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第189話「洞窟に潜む者」

クラン挑戦者(プローウォカートル)どもと、やり合った西の森。


その奥から、さらにずっと奥へ踏み入ると……

切り立った岩山がそびえている。


標高は約100mほどで、大した事はない。


しかし、傾斜が殆ど無くて、ほぼ直角。

表面はと言えば、岩肌がむき出しであり、ごつごつしていて険しい。


ちなみに、この山は、オベール騎士爵領に接する、

隣の某男爵領との境界線でもある。


麓にある洞穴には、かつてクーガー麾下の将、

不死者(アンデッド)たるリッチのバルカンが前線基地を築いた。


根拠も無く、何となくだが、俺は思う。

この洞穴はどこかで、魔界へとつながっているか、

魔族や怪物を呼び寄せる『瘴気』のようなものが吹き出ているかもと。


女魔王となったクーガーも、ここに現れたし。


あの時のクーガーは、本当に凶悪魔王だった。


クッカに言わせれば、今でも性格はそんなに変わらないと言うが。


そんな悪口を聞かれ、ふたりで姉妹?喧嘩になる……


こんな時の仲裁は結構大変。


さて、話を戻そうか。


俺はクーガーとふたりで、改めてこの近辺を探索し、調べたが、

がらんどうの洞穴だけで、何も発見する事は出来なかった。


そして、探索の後、バルカンの居た洞穴は、

誰も入らないよう、俺の地属性魔法でふさいである。


という事で、これ以外に大きな洞窟は無かったはずなのだが……


……でも、それは数ヶ月前までの話。


グリフォンはパワーあふれる魔獣だが、魔法を使えないと断言は出来ない。


もしかしたら、地属性か何かの魔法を発動させ、

自らの棲家を造ったかもしれない。


ちなみに、グリフォンの居場所を白状させた、

クラン挑戦者(プローウォカートル)の連中は、

空間魔法で造った亜空間へ放り込んである。


亜空間内で気絶しているであろう、奴等にはまだ大事な役目があった。

はなから殺す気はない。

 

そう、奴等から一切の記憶を消して放逐しても、意味が無い。


王都の売れっ子情報屋とやらから、グリフォンの存在を聞いた、

新たなクランが乗り込んでくるのは明白。


グリフォンが、この地から居なくなったという、

はっきりした既成事実を作らなければならない。


その為には、クラン挑戦者(プローウォカートル)の奴らを、

大いに利用してやるのだ。


さてさて!

奴等から教えられた洞窟は、やはり例の岩山の麓。


何と! 何も無かったはずの場所に、ぽっかりと真っ黒な穴が開いている。


まだ、大当たりではないが、俺の推測が少しだけ当たったかも。

 

天地左右5mずつくらいの穴……


巨大な、というほどでは全然無い。


果たして、グリフォンが入れるのか?


疑問はつきないがとりあえず進む事にした。


念の為、この西の森へ来た時から俺は索敵を行っている。

同時に、従士達も気配を探っていた。


だが、グリフォンの居る様子はない。


多分、何らかの方法で気配を消しているに違いない。


俺達から気配を消去するだけでも、

相手のグリフォンが大した実力を持っていると分かる。


いくら俺がチート魔人で、従士達は一騎当千といっても油断は禁物だ。


ただ、ここで重要なのは、俺達とグリフォンが接触して、どうなるのかだ。


いきなり、戦闘状態になるのは絶対に避けたい。

先方に知性があって、話し合える余地があるなら話し合いたい。

 

俺は『ふるさと勇者』だが、基本スタンスは『専守防衛』


ボヌール村、エモシオンを含む、この周辺で、害為す魔物や人とのみ戦う。

何もしない相手へ、理由もなく戦いを挑みたくない。


だから、このような場合は逆手を使う。

 

グリフォンが気配を消しているのなら、

こちらは気配をはっきり出して存在を主張するのだ。


戦う意思が全く無い事も含めて。


但し、こちらには妖馬ベイヤールが居る。


グリフォンが大いに嫌う『馬』ではあるが、正直に堂々と存在を報せる。

果たしてどうなるか……


俺達が歩く洞穴の中は真っ暗だ。


しかし全員、夜目が効く。

全く問題はない。


しばし進むと……洞穴は行き止まり、であった。


だが、魔法に長けた俺達には分かる。


幻影を見せられた上、結界、つまり魔法障壁が張られているのだ。

侵入者の眼を逸らし、これ以上進めなくするように。


幸い、俺は神レベルのスキル持ち。


お約束で最初は失敗。


だが、二度目のトライで、クリア。

幻影と魔法障壁を消失させた。

 

お陰で、ようやくグリフォンの気配をキャッチする事が出来た。


俺が幻影と魔法障壁を無効にした事に、相手が驚いたからである。


この時点で、奥に潜むグリフォンは、俺達が只者ではないと感じた筈。


グリフォンの気配……

 

それは、俺が最も心配した邪悪で凶暴なものではなかった。


人を襲って、この地で暴れようとする意思など皆無。


誰にも構われたくなく、ひとりで静かに暮らしたい……

そんな思いが伝わって来たのだ。


この気持ち……

俺には分かる。


そう、とても共感出来る。

俺が都会に疲れ、懐かしい故郷へ帰りたい、と思った気持ちに酷似しているのだ。


これなら話し合いが出来るかもしれない。


俺は、念話の回線を開く。


グリフォンと話す為である。


そもそも念話とは心、つまり魂の波長を合わせて話す事。


なので、俺は思い切って自分の心をさらけ出した。


グリフォンは、更にびっくりしたようだ。


そして、俺の存在が気になりだしたらしい。


ここは俺から、丁寧に話し掛けよう。

何とか、心を開いて貰えるように。


『ちょっと失礼するぞ、いきなりで悪いな。良かったら俺の話を聞いてくれないか?』


『…………』


呼びかけたが、相手は反応なし……無言だ。


う~ん……当然だろうな。


俺が、一体何者なのか、全く分からないのだから。


一応、心、つまり魂の波動からは、俺に敵意がないのは理解して貰えたはずだ。


でも何か気配が……おかしい?


違和感を覚えながら、俺は諦めずに話し掛ける。


『俺は、違う世界からこの世界へ転生した者だ。一旦は死んだけれど、この世界の管理神様のご加護を受けてさ』


『!!!???』


更なる俺のカミングアウトに、グリフォンの凄く驚く気配が伝わって来る。


良いぞ! 掴みはOKだ。


『そんな経緯(いきさつ)で、俺はこの地の守護者をしている。もしもあなたが森の奥で静かに暮らし、人間や家畜に害を及ぼさないのなら、そっとしておこうと考えている』


『え!? ……本当に?』


あれ!? この可愛い声!?


このグリフォンって……女の子だ!


俺が、相手の気配から覚えた違和感はこれだったんだ。


『おお、グリフォンなのに、君は女の子?』


『ええ、そうよ! 悪かったわね、女で!』


『いや、御免! 御免!』


俺はひたすら謝った。


別に女性を、軽んじていたわけではない。

グリフォン=男というイメージが強すぎたのだ。


先ほど、バルナベ達が考えた、牝馬を使った罠の件もあったし。


そんな俺の心の波動を読んだのか、グリフォンは大声で笑い出した。


『あ~はははははは!』


『御免な!』


念の為、俺はもう一回謝った。


すると、グリフォンは好意の波動を送って来る。


『うふふ、もう良いわよ、何度も謝らなくて。人間のグリフォンに対するイメージって、「暴れ者の女好き男」で固まっているんだものね』


まあ、確かにそうだ。


人間や牡馬は容赦なく殺し、牝馬と見れば、すぐエッチしちゃうとか。


だけど、敬っている部分もい~っぱいあるぞ。


魔物として、風貌はカッコいいし、強さも最強クラス。


現に、この王国の大勢の貴族は、自家の紋章にだって使っている。


『うふふ、確かにね』


良かった!


どうやら、機嫌が直ったようだ。


『俺達、平和的に、君とじっくり話したいのだけれど……構わないかな?』


『平和的に? ……良いわ……でも、おかしな真似をしたら、容赦無く殺すわよ』


『了解!』


こうして俺達は、洞穴の奥に隠れ住む、

グリフォン女子と話す事となったのである。

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