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第188話「猿芝居」

リーダーのバルナベが、自分の剣を投げたのに続き、

サブリーダーのティボー以下、

クラン挑戦者(プローウォカートル)のメンバーも、

次々と、自分の武器を放り投げた。


ゆるい放物線を描いて飛んだ武器は、そこそこ遠く離れた場所に転がった。

さすがに、すぐ取りには行けない距離である。


これでクランメンバー全員が武器を放った。

見届けたリーダーのバルナベが叫ぶ。


「おい! お前の指示通りにしたぞ! だから、いいかげんに姿を現せ、兄さんよう」


確かに、俺の指示通りではある。


しかし、まだ俺は奴等の前に姿を見せなかった。

それどころか、返事もしない。


俺が動かないので、バルナベが初めて余裕の笑みを浮かべる。


「おいおい、どうした? びびったか? あははははは!」


「「「「「「「「「ははははは」」」」」」」」」


バルナベが大声で笑い出し、釣られてクランメンバーも皆笑った。


だけど、これは、あからさまな挑発。


なので嘲笑されても俺は動かなかった。


逆に、改めて指示を出す。


「……次に全員、両手を頭の後ろに組め、そして地面へ腹ばいになるんだ」


前振りなく、いきなり下された俺の指示。

聞いたバルナベが慌てる。


「な!? 約束が違うぞ」


「黙れ! 主導権を握っているのはこちらだ、言われた通りにしろ」


「ぐうう……ち、畜生」


俺が、クラン挑戦者(プローウォカートル)の命運を握っているのは事実だ。


もしも俺が、オベール様へ通報すれば、クラン全員が違法行為で牢屋行き。

逆らったり、逃げたりすれば、話が大きくなり国家反逆罪で絞首刑。


奴等として、それは両方とも絶対に避けたいだろう。


しかし、俺みたいな身元不明な、

どこの馬の骨とも分からない奴の言いなりになり、

情けないと思っているのも確か。


ランクBの冒険者、ランカーの誇りからか、拳を握り締め、バルナベは悔しがる。


「バルナベさん、ここは我慢、我慢」


「う! りょ、了解!」


サブリーダーのティボーがたしなめ、リーダーのバルナベが渋々頷いた。


まずは、バルナベが俺から言われた通りにした。


続いて、クラン挑戦者(プローウォカートル)のメンバーも、

どんどん腹ばいになる。


相手には体術に優れた奴や魔法使いも居るみたいだ。

負けるとは思わないが、リスクは最大限減らしておくに越した事はない。


慢心や驕りは絶対にNG。

致命的になりかねない油断につながる。


俺はいつもそう心掛けているから。


ここで頃合いと見て……ようやく、俺と従士達は姿を現す。


当然、素顔の俺ではない。


変身の魔法により、30歳くらいの魔法使い風な男を装っている。


法衣(ローブ)姿の俺を見て、バルナベは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「ああ? 何だ? どんな奴かと思えばひ弱そうな魔法使いの若造かよ……」


「…………」


「それに、たったひとりかよ。クランメンバーの代わりに連れているのが、人間じゃなくて、犬と猫と馬だと?」


俺の姿を見たバルナベは首を傾げた。


他のクランメンバー達も、訝しげに俺を見ている。


微妙な雰囲気だが、構わず俺はバルナベに問う。


「…………改めましてだな。あんたの言う、儲け話とやらを聞かせて貰おうか」


「ふん! まあ良いだろう……俺達が追うグリフォンだがな……冒険者ならば、知っているだろうが、奴等は習性から大層な量のお宝を溜め込んでいる。今回の仕事も、そいつをそっくり頂くのよ」


「ほう、成る程」


心の中で俺は苦笑。

やっぱり、相手をまともに倒すとかではなく、

策を弄し、盗みだすんじゃないかよと。


俺が相槌を打ったのを見て、バルナベは「ここぞ!」とばかりにまくし立てる。


「兄さん! 俺の見立てではな、金貨1万枚(1憶円)相当は固いと踏んでいるんだ」


「ふむ、金貨1万枚か……それは凄いな」


「だろう? もし兄さんが領主へ通報せず、俺達を手伝ってくれたら、金貨二千枚(2千万円)をやるぜ! こ、これは! 俺の分け前と一緒だ! クランリーダーの、この俺の取り分とよぉ!」

 

「ふむ、金貨二千枚か……大金だな、悪くない話だ。分かった……俺は何をやれば良い?」


そう、俺はわざと誘いに乗ってやった。


対して、「しめた!」と思ったのだろう。

バルナベの表情に「作戦成功」という歓びが生じた。

心からもそんな波動が発せられていた。


ああ、本当に分かり易い奴だ。


「おお、やってくれるか! 良かったな、兄さん。これで大儲け出来るぞ」


「ああ、任せろ」


俺が仕事を引き受けたからか、バルナベは立ち上がろうとする。


「ようし! じゃあ詳しい段取りを説明するぞ! もう起きて話しても大丈夫だろう? 俺達は仲間だから」


しかし俺は、表情を変えず、手で制する。


無論、奴等が立たないようにだ。


「動くな!」


「ああ? 何故だ!? 俺達を信用してくれないのか? 兄さんの言う通りにしているだろう?」


「信用?」


「そう! 信用だ。お前の指示を守り、男と男の約束をしたじゃないか」


ほ~う! 男の約束と来たか! 信用と来たか!


笑わせるぜ、とんだ三文芝居だ。


はっきり言って猿芝居だな!


俺は込み上げる笑いを、これ以上我慢出来なかった。


「あはははははははっ!」


俺が大笑いするのを見て、バルナベは訝しがる。


少し不安な表情を見せている。


「な、何が可笑しい?」


「ああ、猿芝居は終わりだ。全部……分かっているんだよ」


「は? 猿芝居? 全部? 分かっている?」


(とぼ)けて首を傾げるバルナベ。

 

こいつ、馬鹿か?

まだ惚けるのか?


俺を利用して、何をやらせるつもりなのか、

どのような方法でグリフォンを狩るかを、俺は既に知っている。


さっきの密談と奴等の心から読み取った情報も含め、ここで公開してやろう。


俺はニヤリと笑う。


「ああ、そうさ……お前達が仕組んだ、詳しい段取りは俺から言おう」


「な、何!? 段取りだと?」


「ああ、良く聞け。まずは大金で釣った俺を、グリフォンの居る洞窟へ連れて行く。グリフォンは牝馬には目がない。だから、恰好の囮役である俺を先頭に立たせ、お前達の用意した牝馬と、猛毒の入った水を持たせて洞窟の中へ入らせる」


「な!?」


「逢瀬に邪魔な俺は、グリフォンに呆気なく殺されるだろう。そして、奪った牝馬と、事をいたした後に、喉が乾いたグリフォンが、つい置かれていた水を飲む……すると、猛毒の入った水を飲んでも、グリフォンは死なないが、かなり弱る」


俺の中二病……グリフォンは基本的に馬が大嫌いだ。

自分と同じ役目を果たすライバルだからと言われている。

 

しかし殺すのは、何故か牡馬だけ。


牝馬は逆に大好きで、即座にHして自分の子供を産ませる。


グリフォンと牝馬の間に生まれた子供が、

前半身が鷲、後半身が馬の怪物ヒッポグリフなのだ。


ズバリ! と、目論見を言われて驚いたバルナベ。


絶句し、さすがに言葉が出ない。


「ななな……」


俺は「にやり」と笑い、バルナベへ『とどめ』を刺す。


「毒で動きの鈍くなったグリフォンへ、お前達クランが10人がかりで襲い、一気に殺す……このような段取りだな……万が一、俺が生き残っても、グリフォンと一緒に始末する……所詮、俺は使い捨てって事だ」


「うおっ!? ななな、何故!?」

「こいつ!!」

「何で!?」

「分かるんだあ!?」


「「「「「「「「「「殺してやるう!」」」」」」」」」」


作戦が失敗したと理解した男達は、一斉に立ち上がろうとした。


だが、身体は動かせない。

うつ伏せになったまま、芋虫のように身体をよじるだけである。


そう、立ち上がれないのは当然。


話している間に、俺がこっそりと束縛の魔法を発動。


奴等の身体の自由を奪ってあるからだ。


「悪いが、グリフォンの件は俺が対処する。お前達には、別の仕事をして貰うよ」


悔しがって歯噛みする、クラン挑戦者(プローウォカートル)の面々へ、

俺は、きっぱりと言い放ったのである。

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