第74話「純情美少女の願い①」
リゼットが提案した、ハーブ栽培と販売の話がまとまった。
更に、いずれボヌール村に広大なハーブ園、
そしておしゃれなカフェも造りたいと、話は大いに盛り上がった。
そして次に『提案』をしたのは、意外にもクラリスである。
リゼット以上に、いつもは大人しく控えめなクラリスであったが……
親友のリゼットに励まされ、大きく声を張り上げる。
「み、み、皆さん! 大空屋で、私の作った服を売っているのはご存知ですよね?」
「うん、知ってるよ! クラリス!」
レベッカが当然の如く頷くと、
実際に服を販売しているミシェルは絶賛に近い評価をしてくれる。
「うん! 村の皆が知ってるよ! クラリスの作る服は可愛いよね! 着やすくて実用的だし、ウチの店に仕入れたらすぐ売れるんだ」
ミシェルは言い切ると、まだ言い足りないとばかり、話を続ける。
「ちなみにさ、この村ではなく、商隊の人が仕入れで買って行く事が全然多いかな。彼等に聞いたら、エモシオンの町やジェトレ村では結構な人気があって、高く売れるんだって」
おお! 商隊が仕入れで買う? 高値で売れる!
そりゃ、本当に凄いや!
クラリスが作る服って、ボヌール村だけではなく、他の町村でも人気なんだ。
うん! 中世西洋風異世界の、売れっ子ファッションデザイナーって、感じだな。
そのクラリスは、何故か、ミシェルへ両手を合わせる。
どうやら、お願い事のようだ。
「ミシェル姉、お願いです。私が作った服の全てを、商隊に売らないで貰えますか? 私……もっともっとたくさん服を作りますから」
「うふふ、全部を売らないようにってのは……村の人へ売れって事かな? それって、何か理由がありそうね」
ミシェルは、優しく微笑む。
どうやら可愛い『妹』の話を聞き入れる雰囲気。
「はい! 村の皆に、ぜひ、私の服を着て欲しいんです。お金にも、こだわりません。どんなに安くても! いいえ! 無料でも構わないんです!」
「え? 無料? クラリス、お金要らないの?」
とミシェルが聞けば、クラリスは大きく頷く。
「はい! もしも、買いたいと言う人にお金が無かったら、頂きません!」
「へぇ! これは驚いた」
「だって! 明るかったり、可愛い服を着ると、見た目は勿論、村の人の顔も活き活きして来ますよね? 私、もっともっと、村全体が明るくなって欲しいから」
自分が一体何をすれば、ボヌール村へ貢献出来るのか?
この子は、しっかりと考えている。
俺と同じように、ミシェルも感じたらしい。
あっさり、クラリスの提案を受け入れたのだ。
「分かった! もう商隊へは全部売らない」
「ほ、本当ですか?」
「うん! 当たり前! クラリスの素敵な考えに私も大賛成! 頑張って大空屋でバンバン、村民へクラリスの服を売ろう」
「あ、ありがとうございます! ミシェル姉」
「でもね、クラリスの服が欲しい人でお金が無い人に、どんどんタダであげていたら、ちゃんとお金を支払った人から不満が出るわ」
「そ、それは、確かに……」
「良かれと思い、行った事が原因で、ボヌール村の中で変な不協和音が生じるのは、クラリスにとっては、凄く不本意でしょ?」
「え、ええ、そうです」
「それにクラリスの労働的な心身の負担が凄く心配だし、かかる原料費は結局、ユウキ家持ちとなる。そういった問題が起こらないように、何か良い方法を考えないといけないわ」
「は、はい! 分かりました!」
「大丈夫、大丈夫。家族なんだから、皆で考えれば、きっと何か良いアイディアが出るよ! お互いに助け合って行こう!」
優しい姉に同意かつ励まされて、涙脆いクラリスは目がウルウル。
クリアしなければならない問題はあるものの、
俺も「偉いなぁ」と思ったから、素直にクラリスに対する賛辞の言葉が出た。
「本当に素晴らしいな、クラリス」
「そ、そんな!」
俺の言葉に感激したらしく、頬を真っ赤にして恥らうクラリスは凄く可愛い。
凄く可愛くて、つい抱き締めたくなってしまう。
親友であるリゼットが、「つんつん」クラリスの脇腹を突く。
「うふふ、旦那様に褒められたら、そんな!より、ありがとうだね。その方が喜ぶよ、旦那様が」
「う、うん……分かったわ」
リゼットからアドバイスされたクラリスは、真っ赤になったまま小さく頷いた。
そして、何度か可愛く深呼吸して……
「だだだ、旦那様、褒めてくれて……あ、あ、ありがとう」
ぺこりとお辞儀してから、顔を上げて可愛く微笑んだ。
「お、おう!」
対する俺は、ドキドキして、短く返事をするのがやっと。
うわぁ! 線になってしまうくらいの、クラリスの優しそうな細い垂れ目!
癒し系の象徴だろ!
絶対に反則ダァ!!!
カンカンカンカン!
くらくらっときた俺の耳には、
幻のテンカウントゴングが高らかに鳴り響いていた。
ふらふらしている俺を見て、嫁ズは面白そうに笑う。
「あらぁ、ダーリンったら、目を白黒してるよ」とレベッカ。
「前から思っていたけど、旦那様って、可愛い清純派に弱そうだよね」
とミシェル。
「うふふ、クッカ様を含めて私達、もしかして可愛い清純派かな?」
最後にそう言って笑ったリゼットが、全員へ意味ありげに目配せをした。
全員が、謎の意思疎通をしたようだ。
何と、クッカまでが面白そうに頷いている。
果たして、嫁ズのその後の行動とは?
頃合を見たリゼットが、音頭を取って……
「旦那様! ……せ~の」
「「「「『ありがとう!』」」」」
何と! 今、俺が大ダメージを喰らったばかりのクラリスの真似であった。
クッカ、リゼット、レベッカ、ミシェル、クラリス。
美少女嫁5人の、素敵な超癒し笑顔。
フィフスクロスカウンター!?
こりゃ、一気にノックダウンされた。
俺は、とてつもない幸福に、たっぷり満たされていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リゼットとクラリスの提案だけではなかった。
他にもいくつか有効なアイディアが出されて採用され、
大空屋対策の話は終わった。
だが、まだ『会議』は続いている。
嫁ズによれば、俺はボヌール村に来て以来、ずっと働き詰めだと指摘された。
その為、激務を癒して欲しいという趣旨により、
今日の午後は完全な休みとなったのだ。
何故か、リゼットが俺には内緒っぽく、他の嫁ズと何やら相談している。
何を話しているのだろう?
放出される心の波動を見れば、ほぼ話している内容や思惑は分かる。
でも『覗き見』みたいで嫌だし、俺に何でも知られてしまうと分かったら、
嫁ズだって気持ちの良いものではないだろう。
下手をすれば、夫婦の不和にもなりかねない。
やはり、夫婦の間でも秘めておくべき物はある。
だから俺は、敢えて波動を見ないようにした。
やがて、嫁ズの『相談』は終わった。
リゼット達がひそひそ話していた事……それは……
ひとりの少女がおずおずと俺の前に立つと、
3人、否、4人からポンと背中を押されたのである。
見れば幻影のクッカも、クラリスを押していた。
2,3歩、蹈鞴を踏んだ少女が俯いて言う。
「え、えっと……私……いいんですか?」
遠慮がちに話す少女は……クラリスであった。
リゼットが、クラリスの背後から微笑みかける。
「旦那様、お疲れのところ申し訳ないのですが……今夜までクラリスと一緒に居て頂けませんか?」
嫁ズの相談の内容とは、クラリスのケアだったらしい。
5人の嫁の中では、俺と過ごした時間が極端に短いクラリスと、
一緒に時間を共有して欲しい。
話の内容は、そんなところだろう。
しかし、クラリスはぎこちない表情で首を横に振った。
「えっと……私なんかのお相手より……旦那様にはゆっくり休んで頂いた方が……」
俺は、クラリスの言葉を聞いただけで胸が一杯になった。
本当に、優しい子なんだもの。
だから、ゆっくりと、しかし真っすぐに、クラリスへ右手を差し伸べた。
「え!?」
「おいで、クラリス」
「「「『ほら~っ』」」」
俺の呼ぶ声と同時に、クッカも含めリゼット達4人がクラリスの背中をまた押した。
今度は、先程よりも更に強くだ。
「あうっ!」
クラリスは、小さな悲鳴と共に俺の胸の中へ倒れ込んで来る。
しっかり、抱きとめて分かった。
やはり、クラリスはすっごく華奢である。
レベッカやリゼットよりも、更に細身であろう。
俺に抱かれたクラリスは、羞恥のせいか全身を真っ赤に染めていた。
「ううう、は、は、恥ずかしいです……」
「さあ、旦那様。クラリスと行ってらっしゃい。あまり遠くは駄目ですから、村内をデートって事で!」
親友クラリスが受身過ぎるので、リゼットが一生懸命フォローする。
ああ、嫁同士仲が良いって嬉しいし、素晴らしい!
「了解!」
「「「『行ってらっしゃ~い!』」」」
こうして俺とクラリスは、村内散歩へ出掛けたのである。
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