第282話「特別な店①」
「俺の考えた、村の為の施策なんだけど……」
そこまで言って、俺は軽く深呼吸。
で、一気に言う。
「オベール様や、ジョエル村長と相談して許可を貰い、エモシオンに特別な店を出す」
俺の提案を聞いた嫁ズ。
へ?
という反応……
「エモシオンに特別な店?」
「いきなり、何故?」
「一体、何の店?」
?マークを飛ばしまくる嫁ズの中で……
クーガーだけが、にっこりしている。
元々ウチの嫁ズは、勘が異様に鋭いが……
特に、クーガーは際立っていると思う。
もう俺の意図を見抜いたようだ。
しかし間を置かずに、クッカも「ポン」と手を叩いた。
どうやらクーガーとクッカだけは、俺が何を考えているか、分かったらしい。
ふたりで、顔を見合わせて「にこにこ」笑っている。
最近、クーガーから聞いたのだが……
クッカから、クーガーへ『ある申し入れ』があったという。
その、ある申し入れとは……
今は亡き、クミカの記憶と経験を共有したいから、教えて欲しいというお願い。
俺には、すぐクッカの意図が分かった。
クッカは、失われたクミカの記憶とスキルを補完したいのだ。
更には「クーガーと、もっともっとコミュニケーションをとりたい」
そんな気持ちもあるに違いない。
クッカは、今まで散々悩んだと思う。
天界の女神として生まれた自分は、
最も大切な『クミカの記憶』を欠落したと。
記憶を受け継いだクーガーへ嫉妬を感じた事もあると、
俺には本音を見せ、愚痴った。
絶対に、内緒の話だけど。
片や、クーガーもそう。
女神時代のクッカが体験したように、
俺の恋人として、甘い時間を共有したかった……
幼い日に体験した、楽しい夢の続きを見たかった……
という、最早果たせぬ願望があった。
悩むクッカ同様、切々として訴えた夜は多々ある。
だが……
クミカの記憶は、幼い日の楽しいものだけではない。
突然、訪れた別離から辛い日々は始まった。
親が離婚したという特殊な事情であれ、
俺はクミカへ何も告げずに去ってしまったから……
「パパとママになって結ばれよう」という約束をあっさり破り、
裏切ったと思われても仕方がない。
しかしクミカは、こんな酷い俺を見捨てず、ひたすら信じて待っていた……
長い間、孤独な寂しい日々を過ごして来た。
そして、ようやく俺が帰郷すると知り、再会を心待ちにしていた。
やっと叶ったと思った、幼い日の淡い夢が……
無残な事故死により、粉々に永遠に砕かれた……
結果、運命の神が下した非道な運命を呪って、
嫉妬と憎しみを持つ女魔王に堕ちてしまった……
俺と再会し、人間になって、嫁になってからも……
元は同じクミカである、クッカとクーガーはお互いに相手の幸せを妬んだ。
しかしふたりは俺を愛しながら、一緒に暮らし『葛藤』を乗り越えた。
今や、親友かつ戦友となった。
クッカの申し入れを、クーガーは当然、快諾。
記憶の共有により、クーガーとクッカの絆は、更に更に強くなっている。
何かあれば突っ込み合う、『喧嘩友達』というノリは、全く変わらないけれど……
ふたりは元、ひとりの人間クミカ……なのだから、
こうして仲良くなるのは当たり前なのかもしれないが……
閑話休題。
ということで、肝心の店の話である。
「店の表向きは、大空屋のエモシオン支店。展開する内容は、ボヌール村のアンテナショップだ」
そう、俺の提案は、ボヌール村のアンテナショップ開設である。
補足しよう。
アンテナショップとは、企業や地方自治体が自社製品や地域の特産物を紹介し、
消費者の反応を探る目的で開設する店舗の事。
単に販売だけでなく、情報発信や消費者ニーズの把握を重視する、
文字通り『アンテナ』のような役割を担う店である。
今回、俺がエモシオンへオープンするのは、
『企業の新製品の為』というより……
県などの『行政』が作った、
『故郷』の魅力を伝えるアンテナショップのイメージだ。
そんなアンテナショップは、都会でもたくさん見かけた。
多分、故郷を懐かしむ人々が、足を運んだのではないかと思う。
残念ながら、俺の故郷のアンテナショップは最寄りにはなかったので、
他県の店にばかり行ったのだが……
名前だけしか知らない県が、実際にはどうなのか?
という疑問に応える、物珍しくて、素敵な場所だとのイメージがある。
そう、故郷を懐かしむ人だけではなく、
俺みたいに「未知の土地を知りたい」という人も、たくさん居ただろう。
まあ、クッカとクーガー以外の嫁ズには何の事だか分からないのは当然。
だから、詳細はこれから説明する。
しかし今まで楽しんだ昔遊びの影響か、
興味津々の嫁ズ達は、俺に期待の眼差しを向けて来る。
「アンテナショップ?」
「何それ?」
「教えて下さい」
リゼット、レベッカ、ミシェル、クラリス、ソフィ、グレースが、
引き続き首を傾げる一方、
「やっぱり!」
「思った通りですね」
やはりというか、クーガーとクッカは頷き合っていた。
クーガー達ふたりの様子を見て、
観察力と洞察力の鋭いリゼットにはピンと来たらしい。
俺と、クッカ&クーガーを結ぶ点……
いわゆる共通項を考えれば、おのずと答えは導かれるからだ。
「分かった! その店の趣旨って、旦那様とクミカさんの生きていた前世と関係がありますよね?」
リゼットを含めた嫁ズも、当然クミカの事を知っている。
楽しい記憶も、辛い出来事も……
でも、
全てを『前向き』にしようと、敢えて話を振ってくれたのだろう。
やっぱり、家族って良いなぁ。
笑顔で質問するリゼットへ、俺は心の中でとても感謝していたのである。
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