第62話「買い物も任せろ!」
翌朝……宿屋で、『眠れぬ夜』を過ごした俺達。
さくっと朝飯を食べると、眠い目をこすりつつ買い物へ出た。
でも、俺は気分が凄く晴れやか。
レベッカ、ミシェルと『また分かり合えた』からだ。
そして彼女達も同様らしく、はつらつとしており、満面の笑みを浮かべている。
想う相手との心の距離が、どんどん近くなるのが実感出来る。
何故かこう、相手が愛おしくて、守りたくて、堪らなくなるのだ。
ちなみに、クッカは貰い泣きをしながら黙って様子を見つめていたが、
俺達と気持ちをしっかり共有出来たらしい。
慈愛を籠めて、こちらを見守っている女神様。
俺は、そんなクッカも大好きだ。
え? うはうは、ハーレムが羨ましいって?
気楽で良いって?
まあ、確かに楽しいが、傍から見るより気楽ではない。
どこかの王族、貴族と違い、リアルな生活ありきの一夫多妻だから、
俺は重い責任をひしひしと感じる。
子供だって出来るだろうし、扶養家族数は凄い事となるだろう。
でもでも! 俺は感じる!
昨日よりも、力が全身にみなぎると。
のろけるわけではないが、愛する相手が居れば、
生きる事に対して前向きになれる。
うん!
幼い子供の頃、女の子と遊んだ記憶は微かにあるが……
俺は基本的にこれまで、ず~っとおひとりさま。
学生時代に浮いた話など皆無だった。
で、恋人が居ない歴イコール年齢だったから、
こんな気持ちになったのは生まれて初めてだし、大いに実感し、感動した。
よっし! 今日も気合を入れて仕事をしよう。
まずはボヌール村の人が、大空屋で買い物が出来るよう、
ばっちり仕入れを行うぞ。
ミシェルの父が名付けた大空屋の由来通り、今日も天気は快晴。
上を見やれば、千切れ雲が流れる真っ蒼な空。
そして周囲を、爽やかな風が吹き抜ける。
俺が失ってしまった遥か遠き故郷の空を思い出す……
既にもう、俺の心の中にしか残ってはいない。
一瞬、ひどく切ない気持ちになったが、
俺の心の中で、旧き故郷の懐かしい風景は永遠に生き続ける……
あの某酒造メーカーのCMのようだ。
さあ、新たな日々へ向かい、元気を出そう!
という事で、俺と、レベッカ&ミシェルは、やる気満々。
クッカも陰ながら応援。
3人プラス女神様は意気揚々と、エモシオンの中央にある大広場へやって来た。
ミシェルから教えて貰ったのだが、
ここにはお約束ともいえる『市』が立っているのだ。
俺は、元々このような『市』が大好きである。
何かこう、ワクワクする。
まるで宝さがしみたいに、未知のモノに、出会える期待感がある。
ただ俺は基本的に人混みが苦手で、すぐ疲れるから、
ず~っと居るのは無理なのだが。
そうは言っても、弱音を吐いている場合じゃないぞ! 戦闘開始!
行くぞ! ついて来い、我が嫁ズ!
という事で、俺達は、『市』の中を見て回る。
大空屋の仕入れ——村の物資調達の為に、
絶対買わなければならないのは、主に自給不可能な日用品である。
ミシェルの記憶に従い、まずは村民の『制服』ともいえる、
農作業着をサイズ別にたくさん買う。
主にジャーキンという上着、ホーズと呼ばれる羊毛製のズボンである。
肌着はこちらも消耗品なので、これも男女用共に大量購入。
日差しが強いので、帽子も必要だ。
クラリスみたいに最初から服を作る人も村には居る。
だから服の材料となる綿やリネン等の布地も買う。
加えて箒、熊手、
鍛冶屋も居ないので、鉄製の鍋や包丁などなど、
村で手配出来ない物を俺達は買って行く。
怪我をした時に必要な包帯、各種の魔法ポーション、薬草、なども、
絶対に忘れちゃいかん。
ここで、また俺のスキルは役に立った。
クッカの手解きで習得しておいた、
弁が立つという能力、『ディベート』のスキルがすげぇ威力を発揮したのだ。
まあ、派手なバトル能力に比べればこのような能力は可愛い方だろう。
さすがにこれで、『勇者認定』などされない、と思う。
通報される心配はない。
安心して、スキルをガンガン使えるってものだ。
だが、商人達は、俺の口達者ぶりに愕然とする。
「ううう、こんなに若いのによお! 何でこう口が立つんだ! あ、あんちゃんには……負けたよ」
「いいよ! その値段で持っていけ!」
「うわあ、儲けがギリギリだよ、くっそ~!」
このように嘆く店主達なのだが……
最後には「また来いよ」と苦笑しながら言ってくれた。
相手にもよるが、商人って概して駆け引きが好きだもの。
それに、ボヌール村の分として買うと結構な数量だ。
一度に大量に商品がはけて、即座に現金が入るとなれば好意的に対応してくれる。
だが、いくらディベートに長けていてもやり過ぎは禁物。
次回以降の取引があるので、値段を叩き過ぎて相手に嫌われたらお終い。
俺だって、当然、引き際は心得ている。
決して無理をし過ぎないで、お互いに持ちつ持たれつ——それが鉄則だ。
しかし俺と店主達の凄まじい舌戦を見て、
レベッカとミシェルは目を丸くしている。
「えええ、ダーリンって……口から先に生まれて来た人なの?」と、レベッカ。
むむむ、口から先に、生まれて来た?
おいおい、レベッカ。
それって、全然良い例えじゃね~だろ?
でもそう言いながら、ニコニコしているから、冗談っぽい突っ込みか。
そしてミシェルも、
「ぺらぺらと軽~い、そのノリ! 旦那様ったら、これまでの格好良いイメージが台無しだよ」
と、のたまう。
はあ? ぺらぺらと軽い?
それって、軽薄男って事?
恰好良いイメージが、台無し?
ああ、こういうスキルは女子には、凄く不人気なのか……
だけどミシェルは、にこっと笑うと……
俺の手を「ぎゅっ」と握ってくれる。
「でも大空屋のムコとしては大が一杯付く超合格!」
ああ、良かった!
俺は、ホッとした。
ふたりから、許されたからとかじゃない。
昨夜の今日で、ミシェルが立ち直ってくれた事が、一番嬉しいのだ。
Vサインを送るミシェルの奴、いつもの明るく可愛い美少女に戻ってる。
俺はホッとして、優しくミシェルの手を握り返す。
昨夜……ミシェルは、ずっと泣いていた。
お父さんの遺言と、目の前での無残な死。
初恋だったらしい、カミーユとの別離。
恋を取るか、村に残るかの選択をしなければならなかった心へのダメージ。
傷心のミシェルが、辛さを飲みこんで生きて行く為には、
笑顔で懸命に働くしかなかった。
だが……お父さんに似ているという俺の突然の出現で、
ミシェルの心の『バランス』が崩れた。
どうしても俺の傍に居たいという思いが生まれ、
焦りからあのように大胆なアプローチをさせたのだ。
そんなこんなで、勢いに乗った俺達はどんどん買い物を済ませて行った。
――約1時間後、必要な日用品の仕入れは、ほぼ終了。
買った大量の商品は、一旦宿屋の倉庫で預かってくれる。
毎回エモシオンに泊って買い物をするから、引き受けてくれるそうだ。
しかし、倉庫の保管使用料と警備する人の賃金はしっかり取られる。
宿屋にとっては、これも商売の一環なんだ。
さあて、次は私的な買い物も兼ねた仕入れを行う。
中でも嫁ズへのプレゼントは、趣味が良いものを厳選しなければいけない。
クッカへの配慮は必須だし、もしも留守番をしているリゼット、
クラリスへのおみやげを忘れたら……俺は、確実に殺される。
そうだ!
フロランスさん、イザベルさんへのおみやげも非常に大事、
絶対に忘れてはならない。
そして、村民が使う物も含めて、俺達は「さくさく」っと買い物を続けて行く。
紙と筆記用具、娯楽用に古本を少々。
そしてリボンや髪留め、指輪など、女性向けの装身具の買い物は、
レベッカとミシェルが きゃっきゃっ言いながら盛り上がって購入した。
やはり、こういうところは女子だ。
こちらの仕入れでも、俺のディベートスキルがやはり絶大な効力を示した。
結果、好きなものを安くいっぱい買えた、レベッカとミシェルは大満足。
『満面の笑み』って奴で、にっこにこの花満開だ。
嫁ふたりには、クッカと留守番組のリゼット&クラリス、
そしてフロランスさん、イザベルさんへのおみやげも、バッチリ選んで貰った。
俺も、商品を選ぼうと思えば選べるが、
今回は『女性のセンス』に任せた方が良いと思う。
ああ、そうだ……ついでに?ジョエルさん、ガストンさんの分も買っておくか……
はあ~、これで、殺されないで済む……
苦笑した俺はホッと、胸を撫で下ろしたのである。
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