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第209話「勇者伝説の始まり?」

俺の索敵がキャッチした、オークの襲撃現場は遠くない。

今、居る場所から王都方面へ、街道を約1㎞向かった場所だ。


普通に、ゆ~っくり歩けば約10分かかる。


でもそんな悠長な事をしてはいられない。

何せ、人命がかかっているのだ。


だから俺とジュリエットは、身体強化の魔法を使い、

現場まで約1分で駆け抜けた。

 

でも……

俺って、本当はもっともっと早く走れる。

さくっと、転移魔法だって使えるし。

 

実は……ペースを合わせてあげている。

「さあ、私に続け! 続くんだ!」とばかりに先頭を走るジュリエットに。

彼女には、誉れ高き勇者を目指し、気持ち良く頑張って欲しいから。


サポート役たる裏方には、こういう内緒の気配りも大事なのだ。


まあ、1分なんてあっという間。

すぐに『襲撃現場』が見えて来た。


ああ、オークどもが、3台の馬車を取り囲んで襲っている。

やっぱり奴らの数は、軽く50体以上は居るようだ。


襲われているのは、どうやら旅の商人プラス護衛らしい。


冒険者風たる騎馬の護衛5名が、必死に戦ってはいるが、

あまりの数のオークに、馬の方が恐れをなし、必死に逃げようとしていた。


「うむ! ケン! 急いで彼等を助けるぞ!」


おお、声を張り上げるジュリエットはやる気満々。


そうか! 『初仕事』って、言っていたっけ。


ちなみに俺、このパターンはこの前クリアした。


そう、先日、従士達と男同士で旅に出た際、

ボヌール村近辺で、南国アーロンビアの商隊を助けたのだ。


……確か、あの時はゴブの群れだったが、今回はオーク。

相手が若干強いが、やる事は変わらない。


ジュリエットのフォローを、間違いなく、バッチリしてやれるだろう。


とりあえず『天界拳』だけで充分行けそうだ。


俺が、拳と蹴りでオークと戦おうとした、その時。


『待て! ケン! 私の授けた銀製の神剣を使うのを忘れるな。それと絶対に攻撃魔法は使うなよ』


え!? ああ、念話!?

おお、これは、ヴァルヴァラ様の声だ。


私の授けた、銀製の神剣を使え?

攻撃魔法を使うな?


ああ、そうか!

ピン!と来たぞ。


味方への誤爆防止と、ヴァルヴァラ様の『好みのスタイル』で戦えって事だ。


神剣を使う理由は、一目瞭然。


ジュリエットや助けられた人から、銀の剣をチェックされた時、

「これは女神ヴァルヴァラ様から授かったありがた~い神剣です」と言う為。


そうすれば、神剣の威力に感心した人々が、

ヴァルヴァラ様へ「はは~っ」と畏れ奉って、

彼女への『信仰心』を上げるって仕組み。


成る程、分かり易い。


ならば、了解っす!


「おらおらおら~っ!!!」


片や、ジュリエットは、美しい顔に似合わない、

凄まじい雄叫びをあげながら、戦い始めていた。


俺も、おもむろに神剣を「しゅらっ」と抜き、オークの群れに突っ込んで行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


たかが50体くらいのオーク如き、

レベル99の俺とレベル50オーバーのジュリエットコンビの敵ではない。


更に、ヴァルヴァラ様の意図通り、俺達は攻撃魔法を使わず、

剣と格闘技で圧倒したのである。


回収し、売ろうか、どうしようか迷ったが、ジュリエットへ断ってから、

とりあえずオークどもの死骸は、俺の葬送魔法で綺麗に塵とした。


うん、とりあえずは、ファーストミッション無事完了。


一方、助けられた商人と冒険者は呆然としていた。


何せ、たったふたりの若者が、

オークの群れを、瞬殺に近い形でやっつけたのだから。


しかし、よくよく考えてみれば……


素顔の俺が一般人の前で、このような戦い方をしたのは初めて……


今までは勇者認定されないよう、

「絶対に目立たず」が俺のモットーであったから。


でも、今回は趣旨が逆。


俺本人ではないが、行動を共にするジュリエットの名声を一気に上げるのが目的。


となれば、思い切り派手に活躍して、なる早で国王に呼ばれるのが一番の早道。


どうせ俺は、もう少ししたら、この世界からは居なくなるし。


アールヴの国同様、名前だけしか残らないって寸法だ。


オークどもを、綺麗にお掃除した俺とジュリエットが立っていると、

商人達が、安堵の表情をして頭を下げる。


「おお、凄いですねぇ、あなた方は! 私、リベルテ商会のアルバンと申します。本当にありがとうございました。もう少しでオークどもに喰われるところでした。心より感謝致します」


「おお、素晴らしいっ! 幸い、人も積み荷も無事です、本当にありがとうございます」


俺達を、絶賛する商人達の後で、

護衛をしていた冒険者達も、嬉しそうな笑顔を見せる。


「おい、あんたら、ありがとうな。本当に助かった、まさに九死に一生を得るだ、もう駄目かと思ったよ」

「そうそう、でもお前達は凄いな、女の子は超美人だし」


しかしジュリエットは、さも当然とばかりにジト目になる。


「ふん! 私が超美人なのは当たってはいるが……こんなオークなど雑魚! 全然大した事はない。ほんの小手調べのレベルだ」


「ほ、ほんの小手調べ?」

「はぁ?」


目を丸くして呆気に取られる冒険者達へ、ジュリエットは胸を張る。


「何だ? 分からないのか? お前達は、私達の戦いを見ていただろう?」


「ま、まあ……」

「み、見ていたよ」


「ならば……ある程度の冒険者なら、見極められる筈だ。……私達は、全く本気を出しておらん」


「へ?」

「う?」


護衛の冒険者達は、顔を見合わせた。


確かに、俺とジュリエットは楽々戦っていた。

息さえも、切らしていなかったから。


ジュリエットは更に言う。


「まあ、良い。そんな事よりも、お前達に頼みがある」


「た、頼み?」

「ななな、何だい?」


良い年をした大人達が圧倒されている。

凛とした、男勝りな美少女に。


「うむ、お前達は、王都の冒険者ギルドを知っているだろう?」


「そりゃ、当たり前だ」

「うん、当然。俺達、全員が所属しているしな」


やっぱり、この護衛ふたりは冒険者。

それも、王都のギルド所属なら話が早い。


俺と同じ事を感じたのだろう、ラッキーだと。


ジュリエットがニヤリと笑う。


「ならば、丁度良い、案内してくれ。私はな、幼馴染みのケンと共に、ギルドのランク認定試験を受ける」


「え? あんた達、無所属で、ノーランカーだったの?」

「い、意外だ……」


「そう、故郷の村を、こいつと一緒に出て来たばかりだからな、そして、これから始まるのだ」


「これから始まる?」

「と、言うと?」


「うむ! お前達は、本当に幸運なのだぞ」


「え?」

「幸運?」


「たまたま、私達のデビュー戦、つまり『初陣』に居合わせたからだ。とてつもない名誉だぞ」


「…………」

「…………」


「あ~ははははっ! 誉れ高きジュリエットの名が、この初陣から、世界中へ響き渡る。最強勇者の伝説が今ここに始まったのだ」


高笑いするジュリエット。


むむ、この子……可愛くて強いけど……性格が少し痛い。

いや、とんでもなく痛い。


だが……俺は、この『痛い子』をフォローするしかない。


商人も冒険者も、固まっている中で……

楽し気な、ジュリエットの笑い声だけが、大きく響いていたのである。

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