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第206話「夢の結末」

「お兄ちゃわ~ん!! 身体が光ってるぅ!? どうしたのぉ!? お兄ちゃわ~ん!!!」


悲しそうに、絶叫するフレデリカ。

ああ、俺の身を案じて、あんなに取り乱している!


……なので俺は、決心した。

可愛いフレデリカへ、しっかり別れを告げると同時に……

彼女に、心残りがないように……カミングアウトするのだ。


この前の会話で、エルネスティも、俺の正体に薄々感づいているようだし、

言っても構わないだろう。


まあ、声を大にして言うつもりはない。

だから、当然ながら念話である。


『落ち着くんだ、念話で話すぞ、フレッカ。急で本当に悪いが……ここでお別れだ』


「え!? ええええっ!? お、お別れって!?」


『ああ、これから話す事を良く聞いてくれ。俺は、この世界での役目を果たした。時間が無い中、お前にいろいろ教える事が出来て、マトレーナ様の神剣も渡せた。俺が教えた事が、お前の役に立つように願っているよ』


『ど、どうしてぇ!? だ、だったら!! フレッカはこんな剣、要らないっ!! 大好きなお兄ちゃわんに、居て貰った方が全然良いのぉ!!』


む、大好きなお兄ちゃわん、だって?

ああ、俺だってそうさ!


俺だって……お前の事が大好きだ。


出来ればボヌール村へ『嫁』として連れ帰りたい。


だが……そんな事は出来ない。


『前にも言っただろう? 俺には、残して来た家族が居る。元の世界で待っているんだ』


『うううう……』


フレデリカの、深い菫色の美しい瞳には、大粒の涙が光っていた。


ああ……

辛いが、真実を告げるしかない。

この子が俺の事を、すっぱり諦め、思い切れるように。


『それと……伝えておく事がある。今まで、隠していて悪かったが……実は俺、アールヴではなく、人間なんだ。変身の魔法で擬態しているんだよ』


『え!!?? に、に、人間んん!!?? お兄ちゃわんがあ!!?? えええええ!!?? う、嘘ぉ!!!』


大いに驚き、心の声で絶叫するフレデリカ。


涙で一杯の目が、真ん丸になっている。


まあ、当然だろう。


今の、俺の外見は、完全な『イケメンアールヴ』なのだから。


『本当に本当なんだ。だから俺の事は忘れてくれ……』


『そ、そんなあ!!』


『所詮、人間とアールヴは結ばれないだろう。しかし、お前は最高に可愛い子さ。すぐに、お前の事を真剣に優しく愛してくれる、同族のイケメンが現れるよ』


『嫌だ!! 嫌だああ!!』


大泣き顔のフレデリカ。


「そんな悲しい事を言わないで!!」と、一生懸命目で訴えている。

俺はとっても辛くて首を振った。


でも、最後に、これだけは言おう。


『フレッカ! 俺もお前が大好きだ! 絶対、幸せになるんだぞ!』


ああ、分かる。


もう俺は消える……この世界から居なくなる。

どんどん、どんどん、意識が遠くなって行く……


「いやぁあああ!!! お兄ちゃわ~ん!!!!!」


思わず! フレデリカが発したのは、念話ではなく肉声。


声が張り裂けんばかりの、フレデリカの絶叫を耳に残しながら、

俺は、意識を手放したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……手放した意識が戻って来る。


ここは……どこだろう?


見やれば、俺の身体はない。


意識のみ……

マトレーナ様が与えてくれた、

仮初(かりそめ)のアールヴの身体は、もう無いって事か……


そして、周りが真っ白という事は……ここは異界=亜空間?


と思ったら、俺の心へ声が聞こえて来た。


『そう、お前の思った通りだ、ケン。ここは、お前が、フレデリカに召喚される前に来た、あの異界さ』


『……マトレーナ様?』


『そう、私だ』


と、いう事は俺はここから現世へ帰る。


嫁クッカと、娘タバサが寝ている、ボヌール村自宅の寝室へ帰る。


だけど、俺には分かった。


その前にここへ来たのは……

マトレーナ様が、俺に『何か』を伝えたいのだと。


『ふむ、お前は、立派に私への借りを返してくれた。あの後、アールヴ達は、私への信仰心を大幅に上げたぞ。私は従来の「知恵と魔法」に加えて、「戦いと愛」の称号も得る事が出来たのだ』


『お~、凄いですね、それは良かったです。これで俺も、クッカ達の下へ帰る事が出来ます……でも少し寂しいな……』


『……だろうな。お前はあの子を、フレデリカを、心の底から愛していたのだから』


何となく、マトレーナ様の声も寂しげだ。


俺はふと、周囲を見渡した。

 

真っ白な地面の、どこにも魔法陣は無く、光っても、いない。


俺はもう二度と、あの世界へ召喚される事は無い……のだ。

すなわち、フレデリカとも、二度と会う事は無い……


感慨にふける俺へ、マトレーナ様が言う。


『ふむ……これから言う事は……どこかの女神の単なる独り言だ。忘れてくれても構わぬ』


『え? 独り言?』


『ケン……お前は、魔王クーガーの告白により真実を知った』


え? いきなり?


そんな事、言って良いのか?

天界の厳秘じゃないの?


あ、ああ……そうか……

今から言うのは、マトレーナ様の勝手な独り言=本音って事だ。


『あの時……最初から、お前の運命は決まっていた。宿命ともいえるくらいに……私達は、いわゆるクッカの「当て馬」であった。当時はヴァルヴァラと共に、とっても腹が立ったものだ』


『…………』


『その後、お前は、紆余曲折あったが……頑張って、クッカと共に幸せになった。管理神様の望んだ通りにな……それはそれで良い結末であった』


『…………』


『だが……私とヴァルヴァラは考えた。……あの時、もしもお前がクッカを選ばず、アールヴの魔法剣士、もしくは誉れ高き王都の勇者となる事を望んだら……転生後の、お前の人生は、どうなっていたのかと、な』


ああ、そうか!

それで……俺は借りを返すという形で……

IFの、アールヴの魔法剣士の体験をさせて貰った。


管理神様が「楽しめ」と言ったのは、この事だったんだ。


『ケン、今回は、お前の事を、少々いじったが……この際だ、はっきり言おう』


『…………』


『ヴァルヴァラは、どう思っているのか、知らぬが……私は、お前を結構、気に入っている。何故なら、お前は家族思いで、常に一生懸命生きているからだ。そして今回、私の気持ちに対して、素晴らしい結果で応えてくれた』


素晴らしい結果か……そう! マトレーナ様の言う通り、素晴らしい体験だった。


妹が居なかった、ひとりっ子の俺に……

あんなに可愛い、甘えん坊の『妹』を授けてくれたのだから。


『ケンよ、ありがとう……』


え? マトレーナ様が俺に礼を?


思わず、声が出る。


『そんな! 俺の方こそ、ありがとうですよっ!』


『馬鹿! 単なる独り言だと言っただろう? そのまま言葉を返さず、聞き流せ!』


『は、はいっ』


『ふふふ、仕方が無い奴だ……』


苦笑するマトレーナ様。


そして、衝撃の事実を明かしてくれた。


『……最後に伝言だ。あの子は……フレデリカは、ケン、お前を決して諦めないと言っていた』


『え!? 決して諦めない!?』


『ああ、ケンが、同族のアールヴではなくとも、人間でも愛している! 心の底から愛している! 決して諦めない! 必ずソウェルとなり、立派に務めを果たし終えたら……遥かなる、次元と時間の隔たりを超えても……絶対、お前に会いに行く! ……とな』


『…………』 


『ケン、もしも運命が、お前とフレデリカを、再び引き合わせたら……その時は……しっかりと、あの子を受け止めてやれ……』


ああ、フレデリカ……あいつ!

そんなに……俺の事を!


分かりました。

あの子と巡り合えたら……絶対、嫁にします!


そう、約束します!


種族なんか、関係無しに結婚するって!


俺が返事をせず、そう考えたら、マトレーナ様の満足そうな波動が伝わって来た。


『うむ! 次は……ヴァルヴァラへの借りを返済だな。ふふふ、しっかり働いて返すのだぞ……さらばだ、「真摯なる我が使徒」よ、また会おう!』


マトレーナ様の、別れと再会を望む言葉と共に、

俺はまた、意識を手放したのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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