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第76話「純情美少女の願い③」

男同士の内緒話だ! と、言われて思わず身構える俺。


しかしラザールさん達の話は、

もっと言い方の砕けた、だけど真面目な話であった。 


「ははは、別にお前を取って喰おうというわけではない。儂達(わしたち)の可愛いクラリスを必ず幸せにして欲しいという、年寄りの頼み事さ」


「そうそう、お前は働き者だし、真面目な奴だから、大丈夫とは思うが、儂達は心配性だからな」


ラザールさん達からの話は、彼女の両親が亡くなって以降、

親代わりをしているふたりから、

「お前の嫁となったクラリスを心底大事にしろよ!」という念押であった。

 

俺もクラリスの身の上を聞いている。


……元々クラリスは、ご両親と3人暮らしであった。


だが、気の毒にも、先般起きた魔物の襲撃で、ご両親をふたりとも失った。


悲しい事に、ご両親はクラリスを守る為、

身を挺して戦い、終いには力尽きたそうだ。


……こうして身寄りのなくなったクラリスだが、

亡き両親の愛した、このボヌール村に残る事を選択した。


ラザールさん達は、そんなクラリスを不憫に思い、

何かあれば、ことごとく面倒を見て来たのだ。

 

向ける気持ちは実の愛娘同様でもあり、

そして年齢的には孫同様でもあるクラリスを、必ず幸せにしてやって欲しいと。


話からラザールさん達の熱く深い思いが伝わって来る。


俺だって「当然! 幸せにする!」という強い思いが、

心をたっぷりと満たす。


だから、はっきりと言い切れる。


「はいっ! クラリスを日々大切にして、絶対に幸せにします!」


俺の「きりっ」とした物言いを聞いて、ラザールさん達は安心したようだ。


「うむ! 良い返事だな。お前は本当に甲斐性のある男だ」

「ああ、儂達の若い頃と全く同じだ、大いに自信を持て」


「そう……ですか。俺はまだまだ未熟者ですけど」


今度は一転、口ごもった俺に対し、ふたりはつい本音を洩らす。


「謙遜するな! まだ15歳の小僧が一度に4人も村の娘を嫁にするとはな。だがクラリスは本当はひとりの男にじっくり愛して貰いたかった……」 

「そうそう、お前が他の嫁と仲良くしている時、クラリスが寂しがったら可哀想じゃろ」


「…………」


ラザールさん達の言う事は(もっと)もだ。


しかし、俺は4人の嫁……実はクッカを入れて5人だが……と結婚する。

それは5人との約束、今更、変える事は出来ない。


俺は思わず言葉を失ってしまう。


緊張した空気の中、ふたりの表情は……いきなり変わった。


何と!悪戯っぽく笑っている。


「な~んてな」

「冗談じゃ」


「…………」


おいおいおい、何なんだ……


俺は、ついジト目でふたりを見てしまう。


「ははは、気にするな。一旦はそうも思ったのだが……あいつの幸せそうな笑顔を見ると、お前が相手で良かったと、本当に思うぞ」

「おお、その通りじゃ」


「あ、ありがとうございます」


「うむ! それでな……早く作れよ!」

「そうそう! それも、い~っぱいな!」


「は?」


作れ? いっぱい?


何なんだ?


つい俺はポカンとしてしまう。

今度は一体何なんだろう。


いやいや、この話の流れで、分からない方がおかしい。

傍から見れば、ニブチン!だと言われそうだよね。


これ、前世の社会ならば、〇〇ハラと言われそうなコメントではあるが。


ラザールさんとニコラさんは、顔を見合わせてにやりと笑う。


「こら! 鈍い奴だな、子供だよ。クラリスはな、儂達の孫のような()さ。お前がクラリスと子供を作れば、その子はひ孫みたいなものだ。可愛くて仕方がないだろうよ」

「そうそう、ひいじいじとか、呼ばれて、一緒に遊んだり、思いっきり可愛がるんじゃ。これは(たま)らんぞ」


わお! そういう事かよ!

 

ここまで言われ、ようやく気付いた俺の顔には、汗がどっ!とわいた。


勇気のスキルは全く役に立たないようだ。


「ま、ま、ま、前向きに努力させて頂きます」


盛大に噛みながらも、俺は「頑張る」事を告げるしかなかったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


笑顔のラザールさん、ニコラさんと別れた俺は、

少し離れた場所で待っていたクラリスと合流。


ふたりで、再び農地を歩いていた。


今、家畜の放牧地の(かたわ)らを歩いていて、

相変わらずブタとニワトリ、そしてヤギが『良い味』を出している。


「のんびりしているこの子達を見ていると、とても心が(なご)みますね」


そう言い、クラリスが微笑む。


うん! 確かにそうだ。

俺も、同意して言葉を返す。


「ああ、和むな。何か気持ち良いよね」


ああ、クラリス。

実の所、俺はお前の笑顔の方に癒されるよ。


クラリスは、俺がラザールさん達と、どのような話をしたのか気になるようだ。


「ねぇ、旦那様。ラザールさん達、何か言っていました?」


「ああ、クラリス、お前を必ず幸せにしろって」


「まあ!」


口に手を当てて驚くクラリス。


ああ……可愛いな、クラリス。

じゃあ、もうひとつのお願いも伝えてやるか。


「それとさ、……子供をいっぱい作れって」


「ええええっ!? こ、子供!!??」


ああ、やはり!


親代わりとも言うべき人達からストレートな要望を聞き、

全身を真っ赤にして、固まってしまったクラリス。


以前のリゼットのように、

具体的な『あのイメージ』で頭が真っ白になっているらしい。


予想通りの展開だ。


しばし経って、やっと硬直状態から脱したクラリスが言う。


「私……ラザールさん達の仰る事は分かります。もっと、村がにぎやかで明るくなれば良いのになあ……そう思っているのですよ」


「ああ、分かるよ」


「……子供がたくさん居れば、この村は、活気付くでしょうから」


そうだ……俺達の間に生まれるかも、しれない子供は、

自分達が慈しみ、可愛がるだけじゃない。


武田信玄も言っていた。


人は石垣、人は城だって。

つまり、どんなに立派な設備の城、つまり村を造ったとしても、

それを動かすのは、所詮は人間。


これからの未来へ向け、ボヌール村全体の発展を促し、

村民全ての幸せを支える為には、特に若い力が、子供がたくさん必要なんだ。 


クラリスが俺を見る。


凄く、真剣かつ真面目な眼差しだ。


「旦那様……私、子供が大好きです。たくさん作りましょうね♡」


「お、おお、が、頑張るぞ!」


何を頑張るのか……


俺は、クラリスの前向きな気持ちに圧倒される。


中学生の頃、こんな話は『Hな話』と相場が決まっていたけど、

今は全然真面目な話。


何というか、とても使命感を感じ(おごそ)かなんだもの。


おおっと、クラリスからは、まだ何か話があるようだ。


「旦那様、聞いて下さい。私が服を好きなのは、死んだ両親の影響なんです。農作業の傍ら、裁縫が大好きで様々な服を作っていたのを見て、私も習い、服作りが好きになりました」


「へぇ、そうだったんだ」


「はい! 素敵な服は人を明るくする。亡き両親はそう言って、村の人達の服を、たくさんたくさん作っていました。私もそう思います」


そうか!


確かに服ひとつで、人の気持ちって、すっごく変わるものな。

晴れやかになるし、堂々とふるまえたりする。

 

同意して大きく頷いた俺を、クラリスは潤んだ目で見つめた。


「旦那様と私の子供達が、私の作った服を着て、村中を元気いっぱいに走り回る。それが私の(かな)えたい夢なんです」


ああ、クラリスの夢って……凄く素敵だ。


「クラリス……俺もさ、その夢をぜひとも叶えたいぞ! お互いに頑張ろう!」


「はいっ!」


俺は目の前の華奢な少女が急に愛おしくなって、

「ぎゅっ」と優しく抱き締めたのである。

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