第84話「女神と美少女の共通項③」
『お前だけで、果たして、大丈夫なのかだとお!! しゃ~!! ふざけるなぁ!! 駄犬めぇ!! 黙っていろぉ!!』
唸り、激高するジャン。
歯をむき出し、全身の毛を派手に逆立てて怒る猫。
対して、冥界の魔獣……魔犬は表情を変えず冷静だ。
『ふざけてなどいない。今回は、幻影たるクッカ奥様は問題無いとして、主と、リゼット奥様の安全をお守りするのが、最優先だ。俺が主の代理として、お前と、一緒に戦おう』
主である、俺とリゼットの安全が最優先。
確かに、ケルベロスの言う事はいちいち正論だ。
しかし、言い方がまずい。
俺の代理という事は、イコール、ジャンの主人という事になる。
つまり「俺がお前の上に立つぞ!」という意味に等しい。
ケルベルスに対し、俺の方が絶対に格上!
というライバル意識むき出しなジャンにとって、屈辱以外の何物でもない。
相変わらずな、ケルベルスの上から目線も加わり、
火に油を注ぐという効果しかないだろう。
案の定、ジャンは、とんでもなくムキになってしまっている。
『う、うるせ~! 余計なお世話だ! おめぇみたいな駄犬の助けなんざぁ、いらね~よお!』
むむ、このままではまずい。
埒が明かない。
ここは俺がフォローしよう。
『おいおい、ジャン。ケルベロスと一緒が嫌だったら、俺がお前と共に戦おうか?』
そんな俺の提案に対し、ジャンはノー。
『駄目です! ケン様が戦えば、村の猫達は、特に女子猫は、全てケン様の力だって見てしまう。俺ひとりで充分ですぜ』
むう、俺が助け舟を出したが、無駄だったか。
ジャンは自分の名声を高める為に、並大抵の努力では足りないと、
心底思っているのだろう。
俺の顔をじ~っと見つめたジャン。
おお! 動機は不純だが、固い男の決意を秘めた真剣な顔だな。
同じ男として、お前の気持ちは分かるよ、確かにね。
よっし!
ここはジャンの顔を立ててやろう。
今後の事も考え、俺はジャンの『心意気』を買う事にする。
『分かった! 今回のバトルは、お前が男になれるチャンスなんだな』
『そうだよぉ! さっすが、ケン様は、よく分かっていらっしゃる。ちなみにひとつだけ確認だ』
お? ひとつだけ確認?
やけに慎重だな。
一体、何を確認したいのだろう?
『なあ、ジャン、確認とは何だ?』
『ええっとすね……ちなみに、ゴブの数ってどれくらいですかね?』
『おお、ゴブの数か? ええっと、俺の索敵の反応によればざっと300体以上だな』
『さ、300体以上…………』
『…………』
しばし、場を沈黙が流れる。
ジャンの顔色に、何故か青味?が、どんどん増している。
『ややや、やっぱ、俺の活躍を見届ける証人が必要かもしれませんや。ケン様! 一緒に戦ってくれぇ!』
はあ? 戦いを見届ける証人だと?
ゴブの数が300体と聞いて、臆したのか?
びびって、ぶるって、盛大に噛んでるじゃね~かよ。
……しかし、ここで見捨てるのは可哀そうか……
よし! 最後までフォローしてやろう。
情けは人の為、いや猫の為ならずだ。
『OK! じゃあ俺も、証人として赴こう……奴等との戦いでハーブ園が荒れたら、まずいからな』
『うお! やったあ! 恩に着ますぜ、ケン様! さっすが、ふるさと勇者だ!」
『おうよ! それと、ジャンには俺から、もうひとつ命じる事がある』
『え? もうひとつっすか? お、俺っちは何をすれば良いっすか?』
『証人』として俺が同行すると聞いて安心したジャン。
またも噛みながら、素直に命令を受ける気になったようだ。
『こら! 駄猫! 主へ、ため口をきくなと、何度も言っているだろうが!』
ケルベロスが、怒っている。
確かにジャンの口の利き方はタメだし、フレンドリー過ぎる。
だが、俺はとりあえずケルベロスをスルーする事に。
まあ、後でケアしよう。
『良いか? ジャンには囮役をやって貰う』
『お、囮役……ですか?』
む、ジャンの奴、少し言葉遣いが直ったか?
『そうだ、ゴブの奴等をな、出来るだけハーブ園から引き離すんだ。お前の俊敏さなら絶対に大丈夫さ』
ここで、ジャンは「ハッ」とする。
リゼットが、真っすぐに自分の事を見つめていたからだ。
優しく柔らかなリゼットの眼差しは、ジャンの心を強く打ったようである。
『リゼット奥様……』
しかし、俺とジャンの会話は念話だ。
このままだとジャンは、念話のスキルが無いリゼットとは、直接話せない。
だが、こんな時こそ、お助け女神様クッカの出番だ。
『クッカ!』
『はいっ! リゼットちゃんとジャンちゃんが話す為には……旦那様が、リゼットちゃんと手をつないでください』
おお、打てば響く、我が嫁よ、ありがとう!
成る程! 了解だ!
「リゼット!」
俺が手を差し出すと、リゼットは一瞬、首を傾げたが、
すぐに、しっかりと握ってくれた。
クッカがすかさず念話で、ジャンへ伝えてくれたので、
奴はすぐリゼットに話しかける。
『リゼット奥様、俺……戦うよ。奥様の夢を叶える為に』
今日、リゼットがハーブ園へ来た目的をジャンは分かっている。
だから、いきなり直球をズバッと投げた。
でも……
女子の夢を叶える為に戦う?
おいおいおい! 何だよ、恰好良過ぎる事を、いきなり言うなよ。
俺まで「じいん」と来ちゃったよ。
そう! 男の、俺でさえそうだ。
女子は、このような心に響く言葉に滅法弱い。
リゼットを見れば、やはり感激して目を「うるうる」させている。
『ありがとう、ジャンちゃん。決して無理をしないでね』
ジャンは普段、天邪鬼。
しかし、女子の涙に弱いのは俺もジャンも同じ。
これは、男子のお約束だ。
『リゼット奥様! 全然、無理じゃないっす! ケン様が俺の俊敏さを認めてくれたんだ……俺、頑張る! 絶対にやり遂げるっす!』
『そうね……旦那様が、ジャンちゃん、貴方を認めたのなら絶対に大丈夫よ! 落ち着いて、自信を持って!』
『わお! サンキュー、奥様! 俺、頑張りまっす!』
ジャンは 、猫らしく尻尾をピンと垂直に立てた。
これは、猫特有の喜んでいる仕草らしい。
しかし、このやりとりを見ていたケルベロスが言う。
『良し! やはり俺が行こう! 主を、直接戦わせるわけにはいかぬ!』
『ちっ! 駄犬め! お前なんざ引っ込んでいろって言ったろう!』
おお、出た!
ジャンとケルベロスの喧嘩。
リゼットは驚いた後、ふるふると首を振る。
『ジャンちゃん、喧嘩しないで! ケルちゃんと一緒に頑張って!』
ああ、リゼット。
超美少女の励ましは、まじ天使の囁きだ。
『はい~っ! 前言撤回! ケン様は、出撃せずとも大丈夫っす! ケルベロスと一緒に頑張りまっす!』
ははは、本当に現金な奴だ。
すぐ仲直りしやがった。
一方、冷静沈着なケルベロスは、そろそろ出撃の頃合と見たのであろう。
ジャンに声をかける。
『じゃあ、行くぞ、猫よ!』
『おう! ついてこいや、犬!』
ジャンの尻尾がピン!と立ったまま、一気に倍の太さになった。
今度は、大きく気合が入った証拠だ。
こういう仕草って猫好きには常識だろうが、
彼等の気持ちというのは表情は勿論、尻尾にはっきりと表れる。
こうして……
冷静沈着な冥界の魔獣――魔犬と、
気合みなぎる妖精猫は、共に出撃したのである。
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