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あくまでも作戦です

 右隣に立つ大きな鬼、雷神と名乗ったそいつの体には、ぴりぴりと電気が走っているのが見えて、やはりコイツが吉光を襲ったのだと私は確信していた。雷神は、大きな雷太鼓を取り出し、ドンドンと鳴らす。するとあれだけ晴れやかだった空が一気に黒い雲に覆われて、目隠しさんとキョンシーくんを狙って雷が降り注いだ。


「どうすんの目隠し!恋白に痛みが入るなら、無闇矢鱈に反撃できないよ!」

「どうするも何も、先に機械を壊して恋白を取り戻すしかない………!」


 雷を交わしながら、目隠しさんとキョンシーくんが確認を取り合う。相手も2体。1体ずつ担当して、その隙を縫って、機械を破壊する。それが目隠しさんたちのざっくりとした作戦………というより、それしか方法がない。


 そして目隠しさんたちが、一気に機械に向かって走り出した。風神雷神も、彼らが機械を真っ先に狙ってくることを見越して、応戦の体勢を取る。風神が大きな団扇を振りかぶり、それを一気に振り下ろすと、突風が吹き荒れて校庭の砂が舞い上がった。一気に戦場は砂嵐に見舞われ、視界が悪くなる。お互いをぼんやりとシルエットとしか判別できなくなってしまった。


「この砂…………」


 肌に当たる砂粒にも、多少の殺傷能力があるようで、目隠しさんの頬や、キョンシーくんの体には小さな切り傷が出来ていた。更には、砂塵で見えない向こうから、突然鋭いかまいたちが飛んでくる。寸前のところで何とか身を交わし、木っ端微塵になることは免れた。


「兄者、これやると俺たちも見えなくなっちまうよぉ」

「そうだったな、すまない弟者。しかしあの小賢しい虫2匹も、我の砂嵐の中ではそう長くは保つまい」


 相変わらずこの場に不釣り合いな、けらけらとした楽しそうな笑い声に、私は風神雷神を睨み付けた。この機械さえ何とかなれば、一気にこちらが逆転できるというのに。私の方でも何かこの機械から脱する方法がないか探ってみる。まずは両腕に繋がれたそれぞれのチューブを引き抜かないか、力任せに引っ張ってみたが、何か不思議な力が働いているのかびくともしなかった。見た目はただの細い紐なのに………。


「ちょっとアンタたち!私を人質に取るなんて卑怯よ!目隠しさんとキョンシーくんと、正々堂々戦いなさいよ!」


 居ても立っても居られなくなって、私は風神雷神に向けて怒鳴り付けた。すると、鬼たちの目がギョロリと私の方を向く。その出で立ちは、お伽話に出てくる鬼そのもので、思わず怯んでしまいそうだ。怒らせたかな………と恐々する私を他所に、風神雷神は大きな体を折り曲げて私を見つめた。


「兄者………威勢の良いおっぱいだ」

「本当だな、弟者。あの2匹の虫を潰したら、存分に可愛がろうではないか」

「そうだね兄者………。どう半分こする?横半分?縦半分?」

「そりゃあ、縦半分に決まっているだろう。横半分だと、上半身の取り合いになってしまうぞ、弟者」

「そうだね兄者!じゃあ縦半分で半分こしよう!」


 何だか恐ろしい話をしている気がして、ぞっと顔面から血の気が引いた。私、縦半分にされる………?そんな悍ましい結末、絶対に迎えたくない。


「目隠しさん!キョンシーくん!痛いの我慢するから、コイツらボコボコにしてぇ!」


 砂嵐の中へ、そう叫んで助けを求めた。先程キョンシーくんが雷神に攻撃した時、確かにチューブに繋がれた私に痛みが入ったものの、あくまでもそれだけで、ダメージ自体は風神に入っているようだった。言うなれば、感覚だけを肩代わりしている、といったところか。ならば、痛みさえ我慢すれば………。


「馬鹿を言うな。ショック死する可能性があるぞ」

「え、そうなの!?」

「あまりの痛みならば、あり得なくはない」


 返ってきた目隠しさんの冷静な言葉に、私は押し黙った。ダメージが無ければ大丈夫なんじゃないかと思っていたが、どうやらそういう訳にもいかないようだ。だとしたらやはり、この機械を壊すしかない。


 しかし、風神雷神の攻撃の手は止まない。黒い雲は一生目隠しさんとキョンシーくんを追いかけ、その頭上から雷を降り注ぐ。少しでも足を止めれば黒焦げになるだろう。更には、砂嵐で視界が悪い中、見えない位置からかまいたちが飛んでくる。ただでさえ、砂粒の地味な攻撃が蓄積して、目隠しさんたちの体力を徐々に削っているのだ。これでは時間の問題かもしれない。


「蝿みたいにちょこまかと…………」


 なかなか仕留められずに痺れを切らした雷神が、再びドンドンと雷太鼓を叩いた。すると今度は、目隠しさんとキョンシーくんの足が地面に引っ付いて動けなくなる。


「っ!?」

「………っ!磁場か………!」


 身動きが取れなくなった2人に、今がチャンスと言わんばかりに、風神雷神の攻撃が襲い掛かる。目隠しさんには、風神のかまいたちが。キョンシーくんには、雷神の雷が降り注いだ。


「目隠しさん!!キョンシーくん!!」


 仕留めただろうと安心し、手を止めた風神雷神によって、ずっと視界を遮っていた砂嵐が徐々に晴れていく。その中で、私の視界に入ったのは、地面に手を付く目隠しさんたちの姿だった。


「ぐっ…………」

「が…………っ、ク……ソ………っ!」


 目隠しさんはボタボタと血を垂らして明らかに重傷、キョンシーくんは所々に大火傷を負っていて、ピリピリと体は麻痺しているようだ。やっぱり、反撃できないのでは状況差があり過ぎる。這い蹲る目隠しさんたちの姿に、風神雷神は大喜びではしゃいでいた。


「やったね兄者!俺たちの連携プレーだ!」

「ああ、よくやったぞ弟者!あとは捻り潰して食うだけだ!」


 フラフラと立ち上がる目隠しさんとキョンシーくんだが、このままではとても応戦できる状態じゃないのは、私から見ても明白だ。どすん、どすん、と巨体を揺らしながら、満身創痍の彼らに近づいて行く風神雷神の背中を見つめる。何とかしなきゃ、何とかしなきゃ、と頭をフル回転させて、目隠しさんたちを救う方法を考えた。


(何か………、何かアイツらの気を引ければ………!)


 少しでも時間を作れれば、その間に目隠しさんたちが何とかしてくれるかもしれない。私の力では風神雷神を倒すことはできないが、ちょっと気を引ければそれだけでいい。私は、今までの出来事を思い返しながら、風神雷神の興味を引くものが何かをとにかく必死で考えた。そして辿り着いた答え。私は、ゆっくりと己の体を見下ろす。風神雷神によって破かれたワイシャツは、今も変わらず無防備に胸の谷間を晒している。思い出せ、コイツらは恐ろしい鬼の前に、くだらないほどに変態だということを。


「風神雷神!!!」


 腹の底から声を張り上げ、目隠しさんたちに向かう大きな背中を呼び止めた。巨体2つがぐるりと顔をこちらに向ける。と同時に、地面に倒れる目隠しさんとキョンシーくんも、一体何をするつもりだと訝しげに私を見ていた。こんな事を言うのは、本当は嫌だしすごく恥ずかしいけれども、それで目隠しさんたちを助けられるのならば。………意を決して息を吸い込む。


「お………おっぱい、触ってもいいから!!こっち戻ってきて!!」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」


 全員が、シン、と静まり返る。風神雷神は、私のその発言を受けてもしばらく無言のままで、恐ろしい表情で私を睨み付けていた。だ、だめか、おっぱいなんかに釣られる程、こいつらもそこまで馬鹿じゃ…………。


「本当か!?!?」

「行く行く!すぐそっち行くから!!」


 馬鹿、だったみたいだ。目をキラキラさせて、鬼2人は一気に私の方へ意識を向けた。まるで子供のように走る巨大な鬼たちに、私もポカンと固まる。こんなにも上手く行くなんて思っていなかったのだ。しかし、ならば好都合。この間に目隠しさんたちが…………


「恋白………貴様何を馬鹿なことを………」

「君が許しても僕が許せないんだけど」

「えっ、何で私に怒ってんの!違うって!この隙に早く!」


 ウインクでもして目配せしようと視線を移した先には、何故か目隠しさんとキョンシーくんがユラユラと怒りのオーラを私に向けていた。違う、そうじゃない。これは作戦であって、決して本意では………。そんなこちらの気も知らず、目隠しさんたちは己の怪我の具合も忘れて立ち上がると、恐ろしい殺気を纏っていたのだ。

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