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第179話「襲われた商隊を救え!」

助けを求める、男達の声を捉え、俺は、従士達と共に走った。


走りながら、素早く、索敵魔法を使い、襲撃現場の状況を把握する。


状況を把握したら、すかさず転移魔法を使う。


魔物の群れの虚を突き、攻めやすい背後から奇襲する為だ。

 

計算通り、俺達は、魔物の群れの背後にある雑木林に現れた。


索敵で既に判明していたが、魔物の群れの正体は……ゴブども。


ざっと見て、数は約100体……馬車4台の商隊を襲っている。


最近では、珍しい『大群』だと言えよう。


さすがの俺でも、何も確認せず、この段階で、いきなり敵へ突っ込みはしない。


そもそも、俺達は気配を消している。

なので、ゴブ達は、まだこちらに気付いてはいなかった。


さて、どうしようか。


緊急を要し、全く時間は無いが、状況を分析し、判断しよう。


まず、この状況では攻撃魔法を使えない。


ゴブは、そこそこすばっしこいし、

どんな属性魔法でも、むやみやたらに撃ったら、襲われている人々を誤爆する。


つまり、同士討ちとなり、巻き添えにする可能性があるからだ。


なので、すぐに答えは出た。


こうなれば直接、ゴブどもへ物理攻撃あるのみ。


以前、魔獣ケルベロスと妖精猫ジャンの従士ふたりが、

ゴブの群れと戦った時があるが、

今回は、俺とベイヤールも加わっての、ベストな4人のフルメンバー。


用心するに越したことはないが、相手がゴブ100体如きなら負ける要素はない。


『行くぜ!』


『『『(おう)!』』』


俺の掛け声に対して、従士達が応え、突撃が開始される。


まずは俺を乗せたベイヤールが走った。


続いて、ケルベロスが走る。

最後方をジャンが走る。


俺達は、あっと言う間に群れへ肉迫する。


群れの、最後方に居たゴブどもが、ようやく俺達に気付いたが、

奴らの反応、動きは、全然遅すぎる。


突進したベイヤールが、あたふたしているゴブどもを蹴散らし、踏みにじる。


一般の人間が居るので、狼犬風のケルベロスは、灼熱の炎を吐かず、

ゴブどもを鋭い牙で噛み砕く。


負けじとジャンが、鋭い爪でゴブどもを「ざくざくっ」と切り裂く。


肉体的には、ひどく脆いゴブどもは、呆気なく血と内臓を撒き散らし、四散する。


こうなると、最早、ゴブどもは商隊を襲うどころではない。

大混乱に陥った群れは、逃げまどうばかり。

 

こうなれば、大勢はほぼ決して、後は一方的な蹂躙だ。


だけどゴブを倒すのが、「可哀想」などと言わないで欲しい。


何故って、俺は捕食者へ、喜んで、自分の身を差し出すお人よしではないし、

そんな、自己犠牲の趣味なども全く無い。


だから、ケルベロスではないが、そんな甘い感傷など、

どこぞの、飢えたブタに食わせろだ。


こういう時は、情を交えず、冷静に敵を倒す。

ただ、それのみ。


そんな俺達の参戦、戦いぶりを見て、

防戦一方だった商隊の護衛達も、反撃を始める。


こうなると、挟み撃ちという形になった。


結果……商隊を襲った約100体のゴブは、あっさりと全滅したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


襲われた商隊の人達は、肌が浅黒く、

彫りが深い、エキゾチックな顔立ちをしていた。

 

明らかに俺達とは、人種が違う。


まあ、前世の俺も元日本人で、完全に異邦人なのだが、

管理神様が、転生の際に、西洋&東洋、ハーフ風の、

少しだけ、カッコいいフツメンにしてくれている。


で、話を戻せば、その中でひとりだけ、俺達と同じ風貌の人間が混ざっていた。


30歳くらいの男性で、栗毛の短髪。

変身した俺よりも、やや年下のこの人だけが、

同じ、プリムヴェール王国の人らしい。


この人は、どうやら、通訳を兼ねた案内人のようだ。


その通訳兼案内人さん、変身した俺達へ話し掛けて来た。


命が助かった安堵の為か、満面の笑みを浮かべている。


「いやいや! ご加勢、ありがとうございます! 本当に助かりました! 冒険者の方でしょうか? 初めまして! 私はオリヴィエと申します!」


「ええっと、こちらこそ、初めまして、俺はアルセーヌといいます、間に合って、本当に良かったです」


この場では、当然ながら、偽名を名乗る。


どうせ、素性を隠した、この場限りの出会いなのだ。


名前など、所詮、符号に過ぎない。


「アルセーヌ様ですか! あのままであれば、私達は馬共々、今頃は、あいつらの腹の中。考えただけで、ぞ~っとしますよ」


「ははは、そんな事は絶対に想像したくないですね」


「仰る通り! こんなにもあっさりと、ゴブどもに勝つとは……アルセーヌ様は、さぞかし名の通った冒険者様でしょうな?」


「いいえ、誤解されているようですが、俺は冒険者ではなく、旅から旅へで暮らしている流れ者ですよ。そもそも目立つのは嫌いなので、ギルドに冒険者登録さえしていません」


俺がそう言うと、オリヴィエさんは驚いた。

 

「ええっ!? こんな素晴らしい腕がありながら、なんと勿体無い! その気になれば、たくさん稼げるのではないですか?」


「いえいえ、俺は、地道にやるのが好きなのです」


「ほう、そうなのですな。ええと、私の雇い主は、南の国、アーロンビア王国の商人です。かの国の特産品を持って、このプリムヴェール王国の王都メディウムまで商売に赴く途中なのですよ」


ミシェルから、聞いた事がある。


アーロンビア王国とは、俺達の住むプリムヴェール王国より、

ず~っと南方へ下った地域にある王国だという。


この国の特産品である、香辛料や綺麗な硝子製品などは貴重品であり、

他国で高く売れるのだと。


ここで、この商隊の隊長らしい人が、笑顔で俺へ握手を求めて来た。

 

隊長の名前は、ラムジさんというらしい。


落ち着いた物腰で、恰幅が良く、鍛えられた逞しい体躯の人だ。


年齢は、40代半ばくらいだろう。


真っ白でゆったりした服を着込み、

腰には湾曲した剣――シャムシール刀に似ているが、

もう少し、刀身が広い物を提げていた。


ラムジさんは、にっこり笑うと、浅黒い肌に白く眩しい歯が目立つ。


やはり、彫りが深い顔立ちで眉毛が濃い。


渋いイケメンのせいか、いい年をしたおっさんなのに、爽やかさMAXだ。


オリヴィエさんが言う。


「ラムジさんは、危難を救ってくれた御礼を、ぜひしたいそうです。それとアルセーヌさんへお願いがあると……」


「いやいや、御礼なんて要らないですよ。当然の事をしたまでです。そう伝えて下さい」


俺が首を横へ振り、言った言葉を、オリヴィエさんが通訳する。


聞いたラムジさんが、険しい顔をしてひと言、ふた言話すと、

俺のスキルが発動した。


クッカ曰はく、俺が転生して最初に習得したという、

『他国言語理解と会話』のスキルである。


そのスキルによれば、ラムジさんの言い分はこうだ。


「命を助けて貰って、御礼もしないのは、人として信義にもとる、絶対に譲れない」


オリヴィエさんが、すかさず通訳し、首を振る。


「アルセーヌさん、ラムジさんは、絶対に譲れないとおっしゃっています。あまり遠慮し過ぎると、逆にぎくしゃくしますから……お願いなので、どうか受けて下さい」


じゃあ、とOKのサインを送ると、金と品物の両方をくれると言う。


金の方は金貨が100枚、品物は結構な量の香辛料。


おお! 確かに金は貰って嬉しいのだが、この香辛料は、遥かに貴重である。


現在のボヌール村は、氷室を造ったお陰で、

肉など食料品の保存性は、他の地域に比べて格段に優れてはいる。


だが、こういった香辛料があると、味が、全然違って来るのだ。


「ありがとうございます! 特に香辛料が嬉しいです」


俺が謝意を伝えると、ラムジさんは喜んで、更に香辛料をくれた。


胡椒は勿論、シナモン、マージョラム、フェンネル、カルダモンなど種類も多い。


前世の生産地を考えると、?が付く微妙さだが、

ここは地球ではない、中世西洋風の異世界――細かい事は気にしないでおこう。


「先にも言いましたが、ラムジさんが、もうひとつ、お願いがあると言っています」


む、お願い? 何だろう?


俺がラムジさんを見ると、彼は意味ありげに微笑んでいたのである。

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