第210話「ふざけるな!」
旅の途中で、オークに襲われた商隊&冒険者を救った俺とジュリエット。
そのままリベルテ商会の商隊一行と、
王都メディウムまで行き、無事に到着した。
危機を救った商人達の口添えもあり、
俺とジュリエットは、王都への入場手続きも無事終了。
王都正門を抜けた、こじんまりした広場で、ひと息付く。
善は急げ! という事で、早速、冒険者ギルドへ向かおうとふたりで話し合う。
案内はといえば、助けてあげた冒険者に頼めば早い。
意見は一致し、話はまとまった。
聞けば、冒険者達も喜んで案内してくれるという。
じゃあ出発と、思ったら……
助けたリベルテ商会の人達が、慌てて駆け寄って来た。
む、何だろう。
さっき散々お礼は言われたから。
他に用事でもあるのだろうか?
リーダー格の人が代表して話すみたい。
確か、幹部社員のアルバンさんとか、言ったっけ。
「ジュリエット様、ちょっと、宜しいですか?」
「うむ、構わんが、話があるのなら、さっさとしてくれ」
おいおい、そういう言い方は駄目だって。
俺は、ジュリエットの手を少しつねった。
「いた!」
悲鳴をあげたジュリエット。
この子は、もう少し、気配りの会話力をスキルアップしないと……
「勇者は黙って戦うだけ」なんて……今時は無い。
王様とのやりとりの時だって、コミュニケーション能力は必須だと思う。
だからサポート役として、軽く教育的指導をしてあげたのだ。
ジュリエットが小さな悲鳴をあげたので、アルバンさん驚いている。
「え!?」
顔をしかめるジュリエットに代わり、俺が対応。
「いえ、何でもありません。それより、どういった御用でしょうか?」
「す、済みません。ジュリエット様、ケン様。冒険者ギルドの後で構いませんから、リベルテ商会へいらっしゃって下さい。ぜひともお礼をしたいので」
アルバンさんの話の、趣旨を聞いたジュリエット。
無言で頷くと、俺を「ぐいっ」と前へ押し出した。
「私の代わりに話せ!」という事だろう。
ならばと、俺は手を横に振った。
「い、いや、アルバンさん。わざわざお礼なんか良いんですよ。あなた方を助けたのも全てが、女神ヴァルヴァラ様の思し召しですから」
ああ、こんな事を言うなんて……俺って凄く小賢しい。
表向きは、お礼をきっぱり断っているのに、
さりげなく、女神様の信仰心を上げようとするなんて。
でも今回、この世界へ来た俺の役目のひとつでもあるから、仕方が無い。
「ええ! 仰る通りですね! 全てヴァルヴァラ様のお陰です」
おお、成功!
この人の、ヴァルヴァラ様への信仰心が上がったみたい。
やったぁ!
って、地道な事をしてるなあとも思ってしまう。
まあ、良いか……
「なので、アルバンさん、お礼は不要です」
「いや、それはそれ! ウチの嫁と娘に、ぜひ会って頂きたい」
「え? アルバンさんの奥様とお子様に?」
「ええ、私はずっと、長期間出張をしていまして、しばらく家族には会っていなかったのです。それが、一歩間違えばオークどもに殺され、永遠に会えなくなっていましたから」
「そうなんですか」
「はいっ、私が無事に戻って、どんなに嫁と娘が喜ぶことか」
ああ、それは凄く良い話だ。
嫁と子供が居る俺には、
ご主人の帰りをひたすら待つ、奥さんとお子さんの気持ちが良~く分かる。
ぜひ後で、リベルテ商会へ寄ろう。
家族再会の喜びを、分かち合うのだ。
「おい、ジュリエット、構わないよな」
「うむ、特に問題は無い」
ジュリエットも、満面の笑みで頷いている。
商人さん達を助けて良かったと、心の底から実感しているに違いない。
こうして……冒険者ギルドの手続きを終えた後、
リベルテ商会へ、アルバンさん達を訪ねる事になった。
そして……
「そろそろ行こうか、ジュリエット、ケン」
片や、助けた冒険者達もニコニコしている。
こちらにも、家族か恋人が居るのだろう。
命が助かって万々歳!という感じ。
待っているのが誰なのか、敢えて聞くほど、俺は野暮じゃないけれどね。
「では、のちほど……」
「はいっ、お待ちしていますよっ」
俺とジュリエットは、一旦、アルバンさん達に別れを告げ、
冒険者ギルドへと向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
という事で、冒険者ギルドへ案内された俺とジュリエット、
ふたりの前に現れたのは……
高い塀に囲まれ、広大な敷地の中に建つ、5階建ての大きな建物だった。
敷地内には、他の建物、倉庫などもあった。
しかし、これが冒険者ギルドの本館らしい。
俺達一行は、本館正面の、開け放たれた両開きの巨大な扉から中へ入る。
入った建物の1階は広大なフロアとなっていた。
混雑する時間ではないらしく、人はまばら、閑散としていた。
俺とジュリエットの正面に、長大で重厚な木製カウンターがある。
カウンターにはたくさんの窓口が設置されており、殆どは閉鎖されていた。
だが、開いているいくつかの窓口では、
数人の冒険者がギルドの職員と一対一でやりとりをしている。
勝手の分からない俺が少しきょろきょろしていたら、
助けた冒険者がアドバイスしてくれる。
「ケンさん、冒険者登録もあのカウンターですよ」
「成る程。いろいろありがとうございます」
という事で、俺とジュリエットは、空いている窓口の席に座った。
座っている職員は、30歳くらいの人間族男性。
とりあえず趣旨を話し、職員と相談。
しかし、俺達の話はすぐ暗礁に乗り上げてしまう。
「ギルドの職員よ、何故だ?」
と、ジュリエットが聞くと職員は、
「何故だ? と言われましても、本日の『講座付きランク判定試験』の受付は、規定の時間を過ぎたので締め切りました」
職員の返事通り、試験を受けて実力を評価して貰い、
実力に見合ったランクに認定して貰えるのが『講座付きランク判定試験』
なのだが……今は午後2時。
本日はもう時間的に、申し込みが出来ないらしかった。
ジュリエットにとっては青天の霹靂。
予想外の出来事に唸るしかない。
「むむむ……締め切りだと?」
「はい、本日は申し込み出来ません。もし登録だけ、ご希望ということでしたら、午後5時までは、受け付けております」
「と、登録だけ? 出来るのか?」
「はい、規定の手続きを経て、登録手数料をお支払い頂ければ、登録希望者は、洩れなく登録出来ます」
光明がさした、と思った瞬間。
またも非情な職員の声。
「但し、判定試験無しだと、最下級のランクFになりますけど」
「はぁ? 最下級? ラララ、ランクF?」
唖然とするジュリエットに、職員は言う。
「そうです、皆さん、こつこつ依頼を受け、地道にランクアップ致しますよ」
Fから地道にランクアップ。
無敵に近い実力を自負する(推定だけど)、
ジュリエットにとっては、大変な屈辱。
「これ以上、もう我慢出来ない!」という感じで、
ジュリエットの怒声が炸裂する。
「ふ、ふ、ふざけるな~っ!!!」
部屋中に響く怒鳴り声。
1階フロアに居た、何人もの冒険者と職員が、一斉にこちらを振り返った。
しかし、俺達に応対する、このギルド職員、
見た目は大人しそうなのに、結構、肝が据わっている。
「お客様、大きな声を出して頂いては困ります。それに私はふざけてなどいません。冒険者ギルドの規約に基づき、お話をさせて頂いておりますから」
「規約だとぉ? ならば私が命じる! 今すぐに規約を変えよ!」
「いやいや、そんなのは無理に決まっています。さあ……そろそろ宜しいですか、他の方が待っておられますので」
「何を~、たかが人間のぉ……ぬぬぬう」
ああ、不毛な会話から始まって、不穏な空気まで流れ始めた。
俺が見るにあたって、ジュリエットは少し常識に疎いようだ。
出自を言わないので、良く分からないが、箱入りのお嬢様育ちって事?
まあ常識って奴も、誰が決めたかで、全く変わってくるものだけど。
でも、とりあえずここは、ギルドの常識って奴に、従った方が良い。
俺はまず、対応してくれた職員に謝り、連れて来て貰った冒険者にも謝ると……
ジュリエットの手を引っ張り、急いで冒険者ギルドを出たのである。
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