第194話「怒りの再会」
とある晩、俺は嫁のひとりクッカと寝ていた。
傍らには愛娘のタバサもぐっすりと。
いわゆる、親子仲良くの3人寝だ。
ちなみに川の字ではない。
タバサが寝付いてから、俺とクッカはさっきまでたっぷり愛し合った。
これには、ちゃんと理由がある。
愛を確かめ合うのは勿論、タバサに『素敵なプレゼント』をする為である。
俺もクッカも、そしてタバサも望んでいる、
そう、タバサの『妹』か『弟』を授かる行為なのだ。
気だるげなひと時の後、俺は眠りに落ちた。
昼間たっぷり働き、夜も「それなりに」頑張った。
……今夜は、ぐっすり眠れそうである。
しかし……遠くから、俺を呼ぶ声がする。
『ほら! ケン、早く起きなさい!』
『エッチした後、幸せそうに寝おって。さっさと起きるのだ、この馬鹿たれが!』
はあ? 誰……だろう?
俺が目を開けると、ふたりの女性が見下ろしている。
……周囲を見ると、自宅の寝室ではない。
真っ白な、何も無い無機質な空間。
どうやら、ここは現世ではなく、異界らしい。
俺を見下ろしている女性達の表情は……何かヤバそう。
ひどく怒っているような雰囲気だ。
ひとりは金髪で特徴のある尖った耳を持つ超美人。
そして、もうひとりは、赤毛の凛々しく、筋骨隆々の逞しい麗人。
このふたりには、見覚えがある……ええっと……ああ、そうだ。
うん、ようやく思い出した。
そんな俺をふたりの女性は責める、責める。
『む、ケン、お前……まさか、忘れていたのか? どういうつもり!?』
『この、おとぼけ野郎が!』
そう! 俺が死んで、最初に会った方々だ。
アールヴの女神マトレーナ様、戦いの女神ヴァルヴァラ様か。
でもさ、どういうつもり? とか、おとぼけ野郎とか、言われてもなあ。
管理神様が創った異界で、このふたりと、
クッカ=クミカの女神様計3人に出会ったから。
確か……あれからもう、3年以上が経過している。
『ええっと、こんばんは。おふたりとも、お久し振りです、もうだいぶ経ちましたよね?』
俺が「懐かしい」と言って、きちんとあいさつしたのに……
ふたりの反応は……えらく薄い。
『はぁ? 何が久々よ!』
『そうだ! お前は、何言っている? この前、会ったばかりだろう? 天界ではな、ほんの一瞬だ』
はあ、そうですか……
それにしても、何故、おふたりとも、そのように怒っているんでしょうか?
……全く分かりませぬ。
『あの、それで、おふたりとも……俺に一体、何の御用でしょうか?』
『はぁ!? 分からないの? 馬鹿ね』
『この愚か者!』
ああ、更に馬鹿……愚か者って……散々な言われ方……
でも、本当に心当たりがないぞ。
『忘れているようね。ケン! 私達は貴方に、貸しがあるの!』
『そうだ、ケン! お前には貸しがあるのだ! たっぷりとな!』
いや、おふたりの貸しって……という事は俺にとっての借り?
いやいや、無いぞ、本当に。
全く心当たりがない。
『あのう、改めてお聞きしたいのですが……俺へ貸しって、何の事で?』
『はぁ!?』
『本当に、馬鹿な男だな、こいつは!』
俺は改めて女神様達の顔を見た。
うお! 目がすっごく真剣だ。
俺の勘が言っている、ここは、絶対に逆らわない方が良いと。
『はい! 申し訳ありません! 確かに俺は馬鹿で愚かです! こんな俺に、貸しって、一体何かを教えて頂けますか?』
俺が尋ねると、マトレーナ様とヴァルヴァラ様は呆れたような顔をした。
そして、顔を見合わせると、大袈裟に肩をすくめた。
『あのなあ、お前と私達は、あの時しか会っていない。良く思い出せ』
『そうだ、マトレーナの言う通りだぞ』
いやあ、あの時……何か、あったっけ?
しばし考えたが、俺にはやはり、思い出せなかった。
『……全く分かりません、何でしょう』
俺が首を傾げると、マトレーナ様はきっぱりと言う。
『仕方が無い! 教えてやろう! ケン! お前は私を侮辱したのだ!』
『……あ!』
そうか!
侮辱……と言われて思い出した。
そういえば……
『あ! ではないっ! 胸の大きさはな、全てにおいて完璧な私が! 唯一! 気にしている事なのだぞ!』
『いや、でも、あれは管理神様が……』
そう! スーパーともいえる、酷いセクハラ発言をしたのは管理神様。
『マトレーナは、ちっぱい』だなんて、はっきり言い切っていた。
だけど……俺は決して、口になんか出していない。
でも、マトレーナ様の怒りの矛先は?
『いや! お前が先に、失礼にも、心の中でそう思ったからだ。だから、あのお方が口に出された』
ええっ! それって本当に八つ当たりじゃないか。
トップに、こびへつらう悪辣な中間管理職みたいだ。
そのイメージは……コバンザメ。
つらつら考える俺を、マトレーナ様がじろりと、睨む。
『おい! 何だ? 何か、不満でもあるのか?』
『いえ、ありません』
俺とマトレーナ様の会話を、傍らで聞いていたヴァルヴァラ様。
ジト目で俺を睨んでいる。
『おい! お前は、私の方も心当たりがないのか!』
『は、はい……』
『この馬鹿が! お前はな、神聖な勇者を侮辱した。たかが雑用係などと抜かして、ひどく貶めたのだぞ』
『あ!』
ああ、勇者の侮辱か……そっちは心当たりがある。
でも俺は、自分の個人的な考えを言っただけ。
何故ならば、大事な大事な、自分の人生選択を求められたから。
そう、人間の考えは千差万別。
価値観は多岐に渡るじゃないか。
でも……
俺には分かる。
この人達は女神。
神様に反論は無駄。
正論も通らない。
完全に無効化される。
様々な神話に例えれば分かるだろう。
良くある話は……
何も悪い事をしていないのに、人間に対して行われた神様の理不尽な仕打ち。
聞いたり、読んだりした事があるよね?
仕方無い、とりあえず話だけは聞こうか。
どうするのか、判断はそれからだ。
『じゃあ、おふたりは、俺に何をしろと仰るので?』
『ふむ、私達ふたりの為に働いて貰う』
『そうだ! 働くのだ!』
え? 働く?
どうやって?
どこかへ行くの?
アールヴの国? 王都?
……何か、我儘みたいだが、困る。
俺は日々忙しい。
公私とも仕事が山積みだ。
長期不在は、愛する家族に結構な迷惑を掛けてしまう。
しかし、マトレーナ様は首を横へ振った。
そんな俺の考えを見抜いたように。
『大丈夫、心配は無用だ。お前の昼の仕事に差し支えないよう、お前の夜の時間を貰う』
『え!? 夜!? 俺の夜の時間ですか? う~ん、……おふたりとエッチするのはちょっと……』
びった~ん!
バコオン!
やはりというか、……ふたりから思いっ切り殴られた。
『馬鹿め! 全然違うわ!』
『誰が、お前なんかと、エッチをするか? クッカじゃあるまいし!』
こうなる展開を予想し、物理攻撃無効のスキルを発動していたから平気だけど。
ん? スキル?
へえ、夢の中でも……スキルって……使えるんだ?
『ふむ、今もそうだが、お前が眠っている間に、お前の見る夢と、私達の依頼する仕事を行う異界をつなぐのだ、違う世界をな』
『そうだ! 我々はな、様々な世界の管理を任されている。今、お前が生きている世界とは、違う時間軸の異界へつなぐから、その別の世界で、がっつり働くのだ』
成る程……
俺が寝ている間に違う異界——パラレルワールドみたいな場所で働くのならば、
村から居なくなる事はない。
どうすれば、そう出来るのか、全く理解出来ないが、多分、神様の力だろう。
でも、ひとつだけ気になる。
『あのう、これって、管理神様はご存知なのですか?』
『当然! 許可を取っているわ』
『お聞きしたら、いつものように仰ったぞ。OKだよ~んとな』
ああ、きっぱり言うマトレーナ様。
むむむ、ヴァルヴァラ様はウルトラライトな管理神様の口真似までしてる。
ならば今回のミッションは、管理神様公認……か。
言いたい事はたくさんあるし、抗議したいのはやまやまだが……
仕方がない、覚悟を決めよう。
と思っていたら、マトレーナ様の手が挙がる。
これから、魔法発動をするようだ。
『今夜は私マトレーナ、明日が、ヴァルヴァラの番だ』
『頑張って、がっつり馬車馬のように働いて来い、明日は待っているぞ』
『……では早速、行くぞっ』
『わ!』
夢の中だというのに、目の前が暗くなる
俺はあっという間に、意識を手放していたのである。
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