いをしているに過ぎませんから」


「は、はいっ! 旦那様にも凄く感謝しています。ボヌール村が平和で便利になるのは旦那様のお陰ですから」


おお、嬉しい事を言ってくれる。


クッカの魂に憑依され? 何も出来ない俺が「じーん」としていたら、

そろそろ頃合と見たらしい。


クッカが『今日の本題』に入ろうと提案したのだ。


「確かにそうよね! さてと、リゼットさん、折角このような場所に居るのですから大好きなハーブの話でもしましょうか?」


「は、はいっ!」


大好きなハーブの話!


天界の女神様は、どのような、そして、どれだけの知識があるのだろう?

一体どんな事を、教えてくれるのだろう?


そして、共通の大好きな趣味の話をすれば絶対に楽しい。


リゼットの目は、高鳴る期待に爛々と輝いていた。


でもクッカはとても慎重だから、まずリゼットの意思確認をする。


「ええっと、リゼットさん……いえリゼットちゃんは、ボヌール村にハーブ園を造りたいのよね」


『さん付け』で言いかけたクッカが、リゼットへの呼び方を変えた。

少しでもフレンドリーに話したいのだろう。


リゼットの夢は明確で、意思は固い。

だから、即座に返事を戻す。 


「はいっ! そうです、この森のハーブ園みたいに誰もが(くつろ)げる場所を」


「うわぁ、素敵ね! でも千里の道も一歩からと言うわ……旦那様の事も考えて最初は数種類に絞って育てましょう」


「はいっ! クッカ様のご意見に、私達は皆、賛成しています」


相変わらず『クッカ様』と呼ぶリゼット。


創世神様に連なる女神様相手には、当然の事である。


しかしクッカは、全く尊大な部分がなかった。


「リゼットちゃん……様は不要よ。私の事はクッカと呼んで構わないわ」


おお! 天界の女神様を何と!


『呼び捨て』で呼ぶようにというクッカの大胆な提案に、

信心深いリゼットは、大いに仰天したのである。

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