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第182話「狩りには礼を尽くして②」

鹿を狩った俺達は、更に東の森奥へ進む。

 

懐かしいというか、微妙というか、終わり良ければすべて良し、

なんだろうけれど……


……かつて、この森で、現嫁のレベッカを助ける為、

凶暴なオーガの群れを倒した事があった。


彼女との『馴れ初め』といえる事件であり、

俺には絶対に忘れられない思い出のひとつだ。


その際、オーガの返り血を浴びて、身体を洗った小さな川がある。

 

事件のほとぼりがさめてから、完全復活して元気になったレベッカと探索。


川が流れ込む先には、結構大きな湖があるのを確かめてあった。


今回の旅において、俺達の目的地のひとつは、その湖。


確かめた事はなかったが、多分、美味そうな魚がたくさん泳いでいる筈である。


『良い鹿肉が手に入りましたねぇ! さあ、ケン様! 次は、超ウマウマな魚をゲットしましょうよぉ』


ジャンは先程した喧嘩の怒りも、綺麗に消え失せ、張り切っていた。


名誉より大事なのは、食い気!


うん! ジャンらしい。


はっきりしていて宜しい。


『ああ、そうだな』


俺が頷くと、ジャンは怪訝な表情をする。


何か、疑問があるようだ。


『ケン様、何故、狩りでわざわざ弓矢を使うんすか? ここには俺達しか居ないし、魔法で「ぱぱぱっ」とやれば楽じゃないっすか? 風の魔法行使で、大気の矢でも放てば、もっと遠くからでも百発百中ですよ』


ああ、やっぱりな……

普通はそう思うよな。


成る程……

ジャンの不思議そうな表情はそう思っていたからか。


だから、俺は答えてやった。


『ああ、理由(わけ)があるんだ』


『理由?』


『うん! 個人によって見解は違うが、俺は魔法だと、楽して、安直だと感じる。食べる為に、相手の命を奪うのなら、こちらも礼を尽くしたい』


さっきの常人に戻ったら、という心配とは別に、俺には考えがあった。


それは何かといえば……

自分が食糧にする相手には、ちゃんと礼を尽くして向き合いたいって事。


まあ、単なる『自己満足』と言われれば、そうかもしれないが。


やはりというか、ジャンには理解して貰えない。


『ふ~ん……所詮、結果が同じであれば、俺なら、方法に(こだわ)りませんけどね。楽で安全な方が良いに決まってますよ』


『まあ、それも一理あるな』


『でしょ? ……ケン様の考えは、やっぱ、理解出来ないや』


うおん!


その時、ケルベロスがいきなりジャンの耳元で吠えた。


『うわ! びっくりした! って、ななな、何だよ!?』


驚くジャンに、ケルベロスはしかめっ面をして言う。


『だから……お前は、ダメなんだ』


『はあ? だから? 俺がダメ……だと!?』


『ああ、そうだ! お前には分からないだろうが、ケン様は、命に対する礼儀を知っている』


おお、ケルベロスよ、分かってくれたのか。


結構、嬉しいかも。


しかし、ジャンには理解不能なようだ。


『はああ? 命に対する礼儀?』


『お前のような、けつの青いガキには、分かるまい』


『おい! けつの青いガキって!? ケン様よりも俺の方が、ず~っと長く生きているんだぜ!』


けつの青いガキと言われ、ジャンも頭に来たらしい。


しかし、ケルベロスへ返した答えは微妙な言い方だ。


単に、長く生きているとか、そういう事ではない。


本質が大人か、子供かそういう事。

ジャンには、ケルベロスの言う本当の意味が分かっていない。


案の定、ケルベロスが呆れたように「はあっ」と溜息を吐く。


『しょ~もない、愚か者だな……我が言うのは、そのような、意味ではない』


『くくく、糞っ! 俺を見下しやがって! 馬鹿にしやがって! いっつもそうだ!』


『まあまあ……ケルベロス。人それぞれだ。ジャンにはジャンの価値観がある、俺だって本音は、魔法を使った方が楽だし、便利で効率的だと思うさ』


ここでまさか、俺がフォローしてくれるとは思わなかったのだろう。


ジャンは「ぽかん」と口を開けていた。


そして……


『ケ、ケン様! ありがとう!』


と俺へ向かい、うるうる目で礼を言った。


おお、こんなに嬉しそうなジャンの笑顔は初めて見た。


毒舌だし調子が良い事この上ないが、俺はそんなジャンが好きだ。


ああ、念の為、変な意味じゃなくてね。


ふと考える。


俺がもしも常人へ戻ったら、召喚魔法も使えなくなる。


当然、今居る従士達とも、おさらばだろう。

そんな事、彼等へは絶対に言えないが。

 

それに……

いくら相手と親しくても、誰にでも……いつかは、必ず別れがやって来る。

 

永遠の命を持つらしい、彼等従士とも例外ではない。


人間の俺達一家や、普通の犬猫である家族の死という、

無情な(ことわり)を筆頭に……


心配性な俺は、今のうちに『思い出作り』もしておきたいのだ。


所詮、人生は出会いと別れの繰り返し、


この中世西洋風異世界へ来て、尚更強く、そう強く思う。


そんなやりとりをしていたら、湖に着いた。


やはり、結構広い。


どこかのサッカー場くらいの大きさはある。


人にもよるが、俺にとっては『湖』だと思う。


俺は馬車を停めると、ハーネスを外してベイヤールを放してやる。


空は真っ青。

相変わらず天気が良くて皆、リラックス。


俺が許可を出したので、ケルベロスもジャンも、

湖畔の青々とした草が生えた地面に寝そべって休んでいた。


改めて俺は湖を見た。


浅い手前は綺麗な水で底まで見えるが、

湖の真ん中辺りは、水の色が濃く、相当深そうだ。

 

『じゃあ、釣りを始めるぞ……釣竿から針まで、全部、俺の手作りだからな』


『おおっ! 本格的ですね! 俺っちに美味い魚、お願いしますよ』


復活したジャンが笑顔でせがんだ。


俺も笑顔で返す。


『ははは、任せろよ』


多分、上手く行く筈だ。


実は、このような日が来ると思って夜、少しずつ釣り道具各種を作っていた。


俺は記憶をたぐる。


……幼馴染みのクミカと別れ、都会へ引っ越して孤独だった俺を、

唯一、癒してくれたのが、釣り堀。


とある日、母の父……

すなわち祖父に連れて行って貰って以来、完全に、はまってしまった。

 

その都会の釣堀は変わっていた。

自然の川や池という趣きではなかった。

 

俺は……更に記憶を呼び覚ます。

 

何か、城のお堀のような場所にあったっけ。

すぐ傍らを、黄色い電車が「ガタゴト」通り過ぎるのが面白かった。

 

この異世界に来た俺は、ぜひ釣りをしたいと思ったが、

残念ながら、ボヌール村に釣りの道具は無かった。


なので、スキルの助けを借り、暇を見つけては全て自作したのである。


釣竿は、よくしなる柔らかい木の枝を探して加工、

糸は知る人ぞ知る、某蛾の幼虫から作った。


浮きは軽くて水を吸い難い、木片を丁寧に削り、錘は石を砕いて磨く。


針は丈夫な重めの木片を選び、両側を尖らせた。

ちなみに針の形だが、尖らせた小さな短い鉛筆を2本繋いだように作る。


餌はミミズ……ではなくパン。

針を覆い、魚に気取られないよう、見えなくするのがコツ。


エサ釣りに慣れたら、次回は毛バリ、ルアーを使った釣りにも挑戦したい。


フライフィッシングとか、ルアーフィッシングにね。


でも、リールと専用のロッドを造るのは、少し手間がかかるかも。


さてさて、準備OKだ。


『ケン様、周囲は見張っておりますから、ごゆっくりとお楽しみください』


おお! ケルベロスが気を遣ってくれた。

俺が釣りに専念出来るように……


ありがたい!


俺は湖面へ向かい、ひょう!っと竿をしならせた。


「ぽちゃん」と音がして、石の重みで餌を付けた針が沈んで行く。


初めて、この異世界で行う釣り……

果たして上手く行くだろうか?


俺は水面に浮かぶ浮きを見て、脱力。

「ほう」と軽く息を吐いたのである。

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