第52話「女神という名の作戦発動」
ドケチ親爺との間で、すったもんだした挙句、
正式な護衛契約が交わされ、出発準備も完了。
そんなこんなで、日は経って……
結局……クラン大狼が、俺の『怒り』で逃げ去って2日後……
俺達は遂に、ジェトレ村の商隊と一緒に出発する事になった。
ルートはといえば……至極シンプル。
ボヌール村を出て、村道をしばし行き、転生した俺が歩いて来た街道へ出て左折。
更にず~っと南下する。
トータル約半日、12時間強をかけ、
領主オベール・クロード様の治める、エモシオンの町へ赴くのだ。
そうそう、転生したばかり俺が、歩いて来た時、
周囲には誰も居らず、完全にボッチだった。
管理神様の調整なのか、たまたまなのか、街道には全く人通りが無かったのだ。
おいおい、こんなに人が居ないなんて、
田舎の村へと言われていたけど、
どんなに僻地なんだよ、と思ったがねぇ……
嫁ズに聞いても商人達へ聞いても、頻度はともかく、
通常は様々な人々が行き交うそうである。
なので、全くの無人は、不自然極まりなく、管理神様の調整が入っていたとしか思えない。
さてさて!
先述したので繰り返しとなるが、地球の中世西洋同様、
貴族から庶民まで……様々な年齢性別、及び身分の者達が旅をしたが、
目的は、政治、商売、運送、武者修行、巡礼、そして、その他。
移動手段は、徒歩がメインであり、他には、馬、ラバ、馬車など様々。
実際に今回も護衛するジェトレ村の商隊は馬車3台であるし、
ミシェルは、ラバに曳かせた荷車1台で移動するのだ。
一方、レベッカはというと……
ガストンさんの所有する、逞しい葦毛の馬に堂々と跨っている。
乗馬の腕も、中々のようだ。
そして、俺も荷車には乗らない……
やたらに元気で、地味な鹿毛の馬に「ちんまり」と跨っているのだ。
馬具等々も、引き寄せの魔法でしれっと、用意した。
「あれ? ケン、お前……馬なんか持っていたっけ?」
正門の前で見送るガストンさんが、馬に跨った俺を不思議そうに見て首を傾げる。
ああ、やっぱり、聞かれたか。
俺はあらかじめ、用意してあった答えを返す。
「ああ、こいつはこの前、狩りの際に草原で捕まえたんですよ。村の近くで自由に遊ばせていました」
「捕まえた? 村の近くで自由に遊ばせていた? お前には凄く慣れているなあ……ふうん、誰かの所有馬であったものが逃げたのか、もしくは野生馬かもしれない。まあパッと見で、所有者が分かるものがないから、大丈夫か、うん」
ガストンさんは自問自答しながら、勝手に納得してしまった。
まあ、誰にどう聞かれても、そこらで捕まえたとしかいえない。
だってこの馬は俺の召喚した従士のひとり、
悪魔の乗馬であった妖馬ベイヤールだもの。
ベイヤールの出で立ちは、普通の馬とはまるで違う。
なので、『そのまま』ではあまりにも目立ちすぎる。
だから、俺が発動した変身の魔法で見かけを地味に変えてあるのだ。
ちなみにベイヤール本人は、
プライドがすっごく高いので説得するのは大変であったが。
当然、嫁ズには、召喚した従士達の事をざっくりとは話してある。
まあ、そんなこんなで、ガストンさんは納得すると、
ベイヤールに跨っている俺の姿をまじまじと見た。
明らかに見直したという、嬉しさの表情だ。
「ケン、全く知らなかったが、お前って、馬にもちゃんと乗れるんだな。凄いじゃないか、さすがムコ殿だ」
「いやぁ、まあ何とか、走らせるって感じですよ……」
こんな日が必ず来る……
そう思っていたので、実は夜間に乗馬訓練をして、乗馬スキルもMAXにしてある。
この中世西洋風異世界に来てからというもの、
俺って、何か褒められても、謙遜する癖がすっかり染み付いている。
へたに自慢すると、目立ち、墓穴を掘る事へつながると、
本能的に分かっているからだ。
「ごらあ! そろそろ出発するぞ!」
商隊のドケチ親爺が、痺れを切らしたらしく怒鳴っている。
彼等にしてみれば、時は金なりで、
時間をだいぶロスしてしまっているので分からなくもない。
しかし護衛の金をケチり、
クラン大狼のような『不良品』を掴んだ責任もあるから自業自得だ。
まあ、とりあえず出発である。
俺は、ベイヤールを促して常歩で歩き出す。
従士としてはベイヤールの『初仕事』であり、
彼の気合が、お尻からじんじん!伝わって来ていて、何となくこそばゆい。
ちなみに、クッカとケルベロスは既に出発して先行していた。
先に出発した理由は偵察と索敵。
当然、襲撃者対策であり、先行役として突出させ、
万が一の際には対応して貰うのである。
俺とクッカで、昨夜考えた作戦は、もう発動しているのだ。
ベイヤールへ、指示を改めて出した俺は、やや速度上げを先頭に立つ。
直後に商人の馬車3台が続き、ミシェルの荷車が最後方。
レベッカが、ミシェルの傍を並行して走る形である。
俺達一行は、あっという間に村道を抜け、街道に出た。
ここを左に曲がり、南下するのだ。
俺が跨ったベイヤールは、本当に素晴らしい。
滑るように歩いている。
普通の馬が走る際に生じる揺れなど、まったく伝わって来ないのだ。
やはりというか、今更だし、ボヌール村まで来た時にも感じたが、
この世界の道路事情は、前世の舗装された道路を見慣れた俺には相当酷く映る。
これも今更だが、どこもかしこも石ころだらけで、土を踏み固めただけの代物。
金をかけ、整地、石畳などを敷き詰め、舗装。
道路を整備するという考えは、このプリムヴェール王国には全然無いらしい。
僻地の道路など、金をかけるだけ無駄だと思っているのだろう。
レベッカに聞くと、この街道は夏は土ぼこりが舞い、
冬は雪と泥に埋もれてしまうという。
このような道なので、雨や雪などで道がぬかるむと、すぐ馬車は立ち往生。
ひどく難儀してしまい、大変なようだ。
加えて、街道の道幅も非常に狭い。
馬車2台が、やっと通れる広さである。
ただ、この道にも暗黙の交通ルールはあった。
やはり中世西洋のルールとほぼ同じ。
荷物の有り無しで、通行の優先権が発生したし、
騎士と馬車がすれ違う際にも、何と! 馬車が優先となる。
このような事から、街道を最優先で通行出来るのは、
今、俺達が警護している積荷を持つ商隊の馬車なのだ。
そして、俺達が警護している大きな理由……
騎馬に比べ、「足の遅い」商隊は、
傍から見て、襲撃者にとっては恰好の獲物である。
また魔物にとって見れば、人間と馬は共に餌の群れ。
人間の襲撃者にとっては、金と物資を奪える弱き存在だからだ。
実際に俺も経験したが、この界隈で、魔物はゴブやオークの群れが多い。
俺がまだ直接戦ってはいないオークは超有名だから、
敢えて説明しなくてもご存知だと思うが……
念の為、補足すると、オークは風貌が豚もしくは猪に似た、
人型魔物である。
体格は人間か、少し大きいくらい、知能もゴブよりはずっと高い。
ゴブ同様、人間を貪り喰い、人間の女性を『乱暴』までする。
こいつらも出現し、襲って来たら、悪即斬!の対象である。
そして、これも先述したが、人間の襲撃者に到っては、
追いはぎ、強盗、山賊に加え、食い詰めた傭兵、
挙句の果てには、悪徳に堕ちた貴族までもが、旅人を襲った
更に呆れた事に、領民を守るべき領主までが、
困窮した際、こっそり正体を隠し、襲う事も珍しくないという。
これ、もし本当であれば、実に呆れた話。
万が一、領主のオベール様が襲って来たなら、天誅を加えてやる!
そんな、おバカ領主を懲らしめても、心は全然痛まない。
俺はレベッカから、そんな話を聞かされた際、勝手に妄想して憤っていた。
ガタガタガタガタ、ミシガタ……
パカポコ、パカポコ……
馬車の木製の車輪が軋む音と、馬のひずめから発するのどかな音が混在し、
俺達は街道を進んで行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからしばしの間……
商隊の馬車とラバが曳いたミシェルの荷車、
そして俺とレベッカが乗る2頭の馬は、のんびりと進んで行く。
焦らなくとも、悪意を持つ第三者の妨害さえ無ければ、
こんなのんびりした速度で、充分エモシオンに到着するそうだ。
天気は、今日も快晴だから、雨で道がぬかるむ心配も全く無い。
ぶわっ!と、時たま捲き上がる砂埃には閉口するが、
まあ我慢するしかない。
ふと、上空を見あげれば青空にちぎれ雲が飛び、
風も爽やかに吹いて旅には絶好のコンディション。
ああ……夢に出て来た故郷の空みたい。
懐かしいな……
俺はふっと、望郷の念にかられた。
そんなこんなで……約2時間くらい進んだ頃。
進行方向の左右それぞれ1km先くらいに、俺の索敵は敵の反応をキャッチした。
おお、来たか! それもダブルで来やがった!
何と、前方右は魔物の群れ。
前方左は人間の襲撃者だ。
それぞれが少し離れている。
別々の存在であり、お互いには気付いていないようだ。
どちらも数は20から、30を少し超えるくらいの中規模なものではある。
だが、俺達を襲うには充分な数だろう。
当然の事ながら1km先なので、
襲撃者達に気が付いたのは俺とクッカ、そして従士達だけである。
さあ! いよいよ、例の作戦の開始だ。
俺は少し先に居る、幻影のクッカへ念話を送る。
『敵だぞ、クッカ!』
『はい! ケン様、私もキャッチしました。対襲撃者作戦の発動、宜しいですか?』
『おう! 作戦名クッカ、発動! 襲撃者複数の為にパターンBで!』
『了解しました! 作戦名クッカ、パターンB発動しまぁす』
あはっ、やっぱりクッカの奴はノリが良い。
益々そうなるように、クッカの名前をつけたり言い方に工夫したのは変かもね。
まあ、俺とクッカの幸せの為には必要だ。
そして、俺は遠くのクッカめがけて、作戦の為、魔法を発動したのである。
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