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第58話「ミシェルの過去③」

所詮は単なるガキだと侮っていた俺の、

意外な力で腕を(つか)まれたカミーユは激痛で動けなかった。


だから、負け犬の遠吠えのように、キャンキャン吠えるしかない。


「な、な、何だ、このクソガキ! でかい口叩きやがって! あつつつつ、いってぇ! そ、その手を放しやがれぇ!」


俺みたいな子供は眼中にない。


やっと視線の中に入ったよ、という表情で、

3人の男の内、クランのリーダーらしい男が俺を見た。

 

このリーダーは、30歳を、少し超えたくらいだろう。


クラン大狼(ビッグウルフ)のリーダー同様、やっぱり髭を生やしている。


ん? こういう悪党クランのリーダーは、何故、髭を生やしたがるのだろうか?


もしかして、配下のメンバーへ、貫録を示したいのだろうか?


『髭』は、訝し気な表情で、尋ねて来る。


「ほう! こいつは何だ、カミーユ」


「い、いててて、ぐうう、あ、あ、兄貴。この女達の、て、亭主気取りのガキらしいんです」


「ん? 亭主気取り?……ふん、そうか、じゃあこのガキには、少し世間ってものを分からせてやろうか」


リーダーは、指の関節を「ぽきぽき」鳴らし始める。


威嚇しているつもりなのだろうか?


格下と見た俺を、存分に「いたぶってやろう」って気が満々だ。


ミシェルが、悲しそうな表情でカミーユを見た。


「カミーユ……こんな腐った奴等とは別れなよ、あんたが、どんどん駄目になって行くよ」


ミシェルは昔の恋人?へ、最後の優しさを向けてあげたのであろう。


「うるせぇ! このバカアマ!」


しかし……俺に腕をがっしり摑まれたカミーユ、

この最低野郎には、ミシェルの優しい忠告も耳に入らない。


本当に! くそが付くバカ野郎だな、カミーユって奴は……


まあ良いか。

徹底的にお仕置きしてやろう。


「良いか、レベッカ、ミシェル……カミーユの馬鹿を含め、しょ~もないザコのおっさんどもと話をつけてくるから。店で、ちょっとだけ待っていてくれ」


「は~い、ダーリン! OK!」


俺の言葉を聞いたレベッカは、余裕たっぷりに頷いた。


オーガどもに対する、格闘技や剣技を使いこなす俺の無双っぷりを、

目の当たりにして、よ~く知っているから。

 

一方、ミシェルといえば、少し心配そうに、俺を見つめている。


これまで……家族会議等々で、俺の『武勇伝』はいろいろ聞いているだろうが、

実際に、自分の目で見たわけではないからな。


そして、俺の言葉を聞いた髭のクランリーダーも、鼻を鳴らして、笑う。


「はぁ? ちょっとだけ待っててくれだぁ? あはは、こいつはおもしれぇ。おう、こまっしゃくれた、クソガキ。お前はな、もう女達の(もと)へなど、二度と戻れやしねぇぜ」


おいおい、はあ?って、こっちこそ、はぁ? だ!

 

二度と戻れないだと? 寝言など、勝手に言ってろ!

 

俺はリーダーの言葉を無視、外へ出ようと促す。

カミーユの腕を、がっつり掴んだままで。


「さあ……さっさと行こうぜ、おっさんども。それとカミーユ、てめぇだけは絶対に許さないからな!」


俺の凄みのある目を見たカミーユは、

今までの強気が消え、びくり!と身体を震わせたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……既に、日は暮れて……外は完全に真っ暗。

夜のとばりが降りていた。


入った居酒屋(ビストロ)から少し離れた、

人気(ひとけ)の全く無い裏通り……


カミーユを含めた冒険者クランらしい4人と、俺は対峙している。


通りの街灯、あまり明るくない魔導ランプが、

ぼんやりと俺達を照らしていた。


さっきから、(かたわ)らで、一連のやりとりを見ていた幻影のクッカは、

怒りのあまり言葉を一切発しない。


俺が目で合図すると、黙って頷いた。

「殺すのは駄目としても、思う存分やってしまえ!」という返事であろう。


そして俺は、ひどく()めた目で奴等を見ていた。


もう、まともな怒りをとっくに通り越しているのだ。

平常心スキルのお陰で、表面上は至って冷静ではあるが。


「おい! ザコの腐れおっさんどもから、先に痛い目にあって貰う。その後で、俺は、このクソ馬鹿男カミーユとゆ~っくり話がしたいからな」


「おいおい、何だよ、聞いたか?」

「生意気な! 俺達に勝つつもりだぜ」

「こんなクソガキ、バラして、どっかに捨ててしまおうぜ」


一旦、俺が手を離し、ようやく解放されたと安堵したカミーユ。


すたこらさっさと、移動。

所属クランの先輩冒険者どもの背後へ、こそこそと隠れた。


そして恐る恐る顔を出すが、

まさに『虎の威を借りる狐』みたいに、邪悪な笑みを浮かべている。


「へへへ、兄貴達、衛兵が来ないように俺が見張っていますから、メタメタにやっちゃって下さいよ。思い切り、(なぶ)り殺してOKですって」


あ~あ、ホント、こいつらどうしようもない屑な野郎どもだ。


生きている価値など、皆無だろうと、思うくらいである。

先日、村で、いきったクラン大狼のアホどもと一緒だ。


俺は手を前に突き出し、人差し指だけを手前に「くいっ」と誘うように動かした。


「おい! もう御託(ごたく)はノーサンキューだ。ザコのおっさんどもから来いよ」


俺はそう言うと、ふうと軽く息を吐く。


「ひとりずつでも、まとめて3人一度にでも、どっちでも構わないからさ」


完全に舐めているとも言える俺の言葉に、

怒ったクランのひとり=冒険者Aが殴りかかって来る。


そうそう、こんな奴の名前など、わざわざ知る気もしない。


よって単なる雑魚(ザコ)、『冒険者A』でOK!


「何だとぉ! おらあっ!」


どん!


俺は敢えて、腹に奴のパンチを受けてやった。


鈍い音がするが、オーガのパンチをまともに受け、

物理無効のスキルを得た俺には、小さな蚊が止まったほどにも感じない。


「ひゃはは、どうだぁ」


その瞬間。

 

「あぎぎぎぎ」


俺は左手で腹へ食い込んだように見えるAの腕を掴み、

(ひね)り上げて態勢を崩させる。


そして、ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱ~ん!


と、空いた右手で猛烈なビンタをAの左右の頬へ張ってやった。

 

Aの頬はあっと言う間に紫色に染まり、無残に腫れあがって行く。

切れた口からは真っ赤な血が「ぶしゅっ」と飛び散った。


そしてAの腹の真ん中へお返しとばかりに、右拳でどご!と、とどめの一発!


まあ、これでもだいぶ手加減はしている。

優しく「なでなで」してやるよ、といったレベルだ。


「あぐおっ!」


ボロ雑巾のようになって気を失ったAを、俺は「ぽいっ」と放り投げた。

「ごろごろごろ」と転がったAは微動だにしない。


クランの男どもは、カミーユは勿論、リーダーの髭も目を丸くし、

呆然としていた。


俺は気だるげな表情で、指を再び「くいっ」と挑発的に動かした。


「さあ、次だ……そこのおっさん、ザコなら愚図愚図せず、さっさと来い」


「や、や、野郎っ!」


ふたり目の男=同じくザコ『冒険者B』が俺へ飛び掛って来る。


ああ、こいつも……弱い。

弱過ぎる。


今度は、俺が先に腹へ軽くパンチ。


ぼご! 「あぐっ!」 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱ~ん!

 

し~ん、ぽいっ。


同じような光景が繰り返され、Bが放り投げられると、

また同じ『ボロ雑巾』がひとつ増えた。


「さあて、後はザコの親玉の髭、お前だけか」


俺は「ふう」と息を吐き、更に言う。


「お前らの方こそ、身の程知らずにでかい口を叩く、くだらねえザコのおっさんどもだよ……だから、俺が少しじゃなく、たっぷりと世間を分からせてやるよ」


「く、くそおおっっ!!」


頼みの配下を呆気なく倒され、

さすがに緊張したリーダーの髭男は、大きく声を張り上げ、とうとう剣を抜いた。


おいおい、俺、素手だよ。

なのに剣を抜くなんて、ズルいし、これじゃあ、完全に犯罪じゃんか。


……って、まあ、全然、余裕だけどね!


そんな完全に、マジモードとなった髭リーダーが抜いた、

鋼鉄剣の銀色の刀身が、月明かりを浴びてきらりと光る。

 

マジ顔のリーダーの後ろで、カミーユはといえば、

さっきまでの威勢はどこへやら……完全にびびって、ガタガタ震えていた。


そして、大きな剣を振りかざすリーダーの男に対して、俺はまったく臆さない。


ゆっくり、ずいっ!と、一歩を踏み出したのである。

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