第277話「サプライズ」
一体、何だろうか?
もうひとつ面白い話をやるって?
……当然、別の話って事だろうけど……
敢えて心の中を読まない俺が見守る中で、
嫁ズは「てきぱき」と準備を進めて行く。
とはいっても……
俺が今まで使っていた『靴を履いた猫』の紙芝居絵を、
何か、違う演目に差し替えただけ。
村民達だけではなく、俺にも絵柄が見えないように隠している。
そして、改めて念押し。
俺に対しては、参加せず見物に徹するように告げたのである。
自分だけ『のけ者』にされたみたいで、ちょっとだけ寂しいけれど……
ここは、嫁ズを信じて任せてみよう。
どうやら、今までの俺の代わりに、進行役をリゼットがやるみたい。
他の嫁ズが随時、リゼットと掛け合いをするようだ。
カン! カン! カ~ン!
今度はリゼットが拍子木を鋭く打ち鳴らす。
「さあ、始まりますよ~。みなさ~ん、はい、注目~。タイトルは、ふるさと勇者様の魔王退治でぇ~っす」
な!? 何ぃ!?
ふるさと勇者様ぁ!?
ま、魔王退治って、何ぃ!?
想定外のタイトルを聞き、俺はびっくりしてしまう。
嫁ズったら、一体どういうつもりなんだろう?
しかし、リゼットの口上は止まらない。
ますます滑らかになって来る。
「むかし、むか~し、地上から、とお~く離れた天界にぃ、少年の勇者様とぉ、若い女神様がぁ、住んでいましたぁ」
おいおいおいおい!
やっぱり、まずくないかぁ、これ?
俺の冒険譚は、天界の秘密が相当絡んでいる。
むやみに言いふらして、良いわけがない。
下手をすれば天罰が下ってしまう。
と危惧したら、俺の心配を察して、クッカが念話で呼び掛けて来る。
『大丈夫ですよ、旦那様。管理神様には内容をお伝えして、許可を頂きました。ある程度、脚色するなら村民に教えても問題無いよ~んって』
『ある程度の脚色? ああ……そう……なの?』
『ええ、これからやるお話を、村民が聞いても絶対に大丈夫。だからとりあえず、私達が演ずる、ふるさと勇者を見て聞いて下さいっ』
『う、うん、了解!』
というわけで、何と次の紙芝居のモデルは俺。
少なくとも、クッカとクーガーくらいは出演するのだろう。
何せ『ふるさと勇者の魔王退治』というタイトルなのだから。
俺とクッカが会話をしている間も、リゼットによる、
『ふるさと勇者』の口上は続いて行く。
「勇者様と女神様が住むぅ、天界は平和でしたぁ。しか~しっ!」
どんどんどん!
おお、リゼット。
太鼓を叩くのも、凄く様になっている。
俺以上……かもしれない。
「何とぉ! 地上は平和ではありませんでしたぁ! たくさんの魔物を率いる、怖ろし~い顔をした魔王が出現していたので~っす」
ここでクッカが、ボケをかました。
「怖ろしい顔? リゼット、それってクーガーくらい?」
リゼットも「しれっ」と、お澄まし顔で肯定。
「は~い、クッカ姉、そうでっす」
こうなるとお約束で、クーガー激怒。
「このぉ、クッカぁ! リゼットぉ! 誰が魔王じゃあ!」
「あはははははっ」
「わぁ、ドラゴンママって、まおうだぁ」
「うん! なっとく~」
「おこったかお、そっくりぃ」
お澄まし笑顔のクッカ&リゼットと、
青筋立てて怒ったクーガーの掛け合いを見たお子様軍団が、お腹を抱えて大笑い。
「くうううう」
クーガーは、悔しがって犬のように唸っている。
さすがに、クーガーの息子レオだけはしかめっ面であったが。
でもクーガーは俺に顔を向けると、ぺろりと舌を出す。
何だ、良かった、お約束通りって奴か。
「天界の神様はぁ、人々が幸せに暮らせる~、地上の平和を願いました~っ。そこでぇ、勇者様と女神様に命じま~すっ。よいか~、勇者と女神よぉ、怖い魔王を倒し、地上を平和にしなさい~」
どんどんどん!
「目立たないよう、普通の人間にぃ、へんし~んした勇者様と女神様はぁ、地上に降り立ちましたぁ! やったねぇ~」
どんどんどん!
「きゃあああっ!」
いきなり悲鳴をあげるリゼット。
おいおい、どうしたの?って思ったら。
これ、演技……だった。
「病気のおばあちゃんの為にぃ、森へ薬草を取りに行った心優し~い村の少女! ああ、突如ぉ、ゴブリンが現れたぁ。このままじゃあ食べられちゃう~よぉ。ああっ! ちょうどぉ、その時ぃ!」
どんどんどん!
「人間になったぁ勇者様と女神様が現れてぇ、こらぁ、その子に何をするぅ!と言い放ちぃ! ばったばた、ばったばたぁとゴブリンを倒しま~っす! 少女は危ないところで助かったぁ!!!」
どんどんどん! どんどんど~ん!
むむ、これって俺とクッカがリゼットを助けた時の再現シーンだ。
脚色はしてあるけど、さすがに実体験だけあって、真に迫っている。
当然、ジョエルさん達に対しては、真相は永遠の秘密なんだけど……
「次にぃ、ピンチに陥ったのはぁ、村の美少女狩人! 森で狩りをしていたらぁ、何と! 目の前にオーガが現れたのだぁ~っ」
どんどんど~ん!
「きゃあああっ! た、助けてぇ!」
ああ、太鼓が打ち鳴らされる中、悲鳴をあげたのはレベッカだ。
一生懸命練習したのだろう。
セリフはちょっち棒読みだけど、怖がる様はこれまた真に迫っている。
まあ、こちらも実体験だからなぁ。
「しか~しっ! 美少女狩人のピンチに駆け付けた勇者様と女神様は強いっ! オーガなんか、ちょいちょいのちょ~いっと倒してしまったぁ! 美人薄命には、なら~ず! 狩人も無事、助かったのだぁ」
どんどんどん! どんどんど~ん!
「だ~がぁ! これで魔王は怒ったぁ、どこかのドラゴンママみたいに、すっごく怒ったぁ!」
どんどんどん! どんどんど~ん!
「こらぁ、どこの誰が何だってぇ!」
怒鳴るクーガーに、今度は即座に反応して、大爆笑する村民。
「「「「「あははははっ!!!」」」」」
そんな嫁ズの熱演もあって……
『ふるさと勇者様』の演目はとても盛り上がって行ったのである。
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