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第183話「男同士でうまいメシ!」

プリムヴェール王国最南部、辺境の地……

ここは、ボヌール村東方にある、名も無き森。


只でさえ、誰も来ない森の、更に奥にあるこの湖。

訪れる人は……滅多に居ない。

 

この近辺は、騎士爵オベール様の領有地だし、

領民であるボヌール村民以外は、基本的に狩りも釣りもNGだから尚更である。


この中世西洋風異世界へ、俺が来た頃は、

魔物が、今よりずっと「はびこって」いて、相当に危険だった。


何を言いたいかと言えば、この湖、いわゆる『場荒れ』はしていない筈って事。


ちなみに、場荒れとは、

頻繁に釣り人が来て、様々な要因から魚が釣れなくなる事だ。


という事で!

俺は淡い期待を込めて竿を振り、餌付きの針を投げ入れた。


気合を入れて、釣り道具を作り、従士達に対して大見得を切った手前、

何としても、ボウズは避けたかった。


こちらも、ひと言、説明。

ボウズとは、釣果ゼロの事をいう。


都会に引っ越して、すぐのまだ俺が幼い頃……


祖父に、連れて行かれたのがきっかけで、俺は釣りの楽しさを知った。


だが、まだ幼い為、自分ひとりでは行けなかったので、

祖父におねだりし、常に同行して貰い、釣堀へ通い出した。


孤独さを癒やす、時間を求めた為だ。


釣りには動と静……ふたつの釣りがあると思う。


あまり経験はないが、ルアーなどで釣るシーバスなどは動。


俺がやった、釣堀で浮きを使った仕掛で鯉や鮒を釣るのは静。

私見だがそう思っている。


この湖でも、俺は静の釣りを楽しみたかった。


じっと待ち、浮きの僅かな動きに合わせて魚を釣り上げる……


静の中に動が生まれる。

魚との真剣勝負を期待したのだ。


今回も、そのようなイメージを浮かべた俺。


しかし、それは、とんでもない間違いであった。


多分、ここで今までに釣りをした人は居ない……と、いうことは……


ぽちゃん!


と、餌付きの針を投げ入れた瞬間――ばっくん!!!


おおっと! 即、喰いついた!


「うわあっ!?」


思わず声が出てしまう。


引き込まれる竿。

軋む糸。


「おおうっ!」


凄い……引きだ。


暴れる! 暴れる!


喰いついたのは、何だろう!


ああ!

水面からジャンプしたっ!


糸が切れないだろうか?

竿が持つだろうか?


しかし、釣り人にとっては、この瞬間が最高なのだ。


格闘する事、10分余り……

疲れたらしい魚が、ようやく水面に姿を見せた。


にゃ~ごっ!


かかった魚の見事さに、思わずジャンが鳴いた。


体全体が茶褐色。

朱点が、やたら多い。


これは多分、トラウトだ……地球でいうブラウントラウトに似ている。


結構大型で、40cm近くある!

バラさないように、そうっと引き寄せて水面から一気に抜き上げる。


にゃ~ごっ! にゃ~ごっ!


輝く魚体を見て、ジャンはもう大騒ぎ!

ああ、狂喜乱舞している。


ようし、もう何匹か釣ってやるぜ。


俺はトラウトを魚篭(びく)に入れると、

餌を付け再び湖面へ投げ入れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


最初の釣りで、予想はしていたが、それからは入れ食い状態。


入れ食いとはまさに言葉通り、餌を付けた針を入れると、

すぐに魚が 食いつき、次々と魚が釣れる事である。


……え?

美少女嫁を、た~くさんゲットした俺も、女子が入れ食い状態だと?


いや、いや、いや、それは誤解だ。


結果的に嫁が増えただけ。

何か、女子が入れ食いとか言われると、手癖の悪いジゴロみたいじゃないか!


まあ、それは置いといて!

結局、1時間弱で大型のトラウトが20匹以上釣れた。


おお、何という良釣り場であろうか!


すげ~、感動!

この嬉しさ、喜びを、我が家族と分かち合いたい。


この場所は、風景も綺麗だし、安全さえ確保出来れば、絶対に楽しい。


今度は、誰か連れて来よう。


ええっと、これだけの魚は、一度に全部は食べられないから、氷室に保存だ。


む、旅先で、氷室があるのかよって?


いえいえ、それがあるんです。


おおっぴらに、オープンには出来ないし、内々の使用に限られるが、

俺って、レベル99の空間魔法を使えるから、どのような異界でも造れる。


氷室風異界は、凍てつく極寒の地をイメージ。


魚を放り込むだけで、凍り付いて鮮度バッチリ保存の筈……

あまりに極寒過ぎると、魚が砕け散るから注意。


というわけで、俺とジャンとケルベロスで食べる分、数匹を残す。


ナイフを使い、内臓を取って下処理をしておく。


ちなみに、犬や猫などを含めた動物へは、

絶対に与えてはいけない食べ物や、してはいけない調理法があるから、

厳重に注意してくれ。


例えば、このような魚は下ごしらえをした上で、必ず焼いて与えるのが大事。

塩は、殆ど要らないかも。


人間以上に、動物の塩分摂り過ぎは要注意らしい。


従士達は動物と言うか……魔物だけれども、気配りはとても大事。


さあて、今日はこのままこの場所で夕飯だ。


陽が暮れて、西の空が真っ赤に焼けている。

どんどん闇が迫って来るが、不安はない。


だって、寝るのも俺の造ったエデンのように安全な異界。

この森で、そのまま無防備に寝るわけではないから。


そんな俺は、ひとりまめに働く。

誰にも手伝わせない。


今日は、従士達へのサービスデーだもの。


鹿肉もトラウトも、「じゅうじゅう」と焼き、

持参した野菜も使って、別に鹿肉のスープも作った。


俺が食べる為、固いライ麦パンも出しておく。

スープに浸して食べると、凄くいけるから。


ちなみに、魚の餌にしているのは、これより上質のパンである。

トラウトの方が、人間よりも、良いパンを食べているのが笑えるが。


更には、お湯も沸かして、食後の紅茶の準備もしておく。


辺りに、良い香りが漂って来た。


誰もが、自然と笑みが浮かんで来る。


馬化したベイヤールは、肉や魚が食べられないので、

ボヌール村産の人参は勿論、引寄せの魔法で 

特上の『ブルーグラス』も用意してやった。


すると、ジャンに劣らず嬉しそうだ。


よっし、そんなこんなで、食事の準備完了!


ちなみに、ユウキ家は少し前から食事の際に、

「いただきます、ごちそうさま」をする事になっている。


俺が、その『しきたり』を、家族に教えたのだ。


『さあ、飯にしよう! いただきます!』


『頂きます』

『いただきまっす!』

『ぶひひひん!』


普段は、嫁ズに囲まれて幸せな俺だが……


たまには、男同士で、飯を食うのも良いもの。


そんな事を言ったら、また「リア充爆発しろ!」と言われそうだが。


胡椒を振った鹿の焼肉、トラウトの荒塩焼き&塩無し焼き、

そして、鹿肉と野菜を一緒に煮込んだスープは、とても美味かった。


従士達にも概ね好評で、俺は面目を施したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


飯の後のお茶は美味い。

気持ちが落ち着くし、身体の疲れも取れる気がする。


人類で、最初にお茶を飲んだ人は偉大だと、改めて思う。


俺もそうだが、従士達は普段忙しい。

最近は、全員揃ってゆっくり話すなんて滅多に無い。


飯が美味かった事もあって、話が弾む。


俺は改めて、クミカとの悲恋や嫁ズ全員の事を包み隠さず話した。


従士達は家族だ。

何も、隠す事はナッシング。


『常日頃、お前達が、頑張って仕えてくれているから、俺達家族は、幸せなんだ……本当にありがとうな、感謝しているよ』


俺が、頭を下げて礼を言うと、従士達は全員黙っていた。


ああ、ちょっと、柄にも無かったかな……


『何だか、恰好つけ過ぎたか……でも本音なんだ』


俺が重ねて謝意を伝えると、ケルベロスが言う。


『ケン様に、仕える事が出来て、本当に良かった』


ケルベロスの言葉を聞いた、ジャンが笑う。


『へっ、当たり前じゃないか!』


ぶひひひひ~ん!


最後に、ベイヤールが力強くいななき、

森での夜は、ゆっくりと更けて行ったのである。

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