第281話「相談」
俺が、オベール家に仕えるようになって、数か月が過ぎた。
約束通り、最近は月に数回は、エモシオンへ通い、
そのたびに数日は、滞在している。
仕える事が決まった際、オベール様からは、
「ケンよ、お前はオベール家の栄えある宰相なのだぞ」と茶化されたが……
そんなものは、所詮、社交辞令であり、
本筋は『弟』フィリップの『家庭教師』がメイン、だと思っていた。
しかし……
実際に、仕事が始まると、まるで違った。
何と!何と!何と!
俺は本当に本当の『宰相』として、
オベール家の政務全般に関わる事になったのだ。
城館の従士達と門番を含む町の衛兵達、そして使用人達にも、
改めて、ナンバースリーの『宰相』として紹介されてしまった。
彼等は、『俺の直属の部下』という事になったのである。
ちなみにナンバーツーは、当然イザベルさん、否、イザベル奥様である。
さて、話を戻そう。
はっきり言って困った。
オベール様に言った通り、俺は政治とか、領地運営に関しては、
ずぶの素人だもの。
スキルの中にも、政治スキルはなかったしね。
今でも思う。
管理神様の言っていたオールスキルって、どこがオールスキルなんだって。
オールという割には穴だらけ。
はっきり言って、『盛り過ぎ』だろう……
だから、さりげなく「仮」とか付けていたんだなって……改めて思い知らされた。
そんな俺なので、持っているのは前世における中二病と、
一般的な庶民の知識しかない。
学校で勉強したのも、本格的な政治とは全く縁がないものであったし。
だから宰相就任には凄い不安があったのだが……
幸いにも杞憂に終わった。
オベール様は、約束を守ってくれて、決して丸投げにはしなかったのだ。
初心者の俺に対し、貴族の領地経営の何たるかを、
いろいろと丁寧に、かつ優しくレクチャーしてくれた。
こうして貰った知識を鑑みて、俺は役に立ちそうな『スキル』を、
次々に加えている。
むう、こうやって、『政治』のスキルを自分で作って行けという事かな?
そして、何とかなりそうだと思ったが……
政治スキルの習得のみではダメであった。
何故なら、政治を司る貴族家の宰相といっても、全く武勇が無いと、
「舐められてしまう」雰囲気にもなったから。
たまたまオベール様が、平民のイザベル様を娶ったので……
俺本人は能力も無いくせに、義理の息子かつ娘婿という近しい身内として、
特別に縁故採用して貰ったのでは?
という、不満が、城館内で、ぽつぽつと出るようになったのだ。
それゆえ、俺は考えた。
戦う方の実力も示した方が良い、と……
但し、そのままレベル99の能力を発揮し、戦うと洒落にならないので、
だいぶ手加減して模擬訓練をやった。
すると、俺の『そこそこの強さ』を体感して、従士や衛兵達も納得してくれた。
これで、『縁故採用の口だけ野郎』だと、馬鹿にされる心配はなくなった。
まあ、あまりやり過ぎると、『評判』になって、
王都へ『通報』されるから、充分気を付けてはいる。
家中へ入り、意外だなあと、驚いたのは……
登用するのに乗り気だったオベール様だけではなく、
奥様のイザベル様も、俺を相当頼りにしている事である。
改めて聞けば、そもそも『宰相』という役職に拘って、
強く俺を推したのはイザベル様だという。
そんなわけで、城館における人間関係もイザベル様がフォローしてくれて良好。
ここまで、ふたりに頼られたら、俺はオベール家の為に頑張るしかない。
まあ将来、村長になった時にも、
オベール家との良好な関係と経験は役に立つ筈だ。
という事で、オベール家の方は良いとして……
残る問題は、ボヌール村の将来。
俺の根っこは、あくまでボヌール村だから。
都会嫌いな俺にとっては、のんびりした今のボヌール村の雰囲気は大好き。
だから個人的には、あまり発展し過ぎて欲しくない。
前世に住んだ都会やこの国の王都のように、「ぎすぎす」して欲しくはないのだ。
しかし公の立場である村長代理としては、少しでも豊かで安全な生活を確保し、
村民全員に幸せになって貰わねばならない。
なので、そのさじ加減が難しい。
誰かが、言っていたけれど……
この世は突き詰めれば、人と金。
更にどちらが先なのかは、何とも言えない。
所詮、コロンブスの卵なのだろう。
人といえば……
以前テレーズが来た時に、村のモチベーションは異様に上がり、
団結心も固くなった。
そう!
改めて実感した。
ボヌール村の未来を切り開き、しっかりと支える為には、
若く新たな人材がもっと必要なのであると。
現状では、ぽつぽつと移住者は増えているけれど、まだまだ足りない。
俺が、8人の嫁ズとの間に子供を7人作り、もうすぐ8人目も生まれるけど……
相変わらず、ボヌール村の年配者中心の人員構成は変わらず……
いわゆる、少子高齢化なのだ。
このまま、放置はまずい。
何か、手を打って行かねばならない。
解決する為に、ずっと考えていた事がある。
村の経済を発展させ、新たな人材を外部から確保する。
その為の施策である。
考えがまとまった俺は、早速嫁ズと相談する事にした。
夜、例によって、お子様軍団を寝かしつけた後で『会議』を行う。
身重のグレースの為に、なるべく短く「さくっ」と終わらせよう。
先程、コロンブスの卵とは言ったが……
新たな事をやる場合、まずは資金の確保が必要だから。
これは、一石二鳥の方法がある。
それは……
「え? エモシオンの周辺で魔物の討伐を?」
驚き、聞いて来たのはリゼットである。
実は俺、以前やった『小遣い稼ぎ』を嫁ズには告げていない。
知っているのは、元女神のクッカだけである。
「ああ、オーガとか、魔物を討伐して、防具用として奴らの皮を売る。町の治安も良くなるし、資金作りには一石二鳥だろう?」
俺がそう言うと、やはり反応したのはクッカである。
「確かにそうですけど……変身して、素性を隠した旦那様ひとりでやるのですか? 以前みたいに」
「ああ、基本的にはな……お前達が心配するから、ケルべロス達従士のうち、最低でもひとりは連れて行く。だから留守は頼むよ」
「なら……少しは安心ですけど」
クッカは、納得したようである。
何とかサポートをしたいのは、やまやまだが……
管理神様により、クッカとクーガーの能力は大幅に削られている。
昼夜問わず活躍した、以前のような力は望めない。
「まあ、旦那様なら大丈夫。私が率いた魔王軍を蹴散らしたし、あのオベロン様にも楽勝したから」
笑顔で、太鼓判を押してくれるのはクーガー。
俺の力を、完全に把握しているから。
クーガーの発言を聞いて、嫁ズの大半は安心した表情に変わった。
一方、浮かない表情なのは、レベッカだ。
「ダーリン、御免ね。狼や熊ならともかく……オーガが相手だと……多分、私は足手まといだから」
村の狩人レベッカの能力は優れているが、普通に強いレベル。
なので、魔物狩りの同行は厳しい。
オーガに対するトラウマも少し残っているし、無理はさせたくない。
「しょぼん」とするレベッカへ、俺は笑顔を向ける。
「うん! 大丈夫さ。魔法とスキルを使えば俺は疲れ知らずだし、やるのは夜だから」
「え? ダーリン、夜に討伐するの?」
レベッカは、意外みたい。
そう、最近のふるさと勇者の討伐業務は『狩り』にかこつけて、
昼間に行っていたから。
「ああ、夜に討伐すれば、昼間の仕事も出来て、効率も良いだろう?」
「でも、ダーリンの身体が……」
「毎日じゃないから、大丈夫だって」
「…………」
「それに、スキルと回復魔法を使うから。実際、クッカとやっていたしね」
俺は心配顔の嫁ズ全員へ、改めて説明をした。
身体の方は全く負担がない事と、遥か北にある例のドワーフ村テイワズへ、
魔物の皮を『卸す』方法も。
ここで『申し入れ』をして来たのが、グレースである。
「旦那様、昼夜、ぶっ通しで働くなんて辛すぎます。どうか、私のお金を使って下さい。こんな時にこそ使わないと」
確かに、俺はグレースの『財産』を預かっている。
ざっと金貨数千枚という、大金である。
「でも、いざという時の、お前の個人財産だぞ」
「こういう時が、『いざ』ですよ」
「ありがとう! 分かった、考えておくよ。でもエモシオンの周囲が安全になるのは良い事じゃないか?」
「確かにそうですね。でも困ったら遠慮なく使って下さい、約束ですよ」
「了解! お金の方はジョエルさんやオベール様にも相談しようと思っているから……じゃあ、本題に入るぞ」
嫁ズの、様々な温かさを感じながら……
いよいよ俺は、肝心の『施策』の説明を始めたのである。
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