第190話「孤独なグリフォン」
俺の魔法で結界が無くなった洞穴を進むと、奥は大きなホールになっていた。
グリフォン女子は、そこに居た。
体長は10mくらい。
純白な鷲の上半身と翼、黄色の逞しい獅子の下半身。
前世の俺が資料本で読んだ通りだ。
ちょっと感動した。
伝説の魔獣が今、目の前に居るから。
グリフォンは猛禽類特有の鋭い視線を俺達へ投げ掛ける。
改めて見やれば、彼女の身体は少し傷ついているらしい。
巨大な翼が少し曲がっていた。
やはり、体調は万全ではないようだ。
ひとつ、深呼吸した俺は、まず名乗る。
『念話で話していたが、初めて会うから、初めましてだな。俺はケン、一応人間だ。ここから少し行った場所にある、ボヌールという村の村長代理をやっている』
簡単な挨拶をして、次にケルベロスを始めとした従士達を紹介する。
『擬態しているが、彼は魔獣ケルベロスだ』
『ふむ、宜しくな』
『彼も擬態しているが、名はジャン……妖精猫だ』
『よろしくな、可愛い子ちゃん』
『そして白馬に擬態した彼は……ベイヤールだ』
『…………』
ベイヤールを紹介したが、彼は何故か無言だ。
いつもの意思の伝達も行って来ない。
俺達の紹介が終わったと見て、グリフォンが名乗る。
『初めまして、皆さん、宜しく! 私はフィオナ……見ての通りグリフォンよ』
『悪い、フィオナ。ベイヤールは少しシャイなんだ。悪意はない』
俺は、従士の中では唯一返事をしなかったベイヤールのフォローをした。
大丈夫!
多分、俺が言った通りの理由から。
その証拠に、ベイヤールからはフィオナを嫌う波動は発せられてはいない。
対して、フィオナも納得してくれたみたいだ。
『ええ、分かったわ……ところでケンは違う異世界から来たって本当?』
『ああ、本当さ……但し、今の姿は従士達同様に擬態だ、正体を隠している。素顔で派手に立ち回って、俺だと特定されたくないからな』
『へぇ! 変身してるの?』
俺はフィオナの綺麗な心、魂を感じて、一切を正直に話す事にした。
この子は悪い子じゃない。
分かるから――ある程度の事情を話す。
『念の為、結構長くなるけど……出来る限りシンプルに話す、構わないか』
俺の問い掛けに対し、フィオナは黙って頷いてくれた。
目を閉じた俺は、ゆっくり話し始める……
……静かに暮らしたくて、故郷へ帰る途中で死に、
生まれ変わった俺は、管理神様からレベル99の力を授かった事。
派手な勇者になるのが嫌で、地味で静かなボヌール村へ来た事。
村の様々な女子と恋をした事。
村へ襲来した女魔王を、従士達と力を合わせて撃退し、
この世界の平和を守った事。
そして、忘れられない、幼馴染みクミカとの悲恋……
結果、現在は女子達と結婚し、子供にも恵まれ、家族で仲良く暮らしている事。
話を聞いたフィオナはとても驚いていた。
クミカとの悲恋は……特に気になったようだ。
『そうなんだ……凄く……悲しいね……だけどそんな内密にする事情を一切合切、私へ喋って構わないの?』
フィオナの疑問は、尤もだ。
俺とフィオナは全くの初対面なのだから。
『フィオナ、俺には君の心、魂の波動が分かる……だから信じるよ』
『……私の事、信じてくれるんだ……そうなんだ』
『ああ、君は俺達を信用して、ここへ迎え入れてくれたじゃないか、俺達も胸襟を開くのは当然だろう』
『う、嬉しいわ! ……じゃあ、私も身の上を話すわね、聞いてくれる?』
フィオナはそう言うと、自分の身の上話を始めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺同様、フィオナの話も悲しかった。
とあるグリフォン一族の長の娘であったフィオナは、
婚約者と共に、群れの次世代リーダーとなるべき存在であった。
クラン挑戦者の話通り、俺の中二病的な知識の通り、
グリフォンには『お宝』を溜め込む癖がある。
そして、この中世西洋風異世界において、彼等のライバルは、
同じようにお宝を溜め込む癖のある竜らしい。
なので、何かにつけて竜と争う事になった。
戦いは一進一退。
だが、悲劇が起こった。
何と! ある日、竜が大きな反撃に転じ、
一族はフィオナを除いて殺されてしまったのだ。
一族と共に殉じようとしたフィオナではあったが、
瀕死の恋人が、遺言で彼女へ「生きろ」と告げたという。
それゆえ、恋人の遺志を継ぎ、悲しみに耐えたフィオナは、
追っ手の竜共を振り切って、ようやく、ここまで逃げて来たと。
『私、この地で少し休んだら、あてもない無い旅へ……どこか遠くへ旅立とうと思っていたわ』
フィオナは優しく微笑む。
悲しみを堪えて、無理して笑っているのが分かる。
グリフォンもだが、人間よりも遥かに長命だ。
「少し」というのが、人間の時間に換算すれば、
数十年か、それ以上かもしれない。
『そうだったのか……実は、グリフォンの宝を狙って来た冒険者を問い質し、俺達はここへ来たんだ』
『そう……なんだ』
『ああ』
『なら、私がここに居ると、欲にかられた人間達が来るよね? いずれは私を追う、竜どもも来るかも、しれない』
沈んだ声で話すフィオナを励まそうと思ったのであろう。
ジャンが、おどけた声を出す。
『へへ~ん! 竜くらい平気の平左だぜ、俺達のケン様は! 何せ、女魔王が騎乗したハイドラゴンもひと睨みでびびらせたし、この前なんか、二足竜にマウントかけてたらしいぜ』
『ええっ!? 古代竜をびびらせて、二足竜にマウント!? な、何、それ!?』
ジャンの言葉にびっくりするフィオナ。
更には、ケルベロスが捕捉する。
『ふむ、駄猫の言うことは、真実だ。ケン様の力ならば、竜を退ける事など、たやすい。それよりもお前達の、財宝はどうした? 見たところ、ここには無いようだが』
『何だ……貴方達も結局は、グリフォンの財宝が欲しいの?』
財宝の行方を聞かれ、フィオナは訝しげな表情で俺達を見た。
しかし俺は、ゆっくりと首を横に振ったのである。
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