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第279話「笑う魔王」

「ええっ!?」

「まおうがないてたのぉ?」

「うそぉ!」

「なんでぇ? なんでなのぉ」


冷酷非情な怖ろしい魔王が、不思議な事に泣く……


すれていない、まっすぐな俺の子供達。

「もしかして嘘泣き?」なんて声が出ないのが嬉しい。


そして、衝撃の事実が!


「何と、何とぉ! 魔王の正体は、可愛い女の子だったのだぁ!!!」


両頬にそっと手をあて、リゼットの驚愕ポーズ。

目が真ん丸、口が小さくポカン状態。


ああ、こんなリゼットも可愛い!


我が嫁ながら、凄く可愛い!

抱きしめたいっ!


い、いや、違うだろ。


今はそれどころじゃない。


だって、泣いている魔王のモデルは……

クーガーなんだもの……

 

でもこれって、展開が違う。

全然、事実ではない。


となれば……魔王が泣いて……

つまりは、クーガーが泣くって……


結末は……一体どうなる?


つい、俺も気になって来てる。

まるで、お子様軍団と同じレベル?


どんどんどん! どんどんど~ん!


俺達の「知りたい!」という欲求を更に煽るように、

リゼットは太鼓を何度も打ち鳴らした。


「これはぁ、一体どうしたというのだぁ? 魔王が超可愛い女の子だと知って、勇者様達はみんなと同じようにびっくりしたのだぁ。だからあ~、泣いている魔王に聞いたんだぁ!」


どんどんど~ん!


そうそう!


聞いてくれ、泣く魔王にちゃんと聞いてくれ。

 

だって!


俺達が知りたいのはその先!


一体、どうなるの?


「おいおい、どうした魔王? 勇者様は怪訝な顔をしたぁ! 何故、お前は泣いているのか?とぉ……するとぉ、魔王は顔を上げたぁ。そしてぇ、頬を、ぷくっと膨らませ、口を尖らして言ったのだぁ」


ああ、リゼットぉ! 何で?


良い所でCMが入るテレビ番組みたいに、何故そう、引っ張るの?


早く教えてくれぇ。


お子様軍団も、俺と同じ気持ちみたいだ。


「なんてぇ?」

「なに、いったのぉ」

「わたし、しりたい、しりたいっ」


せがむ子供達を見て、リゼットは表情を一転させる。


寂しそうな顔で……ぽつり……


「私は、ぼっち……」


は? 何、それ?


ぼっち……って、何?


またも、想定外の答えに……

俺は、まじまじリゼットを見た。


しかし、彼女はと~っても大真面目。


やはりというか、場を沈黙が支配する。

あまりにも意外な答えに……村民が唖然(あぜん)としていた。

 

「…………」

「…………」

「…………」


し~ん……村の中央広場全体が静まり返る。


か~ぁ!


タイミングが良いというか……

遠くで、カラスがもの悲しく鳴いた。


全くの偶然だろうが、物語に哀愁を添える絶妙なタイミングだ。

   

だが、リゼットは、構わず話を進めて行く。


「答えた魔王の声は、すっごく小さかったぁ! だから、勇者様は耳に手をあて、叫んだぁ! お~い、魔王。声が全然小さいぞぉ! 聞こえないぞ~っと、勇者様は聞き直したんだぁ!」


どんどんど~ん! 


「すると魔王はキッ!と勇者様をにらんだぁ! 泣いている魔王は悔しそうにぃ、もう一度大きな声で言った、いや! 叫んだんだぁ! 私はぼっちぃ! 手下だけで友達がひとりもぉ、居ないんだぁ! 文句あるかぁ!!!」


「…………」

「…………」

「…………」


びしびしびし……


場の空気が、固まっている。


大人の村民だけではなく、いつもは突っ込みしなくちゃ、

気が済まない子供達までもが無言……

 

ぼっちで寂しい美少女魔王……これって……もの凄い展開だよ。


怖ろしい魔王の威厳が……台無し。

良く、あのクーガーが上演を許可したものだ。


しかし、リゼットのノリは益々良くなって行く。

 

「魔王が叫んだ瞬間! ひゅううううう~……さびし~く風が吹いた……勇者様達が改めて見ればぁ、魔王の言う通りぃ! 周りには誰も居な~い! 魔物はぜ~んぶ、薄情にも魔王を見捨て逃げてしまっていたのだぁ!!!」


ああ、リゼット。

身振り手振りが物凄い。


風を模して、口笛まで使っている。


そして、お約束の太鼓の連打。


どんどんどん! どんどんど~ん!


「うわわわあ~ん! 魔王はひとりでず~っと泣いている! 私は寂しいっ! 見たら分かるでしょぉ? 友達が居ないのぉ! 友達がい~っぱい欲しいのよ~っ!」


泣き真似を交えた、リゼットの迫真の演技。

 

だが、気になっている。

それはクーガーの気持ち。


俺は、彼女が魔王になった悲惨な経緯を知っている。


不可抗力な部分もあるし、こうやって演目にするのが、許されるのかとも思った。


折角閉じて治癒した心の傷を、また無理やり開くようなものだから。

凄く可哀そうだ……


俺が「そ~っ」と見てみれば……

クーガーは(うつむ)いている。


ぶるぶる身体を震わせている。


え? 辛い記憶を思い出して、泣いている?


た、大変だ!!!

 

え!? ……い、いや、この波動は!?

あれえ? あれれれれ!?

 

……笑っている。


あは! リゼットの演技を見て、大笑いするのを我慢している!


ああ、良かったぁ!


あらららら、もう我慢出来ずに笑っている。


大笑いだよ、大きな口を開けて。


クーガーは、もう大丈夫そうだ。


だが立ち直っていても、今まで以上にい~っぱい優しくしてやろう。

お前は、決してひとりぼっちじゃないんだぜって。

 

『クーガー……』


俺は、そ~っと、念話で呼びかけた。


すると、打てば響くように返事が戻って来る。


『ありがとう! 旦那様は、やっぱり優しいねっ! 大好きだよ……うふ』


クーガーは、俺が気遣っていたのが分かっていたみたい。


晴れやかな、とびきりの笑顔で、元気にVサインを送ってくれたのである。

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