第212話「ジュリエットが聞きたい事」
質問がある。
そう、念話で問い掛けて来たジュリエットの表情は、ひどく真剣だ。
こんな時は、真面目にちゃんと話を聞いてやらなきゃ。
絶対に、茶化すなど、してはいけない。
俺は、柔らかく微笑んで、返事を戻す。
『ああ、何だい?』
『うむ、まずは確認だ。ヴァルヴァラ様にお聞きしたのだが……現時点で、ケン、お前の実力は、今の私よりも遥かに上だな?』
ふうん……この子は、自分の今のレベルを分かっているんだろうか?
俺はレベル99、そして、この子ジュリエットは50を少し超えたくらいか。
ヴァルヴァラ様の事だから……
神託を伝えた際、この子が素直に、俺の指示を聞く為に教えたのだろう。
でも、これって、切り返しが難しい。
俺の力を自慢し過ぎてもまずいし、かと言って、謙遜し過ぎてもNG。
相手がジュリエットのような『俺様タイプ』なら尚更だ。
なので、考えてこう返す。
『ああ、そうかもな、しかしジュリエット。お前は、これからもっと、力を付けるだろう? 俺なんか、すぐに超えるさ』
『うむ、確かにそうだ。もう少し経験を積めば、すぐに追いつき追い越す。それに、これくらいのレベル差が無ければ、お前など、手助けをして貰う価値は無い』
おお、言い切ったか。
ははは、やっぱりね。
この子の、負けん気の強さは相当。
そして、超が付く自信家でもある。
ああ、そういえば質問の途中だったっけ。
でも、まあ良いや、気軽に何でも聞いてくれ。
但し……
ウチの嫁ズとは、どのようにエッチするの? とかは絶対に無理っ!
『そうか、まあ頑張れ……それより、質問って何だ?』
『うむ、そうだった。質問とはな、ケン、お前の、今の生き方についてだ』
『俺の生き方?』
む? 俺の生き方に関して質問?
おいおい、良く考えれば変じゃね。
だって……他人の事なんか、ほぼ興味ナッシングっていう、
このジュリエットがだよ。
と、考えていたら、ジュリエットは真面目な顔で、質問をして来る。
『そうだ、お前の無駄な生き方だ。何故、それほどの力を持ちながら、あのような辺鄙な田舎村で埋もれている? 何故、刺激の無い世界で安住してしまっている?』
え? 無駄な生き方?
って……おいおいおい。
この子は、俺の事情も知らず、いきなりストレートに凄い事を言う。
だけど、ここで怒っても大人げないし、
この子とは、一生ず~っと付き合うわけでもないし。
『辺鄙な田舎村で安住ねぇ……俺は、そういう生き方が好きだから、としか言えない。それに、決して埋もれているとは思わないけど……』
『いいや、違う! 絶対に埋もれてしまっている。何故ならば、才能を持つ人間、まあ、お前の場合は、管理神様から授けられたものかもしれないが……それを有効に使わないのは、とんでもない罪悪だからだ』
『おいおい、とんでもない罪悪って何だ? う~ん、ちゃんと有効に使っているけど?』
『違う! 私の言っているのは、お前の能力をもっと広く世の為、人の為に使え! と言う事だ』
『は? 広く世の為、人の為?』
『むう! まだ分からないのか? 例えばだな、お前が居るボヌール村、そして、この王都を比べてみよ。住まう人間の数だけで、えらい違いじゃないか?』
住人の数?
ああ、そういう事か。
ようやく、ジュリエットの言う意味が分かって来た。
彼女の言いたい話が見えて来た。
俺が、そんな事を考えている間も、ジュリエットの話は続く。
『仮に、怖ろしい災厄が起こったとする。勇者のお前が、王都で完璧に活躍すれば、最大5万人もの人間が救われるだろう。しかし、お前が現在住む村では、せいぜい100人が精一杯……この違いは大きいぞ、大き過ぎる』
まあ5万人の命と、100人の命……
確かに数は違う、違い過ぎる。
まあ、ジュリエットの言っている事は理解出来る。
俺のレベル99の力を、もっと多くの人々の為に役立てろって事だ。
確かに、それは正論だ。
だけど……
『そうか、ジュリエット、お前の言う事は分かる。だけど、何度も言うようだが、俺の力は、先天的ではなく、後から付いて来たモノだ。ボヌール村に住むことを選んだから、管理神様より授けられたんだぞ』
『そんな事は関係無い! 先天的だろうと、後からだろうと、……強大な力を持つ者には、それなりの責任と義務が生じるのだ』
それなりの、責任と義務?
むう、確かにそうかもしれないけれど……
だったら……
『ならば俺は、レベル99の力なんか要らない』
『何!? 要らぬだと、何故、そう極端な話になる!』
『いや、レベル99の力を持つ為に、広き世界で、それを使わなければならないのなら、話が逆であり、要らないと言ったまでだ』
『ふうむ……』
『俺にとっては、第二の故郷と決めたボヌール村の家族、そして家族同様な、村民100人の方がずっと大事だ。王都の、見ず知らずな5万人よりもな』
『むう……』
『100人よりも5万人を選べ……多分、それって……神様か、立場ある王様の論理だろう』
『神か、王だと?』
『ああ、そうだ。例えば、管理神様なんかはそうだろうけど、この世界に生きる人間全てを、見ていかなければならないだろうし、ドライに、きっぱり割り切る場合もあるだろうさ』
『…………』
『だけど俺は、レベル99とはいえ、気持ちは至極平凡な人間だもの。まずは自分の家族と仲間を優先して守りたいし、その為に必要ならば戦う。だから、後付けされたレベル99の能力ありきで、ボヌール村を差し置き、大義の為に戦うなんて生き方は出来ない』
『…………』
『でも、いろいろな考え方があるし、頭から否定はしない。ジュリエットが大義の為に生きたいのなら、勇者になって、己の生き方を貫けば良い』
『…………』
『単に俺が、そう生きたいと思っているだけだから、ジュリエットは違う生き方をすれば良いのさ』
『…………』
『5万人が助かる為に、たった100人なんかは切り捨てろ、という考え方も、ある事は否めない』
『…………』
『だけど俺は、基本的にはボヌール村の守護者さ。つまり、ふるさと勇者だから、村民ひとりの為にだって戦うよ』
『む! 村民ひとりの為に……戦うだと?』
『ああ、今日、お前はオークどもから、リベルテ商会のアルバンさんを助け、奥様とブランカちゃんにお礼を言われただろう?』
『ああ、言われたな……夫が、そして父親が無事に帰って来て、とても喜んでいた……そして、ブランカちゃんは、可愛い子だった……』
『ああ、確かに可愛かったな。俺、今でも、あの子の嬉しそうな顔が目に浮かぶよ』
『…………』
『今日、俺とお前は、間違いなく奥様とあの子の為に戦った。5万人を救いたいお前には、全然物足りないかもしれない。だが、俺にはアルバンさんご一家、3人の笑顔だけでも、充分満足なのさ』
『…………』
『多分それと……一緒なんだ、俺がボヌール村を守るって』
『ふうむ……お前の考えは良~く分かった。賛同しようとは思わないが……』
『だ・か・ら! 俺を巻き込まず、ジュリエットは自分の生きたいように生きろって』
俺がそう言っても、渋面のジュリエット。
『む、むむむ……だが』
『だがも何も無い! そもそも、この世界における俺の役目は、勇者を目指す、お前を助ける事だ。限られた時間の中でさ』
俺がきっぱり言えば、不承不承という感じで、
ようやくジュリエットは同意してくれた。
『……う、うむ! 確かにそうだな! 了解だ!』
やっと、納得してくれたか……
俺が安堵していたら、ジュリエットは表情が一変、にっこり笑い、
『よし! 明日も頼むぞ、戦友!』
とか、のたまった。
おお、戦友か。
上手い事を言う、ジュリエットの奴。
何か、ぴったり来る。
戦友って、今の俺とジュリエットの関係を、的確に表している言葉だ。
なので、とっても気分が良い。
『さあ! 明日の成功を祈願し、戦友よ、改めて乾杯だ!』
『OK! 戦友よ、乾杯!』
改めて乾杯を要求する、ジュリエットのジョッキへ、
俺は、自分のジョッキを「カチン!」と心地良く合わせていたのである。
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