第92話「村長からの依頼②」
俺が今、居るのはリゼットの家。
つまりボヌール村、村長宅ブランシュ家。
今、朝食が終わり、皆でお茶を飲んでいる。
俺とリゼットの結婚話が、
彼女の両親ジョエルさん、フロランスさんご夫妻の公認を貰うという、
緊張感漂った?儀式を経て。
ジョエルさんが、俺を見て、にっこりと笑う。
おお、まだ何か……あるのだろうか?
と、その時、突然、切り出すジョエルさん。
「いきなりだが、ケン、実はお前に、『村長見習い』をやって欲しいのだ」
「は?」
え!? 俺が!? 村長見習い!?
このボヌール村へ来たばかりの、
元よそ者かつ新参者で、それもたった15歳の俺が?
これまた、唐突な依頼である。
俺が「ほげっ」としていると、ジョエルさんは、ちょっと厳しい目付きになる。
「おいおい! ケン! は? じゃないぞ。しっかりしてくれ! 私達夫婦の愛娘リゼットの夫になるという事は、つまり私の跡を継ぐという可能性が出て来る。当然……だろう?」
成る程。
一旦は唐突なお願いだと思ったが……
まあ良く考えてみれば……ジョエルさんの言う通りだ。
ちなみに、ボヌール村の村長職は、完全な世襲制ではないらしい。
それでも先代は、ジョエルさんの父だったという。
ジョエルさんとしては、リゼットの夫となるこの俺に、
村長職を継いで欲しい気持ちがあるのだろう。
そうなるかも、という予想が無かったわけではない。
でも、さすがに、
「今、すぐ」の、この展開は、完全に想定外。
で、全く予想をしていなかった。
「あのう……たった15歳の、この俺が……村長見習なのですか?」
「おいおい、そんなに緊張しなくても大丈夫さ」
そうジョエルさんは言う。
けどなぁ……
俺は、やはり口ごもってしまう。
昔から、生徒会長とか、何とか委員とか、そういう役職には縁がない。
というか、選ばれそうになっても、基本的に避けていた。
理由は簡単。
だって……いろいろ面倒臭いから。
まあ、そんな事は絶対に言えないし、もしもここで言ったら、大騒動必至!
「ですけど……」
「ケンよ、まあ、聞け。この村の村長はそんなに重責ではない。一番の難題、懸念事項は魔物の襲撃なのだが、最近は何故か激減しているからな。まあ基本的にはだな、このボヌール村の繁栄、発展を考えて、良き結果を出せばいい話だ」
いやあ、しれっと、「良き結果を出せばいい話」とか、
典型的な、言うは易く、行うは難しじゃない。
「そうなんですか」
ジョエルさんが言う、一番の難題、懸念事項という魔物の脅威に関しては、
実のところ俺が解決している。
内緒だが、この仕事が現段階では『ふるさと勇者』のメイン業務。
最近は毎夜、クッカとのデートを兼ねて、思いっきり無双しているのだ。
え? 麗しき天界の女神とイチャしながらの仕事なんて、気楽で良い?
お前なんて、大爆発しろ?
仰る通りです……毎晩、魔物退治なんか二の次で、思いっきりデート三昧です。
一切、反論出来ません。
でも、ジョエルさんの様子では、まだ話の続きがありそうだ。
俺は、次の言葉を待った。
「それにだな。私は後、3年間は村長を務めるつもりだぞ。ケンが村長になるのは、その後だ」
「え? ジョエルさんが3年間は務める? なら3年後に俺が村長!?」
俺は、また驚いてしまう。
おいおいおい! 3年間って!?
たった3年間だよ!
俺、若干18歳の若さで村長になるのかよ!?
しかし何気なく言ったジョエルさんのひと言に、
今度はフロランスさんが反応した。
「貴方!」
冷えびえとした、フロランスさんの声。
凄く嫌な予感がしたのであろう、ジョエルさんの身体が僅かに震えている。
「な、な、な、何だい? フロランス……」
「後3年間は村長って……その後、貴方は、どうなさるおつもりですか?」
「い、いやぁ、当然、引退して悠々自適……って、うわぁ!」
フロランスさん、凄く怖い目でジョエルさんを睨んでいる。
そして、厳しい口調で夫を嗜めたのである。
「ダメです! いくら『婿』だからといって、ケンに村長の仕事を全て押し付け、自分だけ楽をするなんて絶対に許しません! ただでさえケンは忙しいのですから」
フロランスさんは村長夫人だけあって、この村の事を完全に把握しているし、
村民の誰とも仲が良い。
ミシェル母イザベルさんとも、大の親友だそうだ。
なので、俺が他の嫁ズとの兼ね合いで、めっちゃ忙しいのを知っていたのである。
「わ、分かった! か、身体の続く限りはやる。絶対にやる!」
ぶるぶると震えながらも誓うジョエルさん。
うむ! ……これでブランシュ家の家庭内の力関係、
つまりパワーバランスは、よ~く分かった。
俺も、しっかりと含んでおこう。
それにしても……
リゼットも、いずれはフロランスさんみたいに怖くなるのだろうか?
俺は複雑な思いを持ち、無言のまま、柔らかく微笑むリゼットを見つめていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さてさて!
ブランシュ家での朝食と話し合いが終わり、
俺は、すぐそば、隣接する自宅へと戻る。
当然……リゼットも一緒だ。
今回の話し合いで、結婚が完全公認になったから、ぴったり俺にくっついている。
家でふたりきりになると、最初はやっぱりキス。
目覚めのキスから始まって、今日もキス三昧。
ああ、リゼットの唇は甘くて美味しいなあ!
「旦那様」
「ん?」
「えっと……触って良いですよ♡」
「え? さ、触ってって?」
「もう! 私の胸をですっ! 婚約者、なのですから……」
頬を赤くし恥じらうリゼットだが、俺はそう言われると逆に戸惑ってしまう。
ええっと……じゃあ……遠慮なく。
「あふん♡ ああん♡」
リゼット、俺に胸を「さわさわ」されると、甘い吐息、
そして目を閉じて気持ち良さそう。
おお! これぞ! スキンシップの醍醐味!
どんどん、愛が深まる感じだ。
でもこんな事しているのが、お父さんのジョエルさんに知れたら……
確実に殺されるだろうなぁ。
俺は、つい……ぽつりと呟く。
「リゼット、これも、ふたりだけの秘密……だよな」
「いいえ!」
え!? 何!?
今、なんて仰ったのですか? リゼット様?
いいえ!って……俺の胸タッチは、内緒じゃないのですか?
「お母さんは、知っていますよ」
「え!? フロランスさんが!?」
「はい! お母さんは旦那様が望んだら、ちゃんとスキンシップはして貰いなさいって。私が望む場合でも、自然にお誘いしなさいって……でも『最後』は結婚するまで絶対に駄目! って言われましたけど」
おいおい! 本当かよ!
それ……凄いな。
もしも俺に愛娘が居て、ジョエルさんの立場だったら、絶対に許さないけど……
同性の女親って、そうなんだ!
いかん! つい主語が大きくなった。
まあ、フロランスさんのみ、独自の価値観及び判断かもしれないけれど……
俺は、改めて自分に置き換え考えてみた。
まあ……
俺も子供が息子だったら、フロランスさんみたいにはなるか。
息子だったら、ね。
そうだよ、息子が可愛い彼女を連れて来たら全然OKというか、むしろ大歓迎だし。
だけど、愛娘が彼氏を連れて来たら、絶対に許さず、瞬殺だけど、さ。
リゼットは更に笑顔で言う。
「お母さんもね、お父さんから、結婚前にたっぷりスキンシップして貰ったから、あんなに仲が良いんですって……まあ、今もそうみたいですけど……」
たっぷりスキンシップして貰ったから、あんなに……仲が良い……
今もそうみたいですけど……か。
……俺は、先ほどあった未来の義両親の『やりとり』が目に浮かんだ。
むう……あれって、典型的な『かかあ天下』だよな?
そうか……でも納得。
うん! 確かにふたりは熱々だ!
最高に仲が良い、と思う。
そうそう、どうであれ、愛の形は様々なんだと。
ふたりと周囲が幸せで、迷惑をかけてさえいなければ全然OK!
俺は妙に納得して、再びリゼットを優しく抱き締めていたのである。
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