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第55話「ドケチ親爺よ、さようなら」

俺達と同行したのは、ボヌール村の北に位置するジェトレ村の商隊である。

 

念の為、ジェトレ村は、オベール様の領地ではない。


別の領主が治めている村だ。


なので、商隊の商人達は、領地外の人間。

商売の内容や持ち込んだ商品、滞在期間を根掘り葉掘り門番に聞かれた上で、

結構な金額の税金を取られていた。

 

相当に厳しい対応だが、ジェトレ村の出入り口でも、多分同じ事をやっている。


例えば俺達がジェトレ村へ行ったとしたら、しっかり税金を取られるだろうから、

まあ、お互い様じゃないの、というところ。


そして、税金を徴収されるのは毎度の事だろうに、

『ド』が付くけちな商隊リーダーの親爺の顔が辛そうに歪んでいる。


少しでも所持金が減るのは、到底、耐えられないという面持ちだ。


けれどそれが、トンデモな展開への原因になるとは、俺は全く想像もしなかった。


入場手続き全てが、完了した親爺。


「よし、ボヌール村の若僧ども。お前達の護衛はここまでで良いぞ」


「え? ここまでで良い?」


「ああ、そうだ。この町で我がジェトレまで帰還する、新たな護衛を改めて雇う。そういう話だったじゃないか」


「それは、確かにそうですが……」


「で、あれば! お前達の護衛はここエモシオンまでって事だ。当然だが……前払いした金貨100枚の内、半分の50枚は返してくれよな」


「…………」


いきなりの商隊のリーダー親爺の言葉に、俺は驚き、ポカンと口を開けた。


はぁ? いきなり、契約解除?

勝手に何言ってんだ、コイツ。


俺は呆れ、改めて親爺の顔を見る。

こいつは商人の癖に、『契約』の意味も知らないのか?と。


新たに護衛を雇うのは話通りだが、

俺達も共にボヌール村までは行く、という話で、契約を結んでいるだろうが!


「ごら! 何をぽかんとしている? 警護役を都合2組も雇ったら、金の無駄に、なるだろう? 至極当然の事だ」


「はぁ?」


「復路において、どうせお前達はボヌール止まり。ジェトレ村までは行ってくれないし、半金を返すのは当然だよな」


あまりにも身勝手な、ドケチ親爺の論理と暴言。

ホント、誠実さを売りとする商人とは思えないクズ野郎だ。


ドケチ親爺の言葉を聞いて、口を開いたのがミシェルだ。

直接、親爺と交渉して契約をまとめたのは彼女だから無理もない。


ミシェルは、ドケチ親爺を真っ直ぐに見つめると「びしっ」と抗議した。


「何、言ってるの? おじさん。それでは話が違うでしょ?」


「話が違う? 何の事だ?」


(とぼ)ける、惚ける、このドケチめぇ!

いい加減にしろ!と俺も、だんだんむかっ腹が立って来た。


当然、ミシェルは再度びしり!と言う。


「私達が、あんたと約束した契約って奴があるでしょ? 復路は私達と新たに雇った護衛はボヌール村まで行くって」


「ほう? そんな契約は、全く知らないなあ」


「全く知らないって、とぼけるつもり?」


「とぼける? じゃあ証拠は? 私達がお前達と、正式に取り交わした契約書があるっていうのか?」


商隊のリーダー、ドケチ親爺はホント狡猾だ。

 

俺達の請け負った護衛の仕事は、契約書のない口頭でのやりとり、

いわゆる『口約束』だ。


これまでの長年の信頼関係から、敢えて書面には残さなかったのだ。


これは厳しく言うのならば、ミシェルのミス。


だが、親爺はそれを悪用し、無理押しして来やがる。

 

しかし、ミシェルもやはり只者ではなかった。

こんな親爺の「上を行く」女傑である。


しっかり、バッチリと『切り札』を用意していたのだ。


「ふ~ん。ジェトレ村の商人さんとは長年の付き合いだから、他人行儀に契約書なんか作らなかったけれど、そっちが、その気なら、こっちも容赦しないよ」


「何? 容赦しないだと?」


「そうよ! じゃあこのエモシオンの町に居る衛兵さん、ここへ呼んじゃお~かなぁ」


「な、何だと? エモシオンの衛兵を呼ぶ?」


「そうだよ。あんたがたと、さ。ボヌール村へ一緒に来て、村のルールを守らず、挙句の果てに、痴漢とか、集団で脅迫とか、ウチの旦那様への暴行未遂とか、散々不埒な行動をしたクラン大狼(ビッグウルフ)の悪事を通報しちゃおう!」


「悪事を通報!? クラン大狼がどうした? 逃げ出した、あんな奴ら、私達にはもう関係ないだろう?」


「いいえ、そんな理屈は通らないよぉ。雇用主の監督責任ってものがあるでしょ?」


「こ、雇用主の!? か、監督責任だとお!?」


「ええ、雇用主の監督責任。そんな奴等を雇い主の癖に放置して、ウチの村に大迷惑を掛けた商人達のリーダーは、こいつですよぉって通報しちゃおうかなぁ」


「ななな、何!?」


「そうすると、この町のご領主のオベール様ってひどく怒るんだよ。何せ王都へは領地の治安の良さを、自分の功績として報告しているからね。それにジェトレ村のご領主様にもガンガン猛抗議すると思うよ」


治安が良い? このオベール様の領地が?

 

王様にそう報告してる?


はぁっ? 何それ! って言いたくなる。

だって、真っ赤な大嘘だ。


ゴブの大群に、変態人狼、凶暴なオーガに、

女性の敵オーク、挙句の果てには人間の山賊共まで出没する。

 

俺が倒しただけでも……こんなに悪党が居た。


少し前には、魔物の襲撃でボヌール村の村民が大勢亡くなっているし。


その上、狼や熊も出るとなれば、

こんな土地のどこが、どの面下げて治安が良いって言えるんだよ!


だんだん、オベール様とやらの人柄が分かって来た。

俺の中では、だいぶ印象が悪くなって来る。


狩りと年貢の件といい、嘘つきで詐欺師ちっくな、とんでも領主だって。


だが、今の俺達にとって、その理屈は役に立つ。


ドケチ親爺の奴は、完全にびびっているからだ。


「オベール様が猛抗議したら、あんた達のご領主様は、面子(メンツ)を潰された! とすっごく怒るだろうねぇ……もしかしたらジェトレ村の広場で、あんたを含めて商隊全員死刑になっちゃうとか?」


「し、死刑!? ひ、ひいいっ!」


「という事さ。よっし、呼ぼうかぁ! お~い、衛兵さ~ん、こっちで~す」


調子に乗って衛兵を呼ぼうとしたミシェルを、親爺は慌てて止める。


「ま、待て! もう金を返せなんて言わない! その代わり、頼むから、この町までで、護衛の契約を解除してくれ! もう良いよ、お前等は!」


ミシェルの作戦にはまったドケチ親爺は、帰りの護衛は不要だと言い捨て、

逃げるように居なくなってしまった。


ドケチ親爺が『逃げた』のを見たレベッカが心配そうに言う。


「ねぇ、ミシェル、ちょっと、やり過ぎじゃない? あのおっさん、もう二度と、ボヌール村へ来ないよ、多分」


しかし、ミシェルは笑顔で首をゆっくりと横に振った。


「全然ノープロブレム。商隊なんてさ。ジェトレ村の他の商隊、そして他の町村から、『代わり』が、いくらでもウチの村へ来るよ。それに今度は私達だけで、この町へ来れば良いんだもの」


ミシェルは、そう言うと頼もしそうに俺を見る。


「大丈夫! もう私達にはさ、強い旦那様が居るんだから!」


「そうか! 私達のダーリンは世界最強だよね~」


昨夜の家族会議の後に……


事前に俺の許可を取ったリゼットとレベッカは、

「絶対に内緒」と念を押しつつ、

俺が、ゴブやオーガをイージーモードでやっつけた事を、

ミシェルとクラリスへ伝えていた。


将来、夫となる俺はとんでもなく強い! という情報が共有された瞬間だ。


という事で! 愛する嫁レベッカとミシェルのふたりは、顔を見合わせて頷くと、

俺に向かって、とびきり素敵な笑顔を見せてくれたのである。

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