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第51話「護衛の仕事を請け負った」

俺の雑学オタク、中二病によれば……

過去の地球、中世西洋において、

『旅行』とは、大いなる危険に満ちており命がけだったらしい。


貴族から庶民まで……様々な年齢性別、及び身分の者達が旅をしたが、

主な目的は、政治、商売、運送、武者修行、巡礼、そして、その他。


貧困が深まったり、戦争が起こると、人々の移動は増加したと言われている。


また移動手段は、徒歩がメインであり、他には、馬、ラバ、馬車など様々。


そして町、村の間は相当な距離があり、俺が歩いた道のように、

整地などされてはいない、悪路が当たり前。


天気予報など当然無いから、道中は、天候が基本的に予測不可能。

……に加えて、賊も出た。


追いはぎ、強盗、山賊に加え、食い詰めた傭兵、

挙句の果てには、悪徳に堕ちた貴族までもが、旅人を襲ったのだ。


更には、自然に満ちあふれた地域ならば、肉食獣なども襲って来る。


それゆえ旅行者はしっかりと武装し、

戦いに自信が無い者は必ず護衛を雇ったそうだ。


俺が存在する、この中世西洋風の異世界も近い状況であるだろうし、

加えて、怖ろしい人喰いの魔物どもが容赦なく襲って来る。

 

……という事で、ミシェルが画策し、

今回、俺達3人が()ける仕事はジェトレ村商隊の護衛。


元の護衛役、ふらちな冒険者クラン大狼(ビッグウルフ)が、

俺に懲らしめられて逃亡し、回って来た仕事である。


俺が戦える魔法使いで、レベッカが凄腕の狩人、

商いのプロ、ミシェルが拳法の達人。


一流冒険者クラン顔負けの実力者、俺達3人が、護衛の仕事を務めるのだ。


ただそうは言っても、正式な冒険者でもない俺達が、

未体験の商隊護衛の仕事を()けるには、村の責任者達の許可が要る。

 

まずはレベッカ父、門番兼保安担当のガストンさんを説得し、

ミシェルが現実的で強引な押しも行い、何とかOKを貰った。


以前の狩り研修の時とは違い、

ガストンさんは俺を含め、ある程度実力を認めてくれている事も幸いした。


当然ながら、リゼットの父たる村長ジョエルさんにもOKを貰う必要がある。


しかし、俺達が直接ジョエルさんへ告げ、許可を取るよりも、

一旦ガストンさんへ話し、了解を取った上での申し入れというのが、

通し易いやり方だと、思い付いた。

 

ここで任せて! と言ったのがリゼットとレベッカ。


更にミシェルも加わり3人から頼まれて、

ガストンさんは、ジョエルさんへの交渉を否応無くOKした。


村においては、門番を務める戦いのプロ。


百戦錬磨のガストンさんの判断なら、

いくら村長とはいえ、ジョエルさんも了解する確率がぐ~んと上がると。


絶対、そうだ。

 

俺は、そう確信したのである。


案の定……ジョエルさんは、あっさりOKを出した。


後でガストンさんに聞いたら……

現実問題たるミシェルが強硬に主張した、村に必要な物資の枯渇も、

判断の大きな要因となったそうだ。


こうなったらもう、ジェトレ村商隊の親爺に交渉し、

護衛の契約を取り交わすだけである。


という事で! 俺達は、大空屋に宿泊している商隊を訪ねた。


エモシオンの町までの往路、商隊を護衛し、安全、無事に送り届ける。

帰りはボヌール村まで、新たに雇った護衛と共に、ボヌール村まで送る、

という条件で、請け負いたいという打診をしたのだ。

 

しかし、リーダーである中年親爺はせこく、一筋縄では行かなかった。


クラン大狼(ビッグウルフ)みたいなクランを雇うのは、

普通は冒険者ギルドを介して、が基本だという。

 

そもそも旅の商隊の護衛料金って、結構相場が高いらしい。


場所にもよるが、日数を要し、命も懸かった仕事だし、経費も相当かかる。

冒険者ギルドへの手数料も含まれるから当たり前なんだが……


そこで親爺は護衛料を少しでも安くあげようと、

ギルドを介さず、クラン大狼を直接雇ったらしい。


ジェトレ村でたむろしていた、クラン大狼に声をかけたのだが……

まあ、さすがに親爺も、大狼の奴等の身元確認はした。


奴らは一応、冒険者ギルドのランクCの所属登録証を持っていたから、

親爺も安心して雇ったらしいのだ。


が、しかし……奴等はとんでもなかった。


戦う技術はあったのかもしれないが、素行がとんでもなく悪かった。


あのように、『傍若無人振り』を惜しみなく発揮したのだ。


傍若無人過ぎて、根拠の無い自信を振りかざした挙句、

俺にあっさりやられ、逃げてしまったが。


「へへへ、後払いにして、奴等へ金を払う前で助かりましたよ」


親爺は、狡賢そうに笑う。


おお、さすがは商人。良く言えば、結構なしたたかさ。


だがミシェルには、そんな親爺のズルイ性格も計算済みだった。


「ふうん、それは良かったじゃない。だけど私達への報酬は前払いだよ」


『前払い』と言い放ったミシェルに対し、親爺は驚いた顔をする。


「へ?」


「へ? じゃないの。前金で現金払いじゃないと、私達、護衛の依頼は()けない、つまり、やらないと言っているのよ」


「そ、そんな!」


最初の「へ?」はお(とぼ)けだったらしい。


今の驚きが、親爺の本音だ。


たかが、『村の小娘』だと思って舐めていたミシェル。

彼女、実はこんな親爺など、遥かに上回る『したたかさ』なのである。


「はあ? そんなって、何、言ってるの? 前払いじゃなければ、この話は一切無しよ。私達は次の商隊が来るまで待っていても、一向に構わないんだもの」


きっぱり、かつ平然と言うミシェルに、商隊の親爺はギリギリと歯噛みした。


「くくく……」


「ほらほら、唸っていても仕方がないし、時間の無駄だよ。さあ、早く決めて! どうする?」


ミシェルは『冷徹モード』に入っているが、念の為、これは彼女の素ではない。


本来のミシェルは、優しい美少女の筈……だよね。


遂に焦れ、根負けした親爺は、とうとう護衛の条件を提示して来た。


「う~……確かに私達には時間がない。時間をだいぶロスしているから、一刻も早く出発したいんだ。分かった、往復、金貨10枚現金で前払いだ、素人の3人ならそれで充分だろう?」


おいおい、金貨10枚=日本円に換算すると約10万円か……


往復してプラス、エモシオンの滞在を1日計3日間の全日程としても……

俺達3人は、実質往復計2日の拘束。


計算したら、ひとりあたり、たった日給1万6千円強じゃないかよ!

単なるバイトなら良いだろうが、これは無い!


実質2日間拘束されるだけではなく、

商隊の人と荷物を守りつつ、魔物や強盗、肉食獣と戦うとか、

命を懸ける仕事にしちゃ、全然安くね?


親爺曰はく、装備、移動手段は自前が勿論、

俺達の食べ物や水も持ち込みだって言うし……


となると、経費は全てこちら持ち? 実質いくらになるんだよ!


ふざけるな!! 下手すりゃ、赤字じゃないか!!


このくそ親爺、どが付くすっごいケチ。


本当にドケチだ。


ミシェルも、俺と同じ様に感じたのだろう。

きっぱりと、親爺の提示を拒絶した。


「はぁ? 駄目だね、全然、話にならないよ」


「だ、駄目え!?」


「何、ボケかましてるの! 私が知っている限り、エモシオンまで、この規模の護衛で、報酬の相場は最低でも10倍の金貨100枚……これを、前金で払って貰うわ」


おお、強気のミシェル。


一気に提示額は10倍。

日本円にしたら約100万円か。


エモシオンまでの往復とはいえ、護衛3人で経費が込み込みならば、

これでも、そう高くはないと、ラノベ知識満載の俺は思う。


というか、元々出して来た親爺の提示額が安過ぎるんだけどね。


そもそも! こっちは、護衛役として命を張るんだよ!

経費だって、別途実費で払って欲しいよ!


しかし案の定、『親爺、超びっくりする』のリアクション。

 

「えええっ、そんなの無茶だ! 高い! 高過ぎるっ!」


「ふうん、だったら良いよ。私達は護衛などやらず、村での~んびり畑を耕したり、原野で狩りをして過ごすから」


「くう~! 私達が時間が無いのにつけ込みおって! わ、分かった! 金貨100枚、前金で払う。だから頼む」


「毎度あり~」


ミシェルは満面の笑みを浮かべ、Vサインを突き出した。


こうして、俺達の護衛契約は、無事成立したのである。


その夜……

俺とクッカは、自宅でふたりきり。

予想される、襲撃者への対策を練っていた。

 

これが結構難しい。


魔物と肉食獣。

更に、人間が混在する襲撃者。


対処する方法も、全く違って来る。


襲撃者を単純に撃退するのなら、簡単。

レベル99の俺TUEEE――古っ! を存分に発揮すれば良い。

 

でもそれじゃあ、全てがバレテーラ。

俺は、勇者認定まっしぐら~。


最悪な王都行き、魔王討伐確定フラグが立ってしまう。


『どうしよう……』


『結構、難しいですね……』


しばし、考え込むふたり……


しかし! やがてクッカの頭上にパッと明るいLED電灯が輝いた。


『ケン様! 私、良い事を考えました! 多分上手く行きますよっ!』


『おお! クッカのナイスアイディア、ぜひぜひ聞かせてくれよ!』


『うっふふふ。こうこう、こうです』


改めて聞けば……

クッカは素晴らしい予想以上の名案を出してくれた。


これなら確かに、行けそうな気がする。


『普通ならば、考えられない話だけど……それがもし出来るのならばバッチリだな』


『はいっ! レベル99のケン様なら楽にクリア出来ます』


クッカが、満足そうな笑みを浮かべると、甘えて俺の肩に顔を載せた。


昼間の失神といい、ホント、こいつは可愛いよ。


俺は、そんなクッカが愛おしいと思いながら……

幻影なのに、何故か彼女の放つ甘い香りを、思い切り吸い込んでいたのである。 

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