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第59話「ミシェルの過去④」

俺は今、とある冒険者クランのむさい髭リーダーと戦っている。


元ボヌール村の住人、最低最悪の馬鹿男カミーユの所属するクランのリーダーだ。


雑魚としかいえない部下ふたりが、俺にあっさりとやられてしまった。

なので、奴は我慢出来ず、とうとう剣を抜いてしまう。


ああ、もう、勝つ為には、

手段を選ばず、形振(なりふ)り構わずという感じだぞ。

俺が得物を持たない素手でも、卑怯なんて関係ないのだろう。


身構える俺へ、謎の内なる『声』が囁きかける。

クッカのアドバイスとも違う、己の感情が発する声である。


お前ならば大丈夫!

あんな、『なまくら剣』は『素手』で受け止めてやれ!


え? 素手で剣を受け止めろと?


驚き、更に疑問と懸念を俺の心が確信へと変えて行く。


うん! 鋼鉄剣の刀身を素手で受ける、うん! 全く問題無し……と。

まあ、良い子は絶対に絶対に!真似してはいけませんが。


そもそも俺の能力レベル99、そしてオールスキル:仮ってどういう能力だろう……


一回だけ、何とか、あれやこれやと手を尽くし、

こっそり自分の能力値を見る事が出来た。


まるで、ロールプレイングゲームのスペックのような一覧を見る事が出来たのだ。


だが、全てが999,999というインフレというか無茶苦茶な数字だった。


しかし完璧なオールスキルとは言いながら、

クッカが居ない時には、半人前のようなあの体たらく。

 

頭が?マークで一杯になった俺は一度、クッカへ聞いた事がある。

特に能力値とスキルとの兼ね合いに関してだ。


まず能力値だが、これは人間の世界で使われる数字では正確に表せないという。


999,999というのは無理やり当てはめた仮初(かりそめ)の数字、

人間界の数値では表せないので文字化けしたというか、

分かりやすく漢字でいえば『当て字』なのだそうだ。

 

クッカ曰はく、神様の力は、例えて言うのならばレベル100&遥かにそれ以上。


レベル99はレベル100には、一歩足りない『人の子』だという意味であり、

すなわち神様には及ばないが、

人の子、つまり人間族の中では突出した最高の能力らしい。


そしてスキルとの兼ね合いだが……

スキルを発動させる為には、必要な能力値の消費があるという。

 

すなわち見た目の能力値が高いだけでは駄目であり、

決められた量を消費するスキルを、

その都度、発動させないと与えられた能力は発揮出来ないのだと。

 

まあ、いちいち発動の手順を行うのが面倒臭いので、

意識して行動開始の際の自動発動という形にしているが、普段の俺は一般の人間。

 

もし物理無効や身体強化のスキルを自動発動しなければ、

殴られたら痛い事に変わりは無い。


不死身ではなく、生命力は底抜けに高いから、

致命傷が来ない限り即死する事はないが、

万が一スキルが発動しなければ、とてつもないダメージを喰らう事もありえる。


まあほぼ完全な自動発動ではあるから、

不意を衝かれ、発動しないのは万が一の1%以外、99%ありえないが。


そしてクッカが居なかった時に能力が充分発揮出来なかったのは、

先の作戦名クッカでよ~く分かった。


女神クッカは色々な意味で俺の魔法の『発動体』に近いのだと。


すなわち、俺が完璧な能力を発揮する為には、

クッカが居た方が「更に万全だ!」という事らしい。


もう! 管理神様め!


最初にオールスキルをくれた時に、

(仮)と書いてあったのをつい見落としてしまったが……


仮とはクッカと一緒に居る時に、完全に発動する事が条件である。


またオールという範疇(はんちゅう)は、この世の全てのスキルではなく、

管理神様の判断で決めた極めて曖昧なものだということらしい。


いやいやいや! 『オール』って言っていたのに、それって詐欺じゃないか!


じゃあ、最初に『準オール』とか言って欲しかった。

だったらまだ、納得するのに。


だけど、俺の理屈なんか関係ない。


いくら抗議しても無駄なものは無駄なのは、

転生した際の管理神様との会話でよっく理解している。

 

この世界では神様の決めた事が、全て正しい。

神様が、白と言えばカラスも白。

 

ん?  たまにアルビノのカラスが居るって?


そういう漫才的なボケは嫌いじゃないけれど……


基本的には、まあ神様の言う通りに、

この中世西洋風異世界の摂理は決まる、って事を言いたいのよ。

 

と文句を言っても仕方が無い。

今の状態でも俺は、チート過ぎるくらい究極のチートなのだから。


閑話休題。


だいぶ寄り道が長~くなってしまったが、話を戻そう。


クランの髭リーダーは思いっきり剣を振り下ろして来る。


がつん!


鈍く重い音がした。


俺が、心の内なる声に従い、素手で奴の剣の刀身を受け止めたのだ。


同時に「しめた!」と言わんばかりに、にやっと笑う髭男。


しかし奴の表情は、すぐ驚愕!! といっていいものへ変わって行く。


普通であれば、手が切り落とされている筈が、

何も起こらないどころか、逆に俺がにっこり笑っているからだ。


ミシミシミシミシ…………


どこからともなく……何かへ、ひびが入るような音がする。


バキン!


何と! 俺が掴んでいた、リーダーの鋼鉄剣の刀身が真っ二つに折れてしまった。


そう! 俺は硬い鋼鉄の刀身を、あっさりと素手で握り折ったのである。


あはは、素手で刀身を受け止めても大丈夫! ……どころではないな。


「ひえええええっ~~!?」


当然ながら、大きな悲鳴をあげる髭男。


俺は、すかさず魔法を掛ける。

こんな時には便利な、『沈黙』の魔法に限るぜ!

 

これで髭男が、もう悲鳴をあげたりする事は出来ない。


おし! ついでに、カミーユにも掛けておこう。

下手に騒がれるといけないから。


呆然とした表情で、ぺたんと座り込んだ髭男。

ああ、何だよ? 臭いぜ!

こいつ、びびって、おしっこ漏らしてるぞ。

 

え? ここまでやったら、可哀そうだから許すかって?


いいええ~、俺は平等主義だから、髭の可愛い部下と同じように扱ってやる。

散々、クソガキと罵倒された分も、利子を付けてたっぷり返してやろう。


「おい、クソ髭。てめぇ、クソガキの俺に世間を分からせてやるとか言っていたな? さっきも言ったが、くだらねえ悪さばっかりしていると、こうなるって、逆によ~く教えてやるぜ!」


ぱんぱんぱんぱんぱんぱ~ん! ぱんぱんぱんぱんぱんぱ~ん!


俺は髭男リーダーの胸倉をつかみ、部下同様、左右の頬を張り飛ばした。


沈黙の魔法が掛かっているから、髭男は悲鳴をあげる事が出来ない。


「…………」


髭男の頬もあっと言う間に俺のビンタで、どす黒い紫色に変わってしまった。


さっきまでの偉そうな態度はどこへやら、奴の顔は、涙と鼻水にまみれている。


口からも、盛大に血もまき散らしている。

って、良く見たら……白目をむき、気絶していた。


俺は、ビンタする手を一旦止める。


まあ、これくらいで許してやるか……


いや待て! こいつ、俺の嫁ズを無茶苦茶にするって言ってたよな。


やはり、許せん!

もう少し、お仕置きしてやろう!


こんな時には、頼りになる麗しき嫁に相談だ。


『お~い! ク~ッカ!』


『は~い、ケン様あ! 待ってましたぁ!』


俺の呼び掛けに、手を挙げて返事をしたクッカ。

そして、いかにも嬉しそうな笑みを浮かべて空中から降りて来たのである。

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