第75話「純情美少女の願い②」
嫁ズからの気遣いとフォローにより、
俺とクラリスはデート、といっても手を繋いで村の中を歩いている。
「男性としっかり手を繋ぐのさえも初めて」というクラリスは、
まだ恥ずかしそうにしている。
改めて見やれば、彼女の顔も、結構赤い。
相当、興奮&緊張しているらしい。
俺が見ると、クラリスは、ハッとして視線をそらす。
それが、また可愛い。
「…………」
「…………」
しばしの無言状態が、お互いに続いたので、さすがに俺から口を開く。
「どこへ行こうか?」
おいおいおい! と自分へ非難したくなる。
もう少し、気の利いた言い方が出来ないのかと。
ああ、我ながらナサケナイと。
前世におけるデートならば、相手の女性にがっかりされる。
『使えない男』として、一発でアウトにされる迷セリフだ。
しかしクラリスは、全くといって良いほど、すれてはいない。
俺の、ヘタレなセリフにも全然文句は言わない、本当に純情な女子。
超が付く迷セリフを吐いてしまった俺に対し、
頼りないと、不満も言わず、恥ずかしそうにこう返してくれたのだ。
「わ、私は……だ、旦那様と一緒ならどこへでも」
うおおおおお! 何、それ! そそるぅ!
俺と一緒なら、どこへでもだって?
男なら……最高に嬉しい言葉じゃないか!
こんな子、滅多に居ない!
ここで俺の家とか、クラリスの家へ行って、ふたりきりになり強引にH!
……とかいう邪な気持ちは俺には無い。
と、断言したいのだが……
俺も健康な男子、クラリスは可愛いから全く無いわけではない。
本能的に、思わず抱きしめたくなるのだ。
しかし、ボヌール村の女子みたいな
素直で可愛い子達には、何よりもムードを大切にしたい。
恋愛とは、純粋な愛情よりも、
計算や駆け引き巧者の方が、上手く行くという事を誰かが言っていた。
だが、この中世西洋風異世界のボヌール村では、
全く当てはまらないと、個人的な意見ながら、俺は思う。
それに、片思いの女の子を恐る恐る口説くわけではない。
俺とクラリスは最早、相思相愛の両想いだ。
ふたりきりになるのは、夜になってからで良い。
まあ、結婚までHは禁止なので、勇気を出しても、B行為くらいだけれど。
俺が握った手に、「きゅっ」と力を入れると、
クラリスもおずおずと握り返して来た。
そんなクラリスが愛おしくなって、優しく促す。
俺とクラリスはまるで時間が過ぎゆくのが惜しいように、ゆっくりと歩き始める。
やがて、村の正門付近に来た。
この周辺はず~っと農地が広がっている。
歩く俺とクラリスを見て、
正門後方の物見やぐらに居るガストンさんとジャコブさんが、
大きく大きく手を打ち振っていた。
特にガストンさんの表情は……満面の笑みだ。
彼が俺に対して、これだけ機嫌が良い理由はいくつかあるだろう。
愛娘レベッカの婿で、彼女と相思相愛の仲である事。
先日の『狩人研修』で弓矢の素養を見せた事。
癖の悪い冒険者クラン大狼を、
たったひとりで、あっさりと片付けた事。
ガストンさんは、村の人々から俺の良い評判も色々と聞いているらしい。
先日、嬉しそうに言われたが、俺の総合評価はAどころか、何とSだと言う。
ただSというのは、何ともこそばゆい。
俺の中二病知識において、冒険者ギルドならば、伝説のレジェンドクラス。
すなわちスーパー冒険者扱いだ。
でも、俺の活躍って、所詮、管理神様が授けてくれた、
宝くじの一等みたいな、レベル99のチート能力あっての事。
元々の俺の力では無いからね。
慢心は、絶対しません。
ガストンさんは、一夫多妻制がこの世界のルールという事もあり、
俺がレベッカ以外にも村の女子を娶る事を大歓迎しているようだ。
現在の状況は非常事態なので、
結果、子供がたくさん生まれれば、という事らしい。
非常事態なのは理解は出来るが、
そういう考え方も、俺の前世とは全く違うし、驚きである。
さてさて!
俺とクラリスもガストンさん達へ大きく手を振り返して、農地へと歩いて行く。
デートの筈なのに何故農地へ? というツッコミがあるかもしれない。
だが、クラリスが「是非に!」と強く望んだのである。
そうだ……俺とクラリスは村の畑で出会い、恋に落ちた。
まるで、大昔に流行った歌謡曲みたいな思い出の場所だから。
「お~い、クラリス! ケン!」
「こっちへ来てくれないかね」
次に、俺達を見つけて大きな声で呼んだのは……
先日、俺が『農業研修』を行った時に指導を受けた農地管理担当のラザールさんと実務を教えてくれたニコラさんのふたりである。
ラザールさん達の姿が見えた途端、クラリスが意外な行動を起こす。
俺の手を引っ張って、いきなり駆け出したのだ。
息が切れるか、と思うくらいの勢いで走って来たクラリスを、
ラザールさん達は、慈愛のこもった眼差しで見つめる。
「おうおう、そんなに走って来んでもええのに」
とラザールさん。
「はっはは、息が切れそうになっておるぞ、クラリスよ」
とニコラさん。
息も絶え絶えのクラリスは、ふたりへ『特別な報告』をしたかったようなのだ。
「はぁはぁ……ラザールさん、ニコラさん……せ、正式に決まりました! わ、私……ケン様と結婚します!」
俺との結婚報告を、嬉しそうに行うクラリスを、
ラザールさんとニコラさんは祝い励ます。
「ああ、おめでとう! 必ず幸せになるんだぞ」
「芯の強いクラリスならば、夫と助け合う良き奥さんになれる、絶対に大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます!」
ラザールさんとニコラさんの、
優しい労りの言葉を聞いたクラリスは思わず涙ぐんでいるようだ。
そんなクラリスを見守るベテランふたりであったが、今度は俺へ声が掛かる。
「クラリス、良いか? ちょっとだけケンを借りるぞ。男同士の内緒話だ」
「なあに、時間は取らせない。すぐに返すから」
「は、はい!?」
ラザールさんは、俺の左手を強く掴んで引っ張った。
ニコラさんも、俺の肩を軽く叩いて促す。
どうやら少し離れた場所で、俺へ伝えたい話があるようだ。
『男同士の内緒話』と言われたクラリスは僅かに首を傾げたが、
そっと右手を放してくれる。
クラリスが手を放したのを確かめてから、
ラザールさんは「ぐいぐい」と俺を畑の方へ引っ張って行く。
ニコラさんも一緒に着いて来る。
「よし! ここらで良いだろう。……ケン、よく聞いてくれ」
「大事な話だぞ」
「は、はいっ! な、何でしょう?」
本当に何だろう? 男同士の内緒話って?
ラザールさん達の表情は真剣。
なので、俺も思わず気合を入れて返事をしたのである。
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