第211話「憧れの冒険者生活」
冒険者ギルドを飛び出した俺は、ジュリエットの手をしっかり握って歩いて行く。
チラ見すると、彼女はいまだに不機嫌で、怒りが収まっていない。
「ぷんぷん!」という文字が、頭から湯気と共に、どんどん飛び出して来る。
「ケン! あのギルド職員は、一体何だ! 本当に融通がきかない! 常識知らずな愚か者だ!」
む、融通がきかない愚か者?
……う~ん、融通がきかない常識知らずなのは、どっちなんだか。
そう思ったら、ジュリエットが俺を睨んでいる。
「おい、ケン、お前……今、何か変な事を考えていないか?」
「い、いや、何も考えてない」
「本当か?」
綺麗なダークブルーの瞳が「じいっ」と俺を見る。
訝し気に俺を見る。
ああ、ジュリエットに疑われている……
超美少女の、ジト目はとっても魅力的だが、
ここは何とか、ジュリエットを、クールダウンさせなければ。
なので、俺は言う。
「なあ、そんな事より、落ち着けよ。どうせ、今日は、ギルドにあのまま居ても、規定も変わらず、状況も変わらない。イライラするだけ損だぞ」
「むう……まあ、そうだが……」
「だったら、明日ギルドで、改めて認定試験を受け、しっかりと、お前の実力を見て貰った方が全然良い」
「むむむ、そうか! 確かにお前の言う事には、一理ある、分かった!」
おお、説得に応じてくれたか。
「だが! あいつは本当に失礼だ!」
あらら、まだ怒ってる? へそを曲げてる?
俺の説得だけじゃあ、駄目なのかなあ……
何か良い、クールダウンの方法はあるだろうか……
俺は、しばし考えて……ピンと来た。
そうだ、あそこへ行こう。
俺は、ジュリエットとつないでいた手を、
また「ぐいっ」と引っ張った。
「おいおい、ケン! どこへ行く?」
「良いから!」
戸惑うジュリエットを引っ張り、俺は商業街区へ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約1時間後……
「おねぇちゃん、ありがとお! パパをたすけてくれたんだぁ! すっご~い! つよいんだぁ!」
「お、おう! ま、ま~な」
「おねぇちゃんって、すっごくきれい~! びじんさんだよねえ!」
「い、いや! 私など、大した事はないぞ、お前のママほど美人じゃない」
栗毛の可愛い幼女に懐かれ、凄く照れる金髪美少女。
うん、良い絵だ。
その上、アルバンさんの奥さんに気まで使ってる。
あの、常時、上から目線のジュリエットがだ。
今、俺とジュリエットが居るのはリベルテ商会の応接室。
俺達が助けたアルバンさんは、この商会の幹部社員だと。
先ほどの話通り、奥様とお子さんが一緒に待っていたのである。
まずは、奥様キャサリンさんがご挨拶。
「ジュリエット様、ケン様、夫を救って頂きありがとうございます。本当に感謝しております」
にっこり笑う栗毛の美人奥様。
そして、奥様似の可愛いお子さんが5歳のビアンカちゃんだ。
何故か、このビアンカちゃん、ジュリエットをすっかり気に入ってしまったのだ。
実は、それこそが俺の期待した展開だった。
大好きなパパを助けてくれた、超カッコいい超美人のお姉さん。
幼いビアンカちゃんには、ジュリエットがそう見えているに違いない。
そのジュリエット。
興味津々のビアンカちゃんから、いろいろ根掘り葉掘り聞かれてる。
答えられない内緒の事も多々あるらしく、しどろもどろで油汗まで流してる。
それでもジュリエットは……とっても嬉しそうだ。
こうして……
ビアンカちゃんの『癒し』により、
ジュリエットの機嫌はすっかり直ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さらに1時間後……
リベルテ商会を出た俺とジュリエットは、
文字通り『勇者亭』という居酒屋で祝杯をあげていた。
アルバンさんは義理堅かった。
びっくりするくらい。
まあ、俺達に命を救われたから当然かもしれないが。
もうひとりの商人と、連名で多額の礼金をくれ、
そして、宿泊する高級ホテルの代金を全額負担。
更には、この勇者亭で食べ放題&飲み放題も加え、
全額負担という恩返しをしてくれたのだ。
ご覧の通り、俺とジュリエットはまだ、ギルド登録をしていない。
正確に言えば、冒険者ではない。
だが、『依頼』を完遂し、報酬を受け取り、仲間と慰労し合う。
これって、俺が夢見ていた、冒険者生活そのものだ。
気分が良くなった俺は、大ジョッキを掲げる。
「カンパーイ!」
「…………」
俺の仕草を、不思議そうに見るジュリエット。
どうやら、ジュリエットは『乾杯』を知らないらしい。
中二病知識によれば、乾杯って古代からあった筈なのに……知らないのかなぁ?
「ん? 何だ、それは? 杯を干す前に、掲げてそう言うのか?」
ここで、「何故知らないの?」とか聞くと、
多分だが、ジュリエットの機嫌が、すっごく悪くなる。
だから、嫌味にならない教え方で伝えてやる。
「ああ、そうだよ、楽しいぜ。やろうよ、カンパイ!」
「よ、よし、良いぞ、カ、カンパーイ!」
俺とジュリエットはそれぞれ「ぐいっ」とエールを飲む。
この勇者亭のエールは、特大ジョッキの上に、
水属性魔法で、キンキンに冷えている。
ああ、美味い!
冒険者として依頼を完遂し、飲むエールってこんなに美味しいんだ。
今、体験しているのが夢にまで見た冒険者生活って、
でもさ、これって夢の中なんだよなぁ、あはは。
まあ、良いや、細かい事は……
しかし不思議だ。
誰もが羨む超美少女と、酒を飲んでいるのに、口説こうとか、エッチしたいとか、
邪な気持ちが、全くといって良いほど芽生えない。
そりゃ、ジュリエットの、突き出た大きな『おっぱい』へは、
つい視線が行ってしまうけど。
でも、何故か、エッチまではしたいと思わないのだ。
最初に感じたが……
ジュリエットって、やっぱり、気が置けない『同性の親友』と言う感じだから。
いや、いかん!
そんな事を考えるなんて、
俺、さっき飲んだエールがもう回ってる?
何か、酔っぱらって余計な事を喋りそう。
声も大きくなりそう。
ここには、他にも大勢の客が居る。
ざっくばらんに話すと、内緒話もありそうだから、
交わす会話は念話が良いだろう。
果たして、ジュリエットは念話が使えるかな?
「ジュリエット、お前、念話は使えるのか?」
「ああ、使えるぞ」
おお、成る程! さすがだ!
では、話が早い。
この後の会話は、全て念話にしよう。
心と心の会話なら他人には聞かれない。
と考えていたら……先手を打たれた。
ジュリエットが先に質問をして来たのだ。
『ケン、お前に聞きたい事がある』
『俺に? 聞きたい事?』
『ああ、そうだ』
何だろう?
ジュリエットが、俺に対して聞きたい事って?
男装の麗人?は、ひどく真面目な表情で、俺を「じっ」と見つめていたのである。
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