第181話「狩りには礼を尽くして①」
出発した日の午前中に、いきなり南国アーロンビアの商隊を助けた俺達。
彼らの道中、襲って来た、ゴブ約100体を討伐した。
人助けと同時に、本来の仕事、『ふるさと勇者』の使命を立派に果たしたのだ。
そう思うと、とても気分が晴れる。
楽しい宴と化した昼食後、北へ向かう商隊と、
名残惜しくも別れた俺達は、東の森へと向かう。
午後は、この森でパトロールをしつつ、狩りと釣りを行うのだ。
否、結局は、余暇の狩りと釣りがメインになってしまうのかも……
いやいや、余暇ではないぞ!
これも、食料確保という立派な仕事である!と、自分へ言い訳をする。
まあ、索敵&付近を探索したが、魔物の気配は無かったからOK。
と、いうわけで……
今、俺は東の森の中で身を隠し、息を潜めていた。
俺の傍らには、全身に緑色の葉っぱをつけ、
目立たないように、擬態したベイヤールが居る
大量の葉っぱだらけの、珍妙な恰好を気にしてか、微妙な表情。
俺は「御免な」と目で謝る。
いやいや、何故、便利なスキルを使わないのかと思うよね?
習得済みである、気配消去&隠身の両スキルを使えば、
狙う獲物には絶対に気付かれないのに。
だけど……
「いつも、そんなに楽して良いのか?」という気持ちがある。
前にも言ったけれど、俺のレベル99の身体能力、魔法とスキル等々は、
管理神様の『きまぐれ』で、いつ無くなるか分からないという懸念がある。
おいおい、大丈夫だよ、今更。
お前は心配性だなあ、と言われそうだが、
「ケンく~ん! 今から魔法とスキルは、オールナッシング、レベルも1に戻すから、せいぜい頑張ってね~! よろしくう!」
しれっと、管理神様から言われ、
瞬時に俺は、何も能力が、オールナッシングの凡人へ戻る……
そういう可能性は無い、ゼロだとは言えない。
もしも、そんな事になったら、俺のアイデンティティはともかく、
現在の生活も根底から崩壊する、かもしれない。
そんな恐怖が、常に俺の中にはあるのだ。
この先、永遠に死ぬまで俺がレベル99であるなんて、
確約など、決してされてはいないのだから。
で、あれば、備えあれば、うれいなし。
勝って兜の緒を締めよ。
あまりレベル99の能力に頼り切らず、
なるべく魔法やスキル無しでも、何とか暮らせるように、
そういう心構えをしておきたい。
そして心構えのみではなく、実践の訓練も必要だし、行いたい。
だが、どうしても必要に迫られた際には、迷ったりはしないで、
授かった力を大切に使いつつ、穏やかに、堂々と振舞いたい。
また当然だが、授かった力を使用する際には、常に謙虚に。
絶対に誇ったり、驕ったりしない事を、心がけて行こうと決意する。
こうやって、時たま、自分の心にある手綱を引き締め、
省みる事をして行こうと思うのだ。
さてさて!
俺が今回、狩りの獲物として狙うのは鹿。
ケルベロスとジャンが勢子になり、獲物を俺の前に追い出す作戦である。
そして逃げて来る獲物を、俺が弓矢で仕留める。
目の前は森の中では、丁度開けた草原のようになっており、
遮蔽物が殆ど無く、狙いがつけやすいのだ。
ちなみに勢子とは狩子ともいい、
狩猟の場で獲物を追い出したり、逃亡を防ぐ役割を担う者。
俺の従士達は普段、力を極端にセーブしているので、
たまには思い切り駆けて貰う。
溜ったストレスを、発散させる意味も兼ねている。
走るだけではなく、本当は思い切り叫んで貰いたいところではあるが、
地獄の魔獣と言われるケルベロスの場合は洒落にならない。
本気で咆哮すると、俺以外の者は全て麻痺して倒れてしまうからだ。
それに凄まじい声が、周辺の四方八方へと響き渡る。
本街道までも楽に届くから、
万が一、誰かに聞かれたりでもしたら目もあてられない。
うおおおおん!
なので、ケルベロスはセーブ気味の狼的な咆哮をする。
本来の咆哮にはほど遠いが、それでも充分に怖ろしい、肉食獣の声が響き渡る。
咆哮を聞き、獲物の鹿は怯えて逃げ出したようだ。
しかし、逃げた方向にはジャンが待ち伏せている。
ケルベロスを、宿命のライバル視しているジャンは、
当然ながら、対抗心を燃やしていた。
『よっしゃ! 今度は俺っちが、いいとこ見せたるぜ!』
自分に向かって逃げて来た鹿を、ギロリ!と睨みつけるジャン。
しゃあああああ~っ!
外見が、アメリカンボブキャットのジャンが独特な咆哮をする。
いつもの「ごろにゃあん♡」なんて可愛いぶち猫の鳴き声なんかより、
遥かに、野性味あふれた凄い迫力になる。
びっくりした鹿は、慌てて方向を変えると、俺達が待ち伏せる手前の草原に出た。
隠れている俺とベイヤールへ、真っ直ぐに向かって来る。
『よっしゃ!』
ジャンが得意げにガッツポーズをするのを見て、俺は嬉しくなり、
鹿を仕留めるタイミングだと合図をする。
合図――すなわちベイヤールへ「ひらり」と跨ったのだ。
「よし! 行くぞ、ベイヤール」
ぶひひひ~ん!
俺の声に応えたベイヤールはひと声、いななくと鹿に向かって走り出した。
疾駆する白い馬体。
跨っている俺は走らせたまま、馬上で弓をつがえる。
まるで日本の流鏑馬だ。
びしゅるるるうっ!
勢いよく放たれた矢は、見事に命中! 鹿を貫いた。
どう! と倒れた鹿に、俺はベイヤールに跨ったまま駆け寄る。
俺の矢で、急所を射抜かれた鹿は……既に息絶えていた。
「ありがとうな……俺達に命をくれたお前に感謝するよ」
倒れた鹿に、俺は祈りを捧げる。
食物連鎖の理により、鹿は俺達へ命を捧げた。
これはレベッカに教わったが……
動物を殺す事を生業とするプロの狩人は、自然の恵みに深く感謝して生きている。
他者の命を奪うと同時に、命の重みを充分に感じているのだ。
だから娯楽の為の殺生は、一切しない。
獲れた獲物も、極力全ての部位を利用する。
俺も同じ考えだから、出来る限り、使える部位を無駄にはしない。
だが、こちらもレベッカからは教わったが……
解体にあまり愚図愚図していると、倒した鹿の血の臭いを嗅ぎつけて、
ゴブなどの魔物や肉食獣が来る、かもしれない。
俺達が戦えば、一方的に圧倒する事は確実なのだが、
敢えて、ここで待つ必要もない。
手早く血抜きをして、俺は鹿の肉を処理、空間魔法で回収したのである。
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