第180話「従士のお値段」
もうひとつ、お願いがある。
商隊のイケメン中年リーダー、ラムジさんが俺を見た。
ひと言、ふた言話し掛けて来る。
何故か、ラムジさんは、俺に期待するような眼差しを向けていた。
ああ、そういう事か。
俺の持つスキルは、超が付く便利。
本当は通訳要らずに加えて、
オリヴィエさんが通訳する前に、ラムジさんの心が発する波動から、
伝えたい内容が分かってしまう。
まあ、そんな事は、俺の秘密が漏洩するし、角も立つから絶対に言わないが。
「ええっと……ラムジさんは、アルセーヌさんに護衛として、王都メディウムまで同行して欲しいそうです。ちなみに依頼金は、思い切りはずむ、と仰っていますよ」
うん、やっぱり『商隊の護衛依頼』だ。
リスク回避の為には妥当な判断。
俺達は、ゴブの大群をあっという間に屠ったから。
持てる実力は、折り紙つきって事なのだ。
だけど、残念ながら、俺は『ふるさと勇者』として、ボヌール村の為に仕事中。
悪いが、王都へは行っていられない。
我が従士達だって同様である。
当然「NO」なのだが、断る言葉は慎重に選ばないと。
出来る限り、角を立てたくない。
「……評価して貰うのは、本当にありがたいのですが、俺は同行出来ません」
俺が返事をすると、オリヴィエさんが「がっかり」してラムジさんへ伝える。
驚いたラムジさんが、目を見開いて叫ぶ。
どうして? 理由を言え? と言っている。
ああ、言いますよ。
想定内のやりとりって事。
実は、こんな時に告げる『俺の理由』を事前に決めてあるのだ。
「申し訳ないのですが、俺は、人に雇われるのが苦手なんです」
俺が深く頭を下げ、残念そうに、そう言うと、ラムジさんは苦笑い。
やっと納得してくれたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さあ飯だ、飯!
ラムジさん達からは、昼飯ながら豪華な宴を催して貰い、
改めて感謝の気持ちを伝えられた。
この雰囲気……小遣い稼ぎに行った北方のドワーフの町で、
深夜に、宴会した事を何となく思い出す。
ドワーフの楽器と、音色は全く違うけれど、
南国の、独特な楽器の演奏付きで、歌って踊って楽しい。
酒を飲めば、人となりが分かると言うけれど、飯を食っても同様だと思う。
アーロンビアの人達は、朗らかで優しい。
皆、良い人達である。
王都まで、ぜひ無事に旅して欲しいものだ。
聞けば、今夜は北の村ジェトレに泊まるらしい。
その後、いくつかの町や村を経由して王都メディウムへ行くという。
昼飯が終わって出発。
方向が途中まで一緒なので、しばらくラムジさんの商隊に同行してから別れた。
名残惜しそうに手を振る、ラムジさん達を見て思う。
まずは、一期一会って事。
一期一会とは、一生に一度しかない出会いや機会を大切にする。
今回の出会いは、もう二度と無いという意味。
そして俺が、もしもボヌール村へ来ていなかったらという想像。
前にも考えた事はあるけれど、たまに嫁ズとも、そのようなイフの話をする。
お互いに、巡り会っていなかったら、他の人と結婚していたとか……
即座に、嫁ズ全員が「そんなのは絶対にイヤだ!」と、強硬に主張する。
その後は、お約束のイチャタイム。
夜も勿論、延長戦である……
え? 大爆発しろ?
済みません、仰る通りです。
話を戻すと、運命って、もしあるとすれば不思議だって事。
出会って別れて、皆がそれぞれの人生を生きて行く。
死ぬ前に、人生を振り返って、大満足とは行かなくとも構わない。
「ああ、良かった事も、辛かった事も、両方あったなぁ、生まれて来て嬉しいや」
そう思える人生を送りたい。
一度死んで、転生し、人生をやり直しているから尚更だ。
そんな事を考えながら、俺は大きく手を振った。
結局……
アーロンビア王国の商隊が、
地平線の彼方で見えなくなるまで、俺達は見送っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
空間魔法で、馬車を戻した俺達は、再び、旅を続ける。
ところが……
ケルベロスとジャンがまた喧嘩をしていた。
理由は些細な事である。
実は、喧嘩の原因はこういう事。
俺が商隊の護衛を断わると、ラムジさんが意外な申し入れをして来た。
それは何と!
俺の従士達を「有償で譲って欲しい、買い取りたい」という提案だったのだ。
「あの犬と猫、そして馬は本当に素晴らしい。普通に役目を果たすのは勿論、強くて君の代わりの護衛にもなるし、差し支えなければ売って欲しい」
当然、俺は丁寧な言い方をしつつも、きっぱりと断わった。
するとラムジさんは具体的な金額まで提示して来た。
ベイヤールが金貨1,000枚。
そしてケルベロスが金貨500枚、ジャンが金貨200枚であった。
やはり俺は断ると、ようやくラムジさんは諦めてくれた。
まあ、この値付けが高いのか、安いのか全く分からないが、
正直、俺は安すぎると思った。
ただ、分からなくもない。
ラムジさんは、擬態し、変身した従士達を、
あくまでも、戦闘能力に優れた『普通の動物』だと思っているだろうから。
でも、金額を聞き、ジャンには相当ショックだったのだろう。
単純に自分についた値段の違いで、ケルベロスと言い合いになってしまったのだ。
『ベイヤールは、馬だから分かるけどさ、何でケルベロスが、俺の倍以上の、値段なんだよぉ!』
『ふむ、さすがは、商人だ。見る所を、良く見ている』
『な、何だと! 見る所って、どこが、だよ!』
『ふふふ、お前には、分かるまい』
『ううう! 畜生! 馬鹿にしやがってえ!』
馬車の上で、地団太踏んで悔しがるジャン。
片や、ケルベロスは寝そべったまま、どこ吹く風だ。
俺は、少しジャンが可哀想になる。
ちょっとサービスしてやるか。
『おい、ジャン、今日は狩りは勿論だが、釣りもしようぜ』
『へ? 釣り? ケン様、まじっすか?』
『ああ、まじだ。東の森の奥には大きな湖があるそうなんだ。俺は、そこで魚を釣る。鱒か、何かが、釣れると思う。その前には狩りもやるから、夕飯は、新鮮な肉と魚で豪勢に行くぞ!』
『うおおおっ!? 豪勢に!? 新鮮な肉、そして、さ、魚も食えるって? や、やったぁ~!』
思わず二本足で立ち上がるジャン。
ああ、それじゃあ、普通の猫じゃないのがまる分かりだ。
まあ周囲に人も居ないし、一応は、可愛いから許してやろう。
何とか、モチベーションもアップしたようだし。
という事で、俺はベイヤールに合図を送り、東の森へと向かったのである。
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