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第83話「女神と美少女の共通項②」

ハーブ園があるのは西の森の奥まった、とある場所。


万全を期して、そのだいぶ手前から、俺とクッカは索敵を開始した。

 

ゴブリン、オーク、オーガを始めとして、

人間を襲う魔物どもは夜の方が、活発に捕食行動をする。


だから、注意しなければならない。

 

そして、ふたりで慎重に調べた結果……

半径1Km 以内に敵は存在しない。


そして、使う度に俺の索敵範囲は伸び、広がっている気がする。

今度、集中して訓練してみようと思う。

何せ、情報戦を制す者が全てを制すと言っていた人も居るしね。

 

でもリゼットは過去の怖ろしい記憶が、トラウマとなり、甦ったのだろう。

びくびくして、怯えた表情を見せている。

 

安心させる為に、俺はリゼットと改めて両手をつなぐ。

いや、つないだだけじゃなくて、「きゅっ」と優しくも、

ほんの少~し強く握ってあげた。

 

そして俺達が乗っている荷馬車は従士たる妖馬ベイヤールの牽引。


最初だけ、指示を入れれば、後は、いちいち逐一指示をせずとも、

行き先が分かっている。


だから、ほぼ自動運転に等しい。

指示は念話で可能だし。

何か、急ぎの変更とかあれば、指示を入れれば構わない。


危険があれば、察知し、報せるとともに、対応もしてくれる。


まあ、手を離しても制御(コントロール)可能なんて、

普通の荷馬車には、到底出来ない芸当だものね。


一方、つないだ手から、俺の優しさを感じ、リゼットは感激している。


「あ、ありがとう! 旦那様」


「ははは、お安い御用だ。さあ行こう」


鬱蒼(うっそう)とした深い森の中には、人がまともに通れる道などない。

 

無論、荷馬車など簡単に入れるわけがなかった。

 

俺達は荷馬車を降りて、ハーネスからベイヤールを外す。


自由になったべイヤールは俺を「じっ」と見る。

「そろそろ、この窮屈な擬態を解いて構わないか?」という問い掛けだ。

 

森の中に人間はおらず、索敵に反応したのが、森の小動物だけ。


なので俺はOKした。


するとすると、ベイヤールはしれっ!と、擬態を解き、

元の超が付く(たくま)しい鹿毛馬へ戻った。


さすがは素のベイヤール!


光り輝く馬体は、全身がバネ。

特に後肢は、異常な程発達しており他の馬とは全く違う。

 

額に白星を持ち、後足にも白が入っっている。

雄々しくも美しい見事な妖馬、それがベイヤール。


リゼットが、ベイヤール本来の姿を見て、惚れ惚れしたみたい。

思い切り、ふううと、深い溜息を吐いていた。


本来の格好良いベイヤールを見た魔獣ケルベロスが、

すっごく羨ましそうな表情をする。


ジャンなどアウトオブ眼中なのだろうが、

ベイヤールに対しては、結構なライバル意識を持っているようだ。


なので、やはりというか、

「自分もカッコいい?『素』に戻りたい」と念話で意思を送って来た。


申し訳ないが、当然、即却下した。

 

まあ仕方がない。


俺にとっては、怖ろしくも恰好良いケルベロスなのだが、

女子達は違う反応を見せるから。


もしも、三つ首で大蛇の尾が生えた本来の姿を見せれば、

クッカとリゼットはすぐ卒倒してしまうだろう。


なので、やっぱり、ダメダメ。


その腹いせだろう。


ケルベロスは、やり取りを見て嬉しそうに大笑いしたジャンを、

怖ろしい唸り声を上げ、追い回していた。


さてさて!

ベイヤールをハーネスから外した後の荷馬車の処理が残っていた。 


当然ながら、森の入り口にそのまま置いてはいけない。

 

俺は空間魔法を応用した『収納箱』に仕舞う。


これは戦った相手を生け捕りにした場合、そのまま軟禁可能な優れもの。

放り込んだら、よほどの術者ではない限り、脱出は困難である。


ちなみに、クッカによれば、俺の空間魔法のキャパは、

そこそこの町が楽勝で入る、巨大な容量。


そしてドラゴンならば、何体倒しても、楽勝で入りますよと、

クッカから言われた。


え? ドラゴンを何体倒してもって、

イメージは分かるが……すご~く曖昧で微妙。


聞けば、この中世西洋風異世界において、

物の大きさを例えるのはドラゴンだという。


捕食者の頂点たる怖ろしいドラゴンだが、

今の俺なら戦えば楽に勝てるかもしれない。

 

だが、俺は基本的に専守防衛。


ボヌールの村民に被害が出たり、その可能性がなければ、ほぼ戦わない。


こちらからわざわざ仕掛けるような無益な戦いは絶対にNGなのだ。


必要が無ければ、ドラゴンなんか、絶対に会いたくない。


閑話休題。


という事で、準備が出来た俺達は……西の森に分け入った。


ハーブ園がどこにあったのか、リゼットの記憶は曖昧になっていたが、

俺が覚えているから全然大丈夫。


超便利、記憶のスキルがあるんだもんね。

 

先頭にはケルベロスとベイヤールが立ち、俺と手を繋いだリゼットが続く。


俺とリゼットの後方に、ジャンが音も立てずに着いて来る。

索敵はずっと発動していたままだから、敵が襲って来たらすぐ分かる。


俺達の、やや後方上に浮かぶクッカも、ずっとにこにこしている。


これから、大好きなハーブ園に行くのだから無理もない。


そういえば、幻影状態でも、クッカは香りを感じる事は出来るのだろうか?


俺はそんなとりとめもない事を考えながら、森の中を進んで行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


もう少しでハーブ園……

……という位置で、俺とクッカの索敵に『反応』があった。


やはりというか、相手は……獰猛なゴブリンの大群。


確実に300体は超えている。


ここから距離は約1km先……

 

俺とクッカの索敵能力は、約1km先まで把握出来るのだが、

この1kmというのは微妙な距離だ。


確実な安全圏とは言えないからだ。


人間ならば歩いて15分もあれば走破してしまうし、

更に言えば、ゴブどもの走る速度は人間よりずっと速い。


あっという間にこちらへ近付いてしまうだろうから、

ハーブ採取作業中に乱入されたら厄介である。


俺とクッカは顔を見合わせ、頷く。


意見が一致した。


『クッカ、面倒だから掃討しちゃおう!』


『OKでぇす! 旦那様の判断は正しいですよ!』


と、その時!


にゃあああっ!


猫の鋭い声が響く。 

 

そう! ここでいきなり大声で鳴いて自己主張したのが、

妖精猫(ケット・シー)のジャンである。


どうやら『俺の出番』だぞ!と思ったらしい。


『おう! ケン様! 今回こそは、俺が出張ってビシッと決めますぜ!』


だが、これにストップを掛けたのが魔獣ケルベロス。


『おい! 駄猫! お前だけで、果たして、大丈夫なのか?』


『にゃ、にゃんだとお!!』


ケルベロスは、ジャンに対し相変わらず言い方がきつい。


ジャンも負けてはおらず、声を張り上げた。


お約束の最初から喧嘩腰。


同情するわけではないが、

ケルベロスの、このような物言いでは、

ジャンが怒るのも(もっと)もである。


こうしてまた、忠実な俺の従士ふたりは、にらみ合い、

またも一触即発の雰囲気となってしまったのである。

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