第77話「レベッカの復活」
クラリスと、畑でほのぼのデートしてから数日後……
俺は嫁ズの中では、
『姉御』ポジションたるレベッカと狩りに出ていた。
場所は例の東の森、手前の草原である。
レベッカは日々、気丈に明るく、優しく振舞ってはいたが……
実は、オーガ事件の後遺症があったそうだ。
人間を圧倒する、巨大な人型の魔物。
体色はどす黒く、目は充血したように真っ赤。
大きな口には鋭い牙。
凄まじい咆哮と共に巨大グローブのような手が、
自分を食べる為に、掴もうと迫って来る。
喰われそうになったオーガへの恐怖から、それがトラウマとなり、
レベッカは、まともに狩りが出来なくなっていたのである。
いつもではないが、時々、全く狩りが出来ない寸前くらいに。
本人曰はく、通常の調子の、ほんの1割くらいしか、
持てる実力が発揮出来なかったらしい。
よく悪夢も見たそうだ。
そんな夜は目が覚めたら、眠るのが怖くて、ず~っと起きていたという。
そして悪夢を見た日は、翌朝早めに起き、愛犬のヴェガを連れて、
比較的、安全な草原で「ぼうっ」として、時間を潰してから戻る日々……
周囲に心配をかけないよう、
そして俺の秘密を守る為に悩みをひたすら隠していた。
そんなレベッカの日常を、ふと俺が知った。
俺が、レベッカの悩みを知った日の晩……
彼女はひとりだけで、俺の家へ来て、俺の胸の中で思いっきり泣いていた。
もう自分は狩人として、二度とやっていけないのでは?
という不安と絶望が、一気に噴き出したのだ。
悲嘆にくれるレベッカを慰める為に、俺は一緒に狩りへ行く事にしたのである。
今日は気持ちの良い快晴、雲ひとつ無い。
そう! ボヌール村名物の青空。
その反面、風は殆ど無く、狩りには丁度良い按配なのだ。
レベッカはひとりきりで草原に居ると、
なんやかんや、色々と考え込んだり、
突如として、恐怖心が生まれて来るらしかった。
だが、俺と一緒だと心が安定して落ち着き、とても安心するようである。
俺に促されて弓をつがえると、レベッカは次々と兎を狩った。
あっと言う間に兎が5羽射られ、レベッカに狩られた。
『達人だ』と、自分できっぱりと言い切った実力は、
傍から見ても折り紙つきである。
俺の前で見せる、余裕あるその姿は、いつものレベッカと全く変わりがなかった。
「おお、レベッカ、凄いじゃないか! 全然問題ナッシングだな!」
「えへへ、私、完全復活だね!」
久々に好結果が出て、得意そうに胸を張るレベッカ。
「ああ、全然ノープロブレム、だな」
俺が褒めると、
レベッカは一旦、「うんっ!」と元気良く返事をしたものの、
「……でも、まだ少し不安。すぐ傍にダーリンが居ないと、また駄目になっちゃうのかな?」
と言い、また表情に暗い影が差した。
「何だ? まだ心配なのか?」
「……うん。だってダーリンは、もうひとりで狩りが出来るし、私はもう必要無いんじゃないかって……大人しく、村で奥さんやっていようかな……」
話をしていたら、レベッカが悩む根っこは結構深い事が分かった。
これはフォローしてやらないと。
「おいおい、何言ってる、レベッカは俺の師匠じゃないか」
「え? 師匠?」
「ああ、狩りの手順、弓矢の使い方や血抜きなどを教えてくれた俺の師匠だよ」
「でも……」
まだ口ごもるレベッカ。
このまま会話を続けても不毛になると思ったので……
俺は実力行使へ出る事にした。
当然、実力行使とは暴力などではない。
言わば、愛のスキンシップである。
「こら! それ以上、愚痴を言うとチューするよ」
「あ、いやぁん♡」
この「いやぁん」は、拒否の「いやぁん」ではない。
俺は遠慮なくレベッカを抱きすくめて、熱いチューをしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
東の森、手前の草原は広い。
そして誰も居ないから、気持ちが開放的になる。
俺達を襲う魔物や害獣にさえ注意すれば、
「いちゃいちゃ」しても誰も文句は言わないし、
相手の女子も思い切り大胆になる、と思う。
まあ、俺が索敵を最大範囲、張り巡せて、常にチェックしているからね。
あ、大胆になるったって、
また、この前みたいにふたりで裸になるわけではありません、念の為。
という事で、俺とレベッカは何度もチューをしたり、抱き合ったりして、
存分にスキンシップした後、肩を寄せ合って座っていた。
さてさて!
今日は朝早く出て来たから、時間はまだお昼前。
あ、時間をどうやって知るのかって?
実は、クッカが教えてくれるのですよ。
え? この前から他の女子達とこんなにイチャして、
クッカがよく怒らないねって?
おお、良くぞ、聞いてくれました。
これまた実は、今夜、クッカともデートなのですよ、羨ましいでしょ?
ごら! リア充、ハーレム爆発しろって?
……そうですか、分かりました、ごめんなさい。
「ほら、ダーリン、見て!」
レベッカが俺に声を掛けて指をさす。
その先には……
仲睦まじく遊ぶ狼犬に擬態した魔獣ケルベロスと、
レベッカの愛犬ヴェガの姿があった。
「うふふ、まるで私達みたい」
「そうだな」
そう! 今更ですが……ヴェガは雌で、可愛らしい女の子なのだ。
だがレベッカを助ける為に、
勇敢にも凶暴なオーガへ命懸けで立ち向かったヴェガ。
本当に、素晴らしいと思う。
女傑と呼んでもOK。
ケルベロスも、そんな勇ましいヴェガが大いに気に入ったようである。
「狼犬のケルちゃんが、村の番犬をやってくれるようになってから、村には魔物も肉食獣も近付かないのよ」
そりゃ、ケルベロスの正体は冥界の魔獣。
威嚇の波動をしれっと送れば、ゴブリン、オーク、オーガなどは、
あちらから、すたこらさっさと逃げてしまう。
「おお、良かったな」
「うん! そしてさ、村の番犬をやるだけではなく、私の犬達の指導役もやってくれて、村中の犬達から、すっごく慕われてるの。リスペクトされて、何だか王様って感じよ」
ああ、俺も見た、それ。
レベッカはヴェガを含めて犬を5匹も飼っている。
それが何と!全てが雌なのだ。
雌5匹に囲まれたケルベロスの奴、主人同様にハーレム王って感じだった。
俺は思わず、思い出し笑いしてしまう。
「ええ? ダーリン、いきなり笑って、どうしたの?」
俺が、突如笑ったので、レベッカはとても気になったらしい。
心配そうな顔をしているので、俺は理由を説明してやった。
「ああ、大丈夫。思い出し笑いさ。モテモテのケルに当てられて、ジャンが対抗しちゃってね」
「ジャン? ああ、あのぶち猫の妖精猫ちゃんか。でも、対抗って何?」
「いや、あいつ、ケルには負けない!と宣言して、村中の雌猫に声かけまくったんだ。いわゆるナンパ」
「うふふ、猫がナンパ? それで結果は? 結果はどうなの? 教えて?」
「それが、ざんね~ん! あっさり全敗! 強い所を見せないとNG、そしていかにも、ちゃらくて、軽い感じが凄く嫌だって全員に言われたらしいぜ」
「あら、可哀想!」
可哀想とか言いながらも、レベッカは今にも噴き出しそうである。
よ~し、もうあとひと押しだ。
「でも、あいつ、全然めげなくてさ。強くて、真面目な所を見せたいって、俺にせがむんだ」
「へえ! 打たれ強いんだ! 凄いなあ! そういう所は、私も見習おう!」
「ああ、凄くポジティブでさ。自分にも機会を下さい、魔物をガンガンぶっとばしてやるって! そして俺と一緒に真面目に仕事をしたいって。だからさ、今日も、一緒に連れて行けって、えらく煩かったよ」
「あははははは、面白~い! だったら、ジャン君、連れて来てあげれば良かったのに、うふふふふ♡」
おお、レベッカが笑った。
大笑いした。
含み笑いも。
うん! 良かった! この分ならば、元気になってくれそうだ。
「はは、更に言うと、俺とレベッカの仲が、めちゃ良いから、羨ましそ~うに見ていたよ」
「あははは、ようし! 私もジャン君を見習って、打たれ強くポジティブに、一生懸命、頑張るかあ! でも、おっかしい! あははははは!」
しかし、そのジャンの奴が……
エモシオンで、レベッカとミシェルのあられもない肌着姿を、
いやらし~く見ていたと知ったら……
あいつ、絶対ボコボコに殴られるだろうな。
俺はまた、笑いそうになるのをじっと我慢して、レベッカへ声を掛けた。
「よっし! もう少し狩り、頑張ろうか」
「はいっ! ダーリン!」
俺は立ち上がると、レベッカへ手を差し伸べた。
差し伸べた俺の手を、レベッカはしっかりと掴む。
力強くぎゅっ!と握るレベッカの手からは、
俺への感謝の気持ちが、しっかりと伝わって来たのである。
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